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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第十章 第二次ブラスベルグ攻勢
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総攻撃開始


「同志団長、攻撃準備完了しました」


「うむ」


 双眼鏡をゆっくりと下ろし、早くも火柱が噴き上がっている国会議事堂の方を睨みつけながら、ホムンクルス兵の報告を聞く。既に内部に侵入したスペツナズの兵士たちが敵と戦闘を繰り広げているらしく、国会議事堂の外部で攪乱と狙撃を行っているスペツナズ第二分隊からの報告では、敵の防衛ラインはもう穴だらけであり、突破するのは極めて容易だという。


 だが、我らの目的は突破ではない。


 敵を皆殺しにする事だ。


 9年間もクレイデリアの大地に我が物顔で居座っていたクソ野郎共を、根絶やしにする事だ。


「カチューシャ、前へ!」


 隣で双眼鏡を覗き込んでいた姉さんが、後方で待機していたT-34の群れへと命じた。その命令を聞いた車長たちが砲塔の中へと引っ込んだかと思いきや、車体の後部に小型の車両を牽引しているT-34たちが動き出し、突撃準備を終えている歩兵部隊の前にずらりと展開した。


 車体の後部に牽引されている小型の荷台にも似た車両には、無数のロケット弾が装填された発射機がびっしりと取り付けられている。


 クレイデリアの首都を制圧するために、力也が生産しておくように勧めてくれた『カチューシャ』という兵器だ。簡単に言うと、大量のロケット弾をこれでもかというほど敵へと撃ち込む事ができる兵器である。力也が住んでいた世界のソビエト連邦という国が、大昔に勃発したドイツという国との全面戦争に投入して猛威を振るった兵器だという。


 その兵器を、これから我々も使用するのだ。


『カチューシャ、攻撃準備完了』


 カチューシャを搭載したT-34の車長からの報告を聞いた私は、腰に下げていた刀を鞘の中から引き抜いた。あらわになった漆黒の刀身を夜空へと掲げ、敵陣を睨みつけながら振り下ろす。


「――――――放てぇッ!」


発射アゴーニ!』


 発射機に搭載されていたロケットの後端部が、一斉に火を噴いた。小ぢんまりとした荷台に搭載された発射機から解き放たれたロケットたちが、燃え上がる炎以外の光源が殆どなくなった廃墟の頭上へと緋色の炎をばら撒きながら、国会議事堂へと飛翔していく。


 ロケット弾で形成された”壁”が天空から襲来するかのような濃さの贅沢な弾幕が、国会議事堂や周囲の建物に立て続けに直撃した。暗闇の向こうに緋色の閃光がいくつも煌き、閃光の端が黒煙と化した頃に、爆音が私たちの所へと到達する。


『ブオォォォォォォォォォォッ!!』


 着弾を確認した直後、隣にいた姉さんが迷彩模様の法螺貝を吹いた。


 普通の軍隊ではラッパとかホイッスルを突撃の合図にしているそうだが、我が騎士団では創設時から法螺貝を使っている。突撃の合図どころか、訓練を受けている新兵たちに起床を告げる時にも使われている。我が騎士団には欠かせないものと言っていいだろう。


「祖国奪還まであと一歩だ! 突撃ぃッ!」


『『『『『Ураааааааа!!』』』』』


 兵士たちの士気は、極限まで高くなっていた。


 刀を振り下ろして命じると同時に、銃剣付きのモシンナガンM1891/30を抱えていた兵士たちが突撃を始めた。戦車たちもロケット弾を撃ち尽くした荷台を切り離し、エンジンと履帯の音を響かせながら、歩兵たちと共に前進を始める。


 頭上を通過していった3機のF4Uコルセアの編隊が、応戦しようとしていた敵兵の群れに機銃掃射を叩き込む。暗闇の向こうから敵兵の悲鳴や、肉片が飛び散る音が聞こえた。


 先ほど着弾したロケット弾は、ちょっとした照明弾としても機能していた。着弾した場所が未だに燃えているおかげで、国会議事堂の周囲は随分と明るくなっている。それに対して私たちの後方には光源は殆どない上に制服が黒いため、敵からすればこちらがどこにいるのか非常に分かり辛いだろう。


 健在だった重機関銃の射手が、水を入れておくためのタンクに穴が開いたボロボロの重機関銃で応戦してくる。オークやハーフエルフの兵士を追い抜いて先頭を走っていたホムンクルス兵たちに数発のライフル弾が命中したが、一瞬だけ火花を散らしたかと思いきや、甲高い音を奏でながらどこかへと跳弾してしまう。


