表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第十章 第二次ブラスベルグ攻勢
136/744

首都への進撃


 ブレーキの音が聞こえたかと思うと、真っ暗なトンネルの真っ只中で列車がゆっくりと減速し、かつては地下鉄のホームだった場所で停車した。


 義手を伸ばして扉を開き、左手に持ったランタンで周囲に敵が潜んでいないか確認してから、車両に乗っている仲間たちに「よし、降りろ」と告げる。


 当たり前だが、現在では使われていない駅のホームであるため照明は全くない。以前は焚火に使っていたのか、錆び付いた上に黒焦げになっているドラム缶の中には、真っ黒になった小さな板が何枚も収まっている。けれどもそれが燃えて緋色の光を暗闇の中に煌かせていたのは随分と昔のようで、黒焦げになった板たちはすっかり冷たくなっていた。


 コンクリートのホームには埃や小さな瓦礫が散乱しており、清掃員が清掃した形跡はない。レジスタンスたちはこのような使われていない地下鉄の駅をアジトにしているらしく、今しがた俺たちが降り立った駅のホームもそのアジトのうちの1つと言われているが、あまりにも人がいた形跡が無さすぎるせいでその情報が誤っているのではないかと疑いたくなる。


 黒い制服に身を包んだスペツナズの兵士たちが俺の前にずらりと整列する。いつものように俺の目の前に並んだ隊員たちの顔を見渡していると、改札口へと上がっていくための階段の方から小さな足音が聞こえてきた。


 念のために右手をコルトM1911の収まったホルスターに近づけながら、階段の方を振り向く。


 埃まみれの階段から降りてきたのは、灰色の上着とハンチング帽を身に纏った中年の男性だった。傍から見れば工場の労働者のように見えるが、彼が手に持っている得物のおかげで労働者ではなくレジスタンスの構成員だという事がすぐに分かった。


 彼が装備しているのは、円柱状のパーツの左側面にマガジンを装着したような外見をしている、『ステンガン』と呼ばれるSMGサブマシンガンだった。


 第二次世界大戦中にイギリス軍が大量生産していた銃だ。高性能な銃とは言えないが、コストが極めて低く大量生産し易いという大きな強みがあったため、ステンガンは大量生産され、ドイツ軍と真っ向から戦ったイギリス軍だけでなくフランスやポーランドのレジスタンスたちにも支給され、強大なドイツ軍と死闘を繰り広げている。


 コストが低いという特徴が反映されているのか、転生者の能力で生産する場合もそれほどポイントを使用しないという利点がある銃だ。俺の端末でももう作れるSMGサブマシンガンのうちの1つだが、スペツナズは質を重視した部隊なので、低コストの武器よりもコストの高い高性能な武器を支給するようにしている。


 コストが低いおかげで兵士たちへの装備の支給に大きな影響が出ないからこそ、これをレジスタンスたちに支給したのだろう。あまり高性能な銃ではないとはいっても、この世界ではまだ歩兵の装備はボルトアクションライフルと銃剣であり、近距離戦闘用の銃はショットガンや、ハンドガンにロングマガジンとストックを装着したピストルカービン程度だ。こっちの世界では、まだSMGサブマシンガンという概念すら誕生していないため、ステンガンがどれだけ大きなアドバンテージを持っているかは言うまでもないだろう。


 ちなみに、姿を現した中年のレジスタンスの構成員が持っているのは『ステンMk.Ⅱ』と呼ばれるモデルだ。


「テンプル騎士団か?」


「ああ。あんたこそ、レジスタンスのメンバーか?」


「その通りだ。………よく来てくれたな。話は聞いたぞ、タンプル搭を奪還したそうじゃないか」


 銃を下ろしたレジスタンスの男性は、微笑みながら右手を差し出してきた。ホルスターに近づけていた右手を革製のホルスターから放し、俺も彼のがっちりとした手を握る。中年の構成員は俺の右腕が義手だという事に気付いたらしく、自分の右手を握っている手を見た途端に一瞬だけぎょっとした。


「案内するよ。こっちに仲間がいる」


「あんたらの戦力は?」


「訓練を受けた労働者が30人だ。他の駅にも仲間たちがいるよ。銃と予備の弾薬も、あんたらが密輸してくれるおかげでちゃんと行き渡ってる」


 この駅には30人か………。


 レジスタンスの構成員たちには、武器の密輸を行ったエージェントたちが銃の使い方や戦い方などを指導していたという。なので敵兵と戦う事はできるかもしれないが、しっかりとした訓練を受けているテンプル騎士団の兵士と比べると錬度はそれほど高くはないだろう。