 彼女たちの遺伝子のベースになっているのは、初期のキメラの1人であるタクヤ・ハヤカワである。彼―――――”彼女”という説もあり、遺族たちもよく分かっていない―――――の遺伝子を受け継いでいるのだから、あのホムンクルス兵たちの種族もキメラという事になる。


 そう、キメラの外殻で命中した筈の弾丸を跳弾させてしまったのだ。


 オークやハーフエルフの兵士も屈強な肉体を持っており、弾丸が被弾した程度では突撃を決してやめない。大昔の戦闘でも、『立て続けに被弾したオークの兵士が血まみれになりながら突っ込んできた』と証言する敵兵が何人もいたという。


 だが、キメラの外殻を盾にできる彼女たちは、その気になればノーダメージで敵陣へと肉薄できるのだ。


 やがて、先頭を走っていたホムンクルス兵たちが、敵部隊が迎撃のために用意していた鉄条網を魔術で吹き飛ばして、積み上げられた土嚢袋を乗り越えた。塹壕の中へと飛び込んだかと思うと、落下しながら敵兵の頭にスパイク型銃剣を突き立てて殺し、応戦しようとしている敵兵をハンドガンで次々に射殺し始める。


 ヴァルツ帝国軍が恐れているのは、テンプル騎士団と白兵戦になる事だ。


 敵軍では指揮官が『テンプル騎士団兵が1人でも肉薄して来たら終わりと思え』と教育している部隊もあるという。蛮族だと決めつけて見下している割には、随分と恐れているようだな。


 刀を引き抜いたまま、私と姉さんも塹壕の中へと飛び込んだ。ホムンクルス兵を羽交い締めにしようとしていた敵兵の後頭部を南部大型自動拳銃で撃ち抜き、スコップを振り上げて突っ込んできた敵兵の首を刀で切断する。血を撒き散らしながら落下した首を蹴飛ばして後続の敵兵へとぶつけ、その兵士が怯んでいる隙に眉間を拳銃で撃ち抜いた。


 小ぢんまりとした薬莢が地面へ落下するよりも先に、姿勢を低くしながら大太刀の柄に手を近づけた姉さんが、私を追い越して敵兵の群れへと突っ込んでいく。敵兵が放った弾丸を回避しながら距離を詰めたサクヤ姉さんは、ゆっくりと息を吐きながら目を瞑る。


 彼女が何をするつもりなのか、理解した。


 ――――――居合斬りだ。


 漆黒と翡翠色で彩られた外殻が彼女の真っ白な手を一瞬だけ覆ったかと思うと、ドラゴンの外殻で覆われたサクヤ姉さんの手が大太刀の柄を掴み、凄まじい速さで大太刀を引き抜いた。


 姉さんに肉薄された3人の兵士の肉体が、手にしていた銃剣付きのライフルもろとも切断される。断面が一瞬だけあらわになった直後、大量の鮮血や内臓が断面から溢れ出し、対空機銃から排出された薬莢で覆われている塹壕の中を真っ赤に染め上げた。


 唐突に、遠距離で機関銃の準備をしていた敵兵や、迎撃するように命令を出していた指揮官たちが頭を揺らし、次々に崩れ落ちていく。誰かが援護してくれているのだと確信しながら周囲の建物のベランダや屋根の上を見上げてみると、漆黒の制服とバラクラバ帽を身に纏った兵士たちが、サプレッサー付きのモシンナガンで敵兵を狙撃してくれていた。


 先行したスペツナズの第二分隊たちだ。


 しかも、彼らは白兵戦を繰り広げている私たちを攻撃しようとする後方の敵兵を優先的に狙撃してくれているため、敵部隊は塹壕の中で応戦している友軍を迂闊に支援する事ができなくなっている。


 前衛と後衛が、見事に寸断される。


 面白い。各個撃破はタンプル搭放棄後のテンプル騎士団のお家芸だ。


 後続の戦車部隊も、戦車砲で野砲もろとも敵の砲手たちを木っ端微塵にしてしまう。敵兵の中には武器を捨てて降伏しようとしたり、逃げ出そうとする兵士もいたが、祖国を奪われた挙句、9年間も虐げられ続けたテンプル騎士団兵たちが彼らを見逃すわけがない。


 この戦いは、彼らの報復でもある。


 逃亡しようとする敵兵の背中を掴んで塹壕の中へと引きずり戻し、数名の兵士が棍棒やスコップでその兵士をひたすら殴り続ける。降伏しようとしていた兵士を押し倒した傷だらけのオークの兵士が、カルガニスタンの部族の言語で『娘を返せ』と叫びながらヴァルツ兵の首を絞め始めた。


 南部大型自動拳銃のマガジンを素早く交換し、塹壕を突破して国会議事堂の方へと肉薄する。鉄条網を刀で切断し、奥にあった塹壕の中へと飛び込んだ。


『Gik, Γaght au beudan!(待て、撃つな!)』


 銃口を向けられた敵兵が、手にしていたスコップを投げ捨てながら両手を上げ、ヴァルツ語で叫ぶ。


 正直に言うと、端末を持っている第一世代型転生者は羨ましいと思う。確かに戦闘中に端末を紛失すれば一気に弱体化してしまうという欠点があるものの、その端末が翻訳装置を兼ねているため、この世界の言語を勉強する必要がないのだ。自分の母語が相手の母語に翻訳されて聞こえるし、逆に相手の言語が自分の母語に翻訳されて聞こえるという。


 だが、端末を持たずに生まれてくる第二世代型転生者は、相手の言語を勉強して覚えなければならない。


 私が理解できる言語は、オルトバルカ語、高地ラトーニウス語、カルガニスタン語くらいだ。ヴァルツ語もある程度は分かるが、まだ勉強不足である。


「――――――Ёaut(知るか)」


 容赦なく、その兵士の眉間を撃ち抜いた。


 眉間に弾丸を叩き込まれた兵士が、血を流しながら後ろへと崩れ落ちていく。


 先ほど突破した塹壕の奥にあったもう1つの塹壕の中には、武装した兵士は殆どいなかった。かつては弾薬が入っていたと思われる木箱の上には身体中に血まみれの包帯を巻いた負傷兵が腰を下ろしており、その隣には左半身を爆風で捥ぎ取られた試合が横たわっている。奥にはエリクサーすら行き渡っていないのか、傷口を包帯で巻いた負傷兵たちが何人も横になっていて、ヴァルツ語で呻き声を発していた。


 塹壕の中にやってきた私に気付いたのか、その負傷兵の中の1人が目を見開きながら怯え始める。ヴァルツ語で『殺さないで』と何度も言い始めたその兵士に刀を振り下ろして首を斬り落とし、その隣で命乞いをしていた負傷兵を南部大型自動拳銃で射殺していった。


 さっきの塹壕を突破した兵士たちや戦車たちも、負傷兵だらけの塹壕を蹂躙し始めた。武器をボルトアクションライフルからサイドアームのコルトM1911に持ち替えた兵士たちが、重傷を負った負傷兵たちを容赦なく射殺していく。傍らに置いてあるスコップを振り回して抵抗する兵士もすぐに.45ACP弾で蜂の巣にされ、他の仲間たちと同じ運命を辿る。


 履帯の音を響かせながら突っ込んできたT-34が、塹壕の中で横になっている負傷兵たちを履帯で踏み潰した。人間の肉体が戦車の車体に踏み潰され、稼働する履帯に引き千切られていく音が塹壕の中へと流れ込んでいく。


「………馬鹿らしい」


 全くもって馬鹿らしい。


 これは我らの報復だ。9年前に祖国と家族を奪った貴様らへの復讐なのだ。


 あの時、貴様らは兵士だけでなく非戦闘員まで惨殺していったではないか。何人もの民間人が命乞いしていたにもかかわらず、お構いなしに銃剣を突き立て、ライフル弾で風穴を開けたではないか。


 その報復を拒むというのならば、なぜあの時そんな事をしたのだ?


 我らから全てを奪わなければ、こんな苦しみを味わう事もなかったし、全てを失う事もなかっただろうに。


 少なくとも、世界は平和だったろうに。


 娘と妻らしき女性が写った写真を持ったまま、ぶるぶると震えている負傷兵に刀を突き立てて止めを刺しながら私は呟いた。


 馬鹿げてる、と。


 唐突に、国会議事堂の天井が砕け散った。天井に設置されていた勇者の石像が弾け飛び、天井を突き破った電撃の槍が周囲にスパークを纏いながら天空へと飛んで行く。


 おそらく、あそこで戦っているのだ。


 全てを奪われた我々と同じように、クソ野郎共に復讐を誓った悪魔が。


 











 遮蔽物の陰に飛び込んでから、今しがた天井に開いた大穴を見上げながら呼吸を整える。


 くそったれ、何だよあの破壊力は………!