 かつては改札口だった場所を通過すると、駅員たちの詰所らしき場所の周囲に私服姿の男性たちが集まっているのが分かった。真ん中には際突いたドラム缶が置かれていて、その中で燃えている炎が周囲に熱と緋色の光を拡散させ続けている。


 そこに集まっているのは男性だけではなかった。薄汚れた服に身を包んだ女性や、父親の物なのか、やけに大きな軍帽やボロボロのヘルメットをかぶった子供もいる。


「クルト、その人たちは?」


「テンプル騎士団の人たちだ」


「そいつらが?」


 焚火の周囲に集まっていたレジスタンスの兵士たちが立ち上がり、改札口を通過してきた俺たちをまじまじと見つめる。


 確かに、ここにいるレジスタンスの兵士たちにはちゃんとステンMk.Ⅱと予備のマガジンが行き渡っているようだった。詰所の中に置かれている木箱の中には予備の弾薬でも入っているのだろうか。


 よく見ると、レジスタンスの構成員の中には殺したヴァルツ兵から鹵獲したものなのか、傷だらけのヘルメットやヴァルツ製の手榴弾を装備している構成員も見受けられる。ヴァルツ軍に攻撃を仕掛けた際に鹵獲した装備に違いない。


 かぶっていた赤いベレー帽を取り、レジスタンスたちに敬礼する。彼らもぎょっとしてから慌てて敬礼した。


「セシリア・ハヤカワ団長の命令により、我々は同志諸君を支援するために派遣された。今から4時間後、テンプル騎士団本隊は首都アルカディウスへ総攻撃を実施する。我々は、レジスタンスの同志諸君と共に一斉に武装蜂起し、ヴァルツのアルカディウス守備隊を内側から攻撃して攪乱するのが任務だ。よって、武装蜂起は攻勢と同時に行う。この事は他の駅の構成員にも伝達しておくように」


「わ、分かった。ピエール、隣の駅に行って情報を伝えろ。ついに俺たちの国を取り戻す時が来たぞ!」


「おう、任せろ!」


「それと、1時間後に作戦会議も行いたい。各レジスタンスのリーダーにここに集まるように伝えてくれ」


「了解だ」


 この作戦が成功すれば、クレイデリアの首都アルカディウスは奪還され、クレイデリアに駐留するヴァルツ軍は大損害を被ることになるだろう。もちろん、他の都市にもヴァルツ軍は駐留しているが、総本山と言えるクレイデリアをテンプル騎士団に奪還されればクレイデリアの再占領は絶望的となる。大戦力を投入すれば再占領も可能だろうが、そうすればヴァルツ帝国の存亡を左右する春季攻勢を断念せざるを得なくなるため、そのための虎の子の戦力まで投入してクレイデリアを再占領しようとすることはないだろう。


 首都を奪還した後は、戦力の再編成と軍拡を行いながら、クレイデリア国内のヴァルツ軍を根絶やしにしていけばいい。


 他の駅へと向かう伝令を見送りながら、俺は一緒に連れてきたスペツナズの兵士たちに休息をとるように命じ、近くの木箱へと腰を下ろすのだった。












「最初に第一守備隊の司令部となっている市役所を制圧しよう」


 アルカディウスの地図に書かれている市役所を指差しながら、レジスタンスのクルトが言った。


 偵察を行っていたレジスタンスの構成員によると、タンプル搭陥落を知ったアルカディウス守備隊は本国へと増援を要請しつつ、市役所や図書館などを守備隊の司令部に改造して応戦する準備を整えているという。


 当たり前だが、アルカディウス市内にある図書館や市役所は司令部として使用されることを想定していない。最初から軍用の設備として使われることを想定していない以上、攻撃して攻め落とすのは容易だろう。


「その後は他の司令部を――――――」


「いや、短期決戦で行こう。市役所を制圧したら、そのまま総司令部となっている国会議事堂を攻め落とす」


 そう言いながら、アルカディウス市の中心部に鎮座する国会議事堂を義手の指で指差す。


 国会議事堂は、現在ではヴァルツ帝国軍の総督府として機能している。クレイデリアに駐留しているヴァルツ帝国軍の総司令部と言ってもいい。警備は厳重だろうが、もしここを攻め落とす事ができればアルカディウス守備隊は他の守備隊と連携を執る事ができなくなるため、容易に各個撃破できるようになる。更に守備隊に司令部からの情報や命令も届かなくなるため、彼らは戦況を把握する事ができなくなる。