 遮蔽物の陰から飛び出し、今しがた電撃を放ちやがった三原の彼女(美海)にStG44の弾丸を叩き込む。だが、彼女が右手に持っている小型の杖が放出する魔力の防壁のせいで、弾丸たちはまるで戦車の正面装甲に命中したかのように跳弾してしまう。


「だから効かないって。バカじゃないの?」


 そう言って笑いながら、杖をこっちに向ける美海。紫色の結晶が埋め込まれた杖の先端部に紫色の炎が生成されたかと思うと、あっという間に圧縮され、炎の弾丸が形成される。


 アサルトライフルを投げ捨てて慌ててテーブルの陰に隠れようとするが――――――猛烈な熱風が近くを通過していくと同時に、金属が溶けるような悪臭が鼻腔を満たした。


「――――――!」


 ゴトン、と真っ赤になった金属の塊が、会議室の床に落下する。


 先ほど放たれた炎の弾丸が、右腕の義手を直撃していたのだ。肘の部分に着弾した炎の弾丸がフレームを易々と溶かし、内蔵している虎の子のスタウロスをあっさりと溶解させて右の義手を切断してしまったのである。


 真っ赤になった義手の断面を見つめながら、歯を食いしばった。


 本来の腕ではなく機械の腕なのだから、切断された痛みはない。だが――――――転生者を一撃で殺すための切り札が、今の攻撃のせいで使用不能になってしまったのはあまりにも大きな痛手である。


「力也!」


「援護します、隊長!」


「余計なことはするな!!」


 援護しようとしてくれた仲間たちに向かって叫びながら、美海を睨みつけた。


 援護してくれるのはありがたい。切り札が無くなってしまった以上、勝ち目は一気に下がってしまったのだから、はっきり言うと仲間達にも一緒に戦ってほしい。だが、会議室の外にはここへとやってきた敵の警備兵たちが殺到してきているのでジェイコブやコレットたちはそいつらの相手をしなければならない。


 外から攻撃してくる敵兵と銃撃戦を繰り広げている仲間たちを見てから――――――俺は覚悟を決めた。


 フィオナ博士が用意してくれた、”もう一つの切り札”を使う覚悟を。


「あら、死ぬ覚悟でも決まった? ふふふっ、安心しなさいよ。あの世にいる妹の所にちゃんと送ってあげるから♪」


「………お前、バカかよ」


「え?」


 先ほどの魔術が掠めた際にボロボロになった制服の上着を脱ぎ捨てながら、嗤った。


 あまりにも愚か過ぎる。


 端末の機能に頼り切っている典型的な転生者だ。圧倒的な力を何度も目の当たりにしているせいで、大半の敵を見下してしまっている大馬鹿者。


 それに、俺はきっと明日花の所へは逝けない。


 彼女は絶望を経験しても、必死に生きようとしていた。困っている人を何度も助けていたし、俺の事も何度も助けてくれた優しい子だ。だから、彼女がいるとしたら間違いなく天国だろう。


 それに対し、俺は彼女の復讐のために何人も敵を殺してきた。負傷兵を当たり前のように惨殺したし、命乞いする兵士もぶち殺してきた。だから、行くとしたら間違いなく地獄だろう。


 ああ、俺はそれでいい。出来るなら最愛の妹と一緒に眠りたかったが、地獄に落ちるというのならば喜んで煉獄の業火に飛び込んでやろうではないか。


 だが―――――――地獄へ行く前に、復讐だけは果たす。


 復讐さえ果たせれば、この肉体と魂がどうなってもいい。死後の世界で永遠に苦痛を味わっても構わないし、消え去ってしまってもいい。明日花の仇を取る事さえできれば、俺はどうなってもいい。


 だからこの力を与えてもらったのだ。


 歯を食いしばりながら、あらわになった胸板に埋め込まれている機械を見下ろした。心臓の辺りに、手榴弾の安全ピンを彷彿とさせる金属の部品が埋め込まれている。一見すると自爆スイッチのように見えるかもしれないが――――――これは、切り札の発動スイッチなのだ。


「悪魔が行くのは地獄に決まってるだろうが」


 ニヤリと笑いながら、胸に埋め込まれている安全ピンを引き抜いた。








「――――――教えてやるよ。異世界で復讐者が現代兵器を使うとどうなるのかを」






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