 脳味噌が唐突に機能を停止するようなものだ。


 国会議事堂を指差しながらそう言うと、他の駅から集まってきたレジスタンスのリーダーたちは目を丸くした。


「無理だ………いくら君たちが一緒とはいえ、我々だけで国会議事堂を攻め落とすのは………!」


「市役所を制圧する頃には、陸軍と海兵隊の部隊も合流しているだろう。彼らと共に行けばいい」


「しかし………国会議事堂には転生者の女がいるんだぞ?」


「なに?」


 転生者の女………?


 てっきり全ての転生者は春季攻勢に投入するために本国へと集められていると思っていたんだが、こんなところに転生者を残しているとはな。春季攻勢に投入するには危険と判断された無能が左遷されていたのだろうか。


「そいつに関する情報は?」


「いや………17歳の女という事しか分からん」


「………………なら、なおさら国会議事堂を攻め落とそう」


 転生者を始末するのは俺の役目だ。


 敵は根絶やしにせねば。


 我々を根絶やしにする前に、牙を剥こうとする敵を根絶やしにするのだ。


 そうしなければ、生き延びられない。


 敵ハ皆殺シニシナケレバ。


「力也?」


「ん?」


 近くにいたジェイコブが、不安そうな顔でこっちを見ていた。


「何だ?」


「いや………お前、疲れてるんじゃないか?」


「別に? 俺は大丈夫だが」


「そうか………いや、すまん。それならいい」


 どうしたんだろうか。


 唐突に変なことを聞いてきたジェイコブを見つめてから、肩をすくめて再び地図を見下ろす。確かに国会議事堂を攻め落とすのは無謀かもしれないが、国会議事堂はアルカディウスの中心部にある。ここを占領する事ができれば、アルカディウス守備隊を分断する事ができるというわけだ。


 それに、国会議事堂に転生者がいるならばそいつも殲滅しなければならない。転生者は強力な存在であるため、対転生者部隊でもある赤き雷雨クラースヌイ・グローザが相手をしなければ他の部隊が大損害を被る。


「よし、全てのレジスタンスをここに集めろ。1時間後に地上へと出て、市役所への攻撃を開始する」


 レジスタンスのリーダーたちにそう命じた俺は、赤いベレー帽をかぶりながら地図を睨みつけた。











 Yak-9Tの編隊が、出撃準備を終えた戦車部隊の頭上を通過していく。エンジンの音を少しずつ橙色に染まり始めた大空に響かせながら飛翔する航空機の群れたちを見送ってから、木箱から取り出したクリップをポーチに収め、傍らに停車しているT-34の車体の上によじ登った。


 アルカディウスはクレイデリアの中心部にある都市であり、戦艦の主砲の射程距離外であるため、残念ながらジャック・ド・モレー級の主砲で艦砲射撃をしてもらうことはできない。


 軍港の空母から出撃したのか、一足先に制空権を確保するために出撃していったYak-9Tたちの後を、F4Uコルセアの群れが追いかけていく。


 紺色に塗装された彼らを見送ってから、エンジンの音を響かせながら待機する戦車部隊を見渡した。


 黒と灰色の迷彩模様で塗装された陸軍の戦車の中に、紺色で塗装されたT-34も紛れ込んでいる。海兵隊に配備されているT-34たちだ。


 陸軍の戦車部隊はタンプル砲の砲撃でかなりの数がやられてしまったため、攻勢開始前と比べると数が減っている。海兵隊の戦車部隊の規模は陸軍よりも小さいため、アスマン帝国の基地から出撃したよりも戦車の数は少なくなってしまった。


 だが、だからと言って攻勢を注視する事は絶対に許されない。


 9年前に、燃え落ちるタンプル搭を見上げながら誓ったのだ。


 必ず揺り籠(クレイドル)を奪還し、復讐を果たしてみせると。


 ここにいる兵士たちは、9年前に全てを失った者たちだ。


 この攻勢を成し遂げることは、その復讐を成し遂げることに等しいのである。


 だから――――――必ず成し遂げる。


 アルカディウスの開放を。


 クレイデリアの奪還を。


「―――――――全軍、出撃!」


 刀を振り上げながら命じた直後、全てのT-34やシャール2Cたちがエンジンの音を響かせながら前進を始めた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