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13 ドラゴンの話

「どうして地震が起きるか聞いてこいと言われたんだったな。なに、簡単な事だ。鱗が生え変わるのに古い鱗がなかなか剥がれないからこうやって身体を岩に擦り付けていただけだ。簡単に剥がれる時もあるんだが、そうでない時は強く擦り付けるからこんなふうに地響きになるんだよ」


 そう言うなりドラゴンはすぐ近くに出っ張っている岩に身体を擦り付けだした。


 最初は軽くだったが徐々に強くなり、それに合わせて周りの地面まで揺れだした。


「うわっ!」


 立っていられなくなったレオがその場にへたり込む。


「レオ、大丈夫か?」


「ああ、大丈夫。不意打ちで驚いただけだよ」


 僕がレオの近くに飛んで行くと、レオは立ち上がりズボンに付いた土をパッパッとはらう。


「いや、すまんね。何しろ夢中になると周りの事など構っていられなくなるんでね」


 確かに手が届かない場所の鱗が取れなくて気になるのはわかるが、あまりにも周りへの影響が甚大だ。


「どうして地震が起こるのかは分かったけれど、やめる事は出来ないんですか?」


 ドラゴンに尋ねてみるも、何故か残念そうな視線を向けられた。


「そんな他人行儀な話し方はやめてくれないか? 私の事を覚えていないのはわかっているが、もう少し砕けた口調で頼む」


 ドラゴンに懇願されて、それもそうかと納得した。


 仲の良かった人からいきなり他人行儀な態度を取られたら悲しくなるのは当然だよね。


「わかった。それで、どうにか地震を起こさないようには出来ないのか?」


「以前はお前が来た時になかなか取れない鱗を取ってくれたりしていたんだ。だから今回も…と言いたいところだが、その姿じゃ難しいかな?」 


 ドラゴンはそう言うと顔をぐるりと巡らせてレオに視線を移す。


「どうだ、レオ。お前が私の鱗を取ってくれるか?」


 ドラゴンに名前を呼ばれて、レオは人差し指で自分を指差す。


「え、僕? だけど、ドラゴンさんの背中に手が届くかなぁ?」


「なあに、私の背中に乗ってくれても大丈夫だ。フィルバートなんか何度私を足蹴にした事か…」


「え、僕そんな事した?」


 まさか、そんな事をしていたとは、とアワアワする僕を見てドラゴンは「クックッ」と忍び笑いをしている。


 もしかして揶揄われてる?


「覚えていないからってそんな冗談を言うなんて酷いよ」


 ぷう、と頬を膨らませるとドラゴンは「ハッハッハッ」と高笑いをする。


 嬉しそうに笑うドラゴンを見て、早く記憶を取り戻してこのドラゴンに会いに来なければ、と決意を固める。


「わかりました。それじゃ背中に乗せてもらいますね」


「レオも砕けた話し方で構わんぞ」


「わかった。それじゃ」


 レオはそう言うと弾みをつけてヒョイとドラゴンの背中に飛び乗った。


「どの辺の鱗なんだ?」


「もう少し上に登ってくれ」 


 ドラゴンに指示され、レオは更に上へと登っていく。


 僕もレオの手伝いをすべく、ドラゴンの背中の方へと飛んで行く。


 レオが登っていった辺りを見てみると、一箇所だけ他の鱗と少し色が違う鱗があった。


「もしかしてこの色が変わっているやつかな?」


 僕が指でその鱗を触ると、「そう、それだ」と返事が返ってきた。


「これだね。わかった」


 レオがその鱗に指をかけて引っ張るが、なかなか外れない。


「なかなか外れないな。これ、本当に生え変わる鱗なの?」


「ああ、そうだ。ムズムズして気持ち悪いんだ。さっさと外してくれ」


 レオが更に引っ張ると、ブチッと音がして鱗が取れた。


 すると、抜けた箇所からすぐに新しい鱗が生えてくる。


 その生え変わりの早さに僕もレオも驚いた。


「やあ、スッキリした。ありがとう」


 レオはスルスルとドラゴンの身体を伝って地面へと着地する。


「ドラゴンさん、はい、鱗」


 レオが取ったばかりの鱗をドラゴンに差し出すと、ドラゴンは顔を左右に振る。


「いや、私には不要な物だ。レオさえ良ければ貰ってくれ。素材にもなるし、ギルドに持っていけば高く買い取ってくれるはずだ。欲しければ他にもあるぞ」


 ドラゴンが顎をしゃくるのでそちらに目をやると、生え変わった鱗がこんもりと小高く積まれていた。


「こんなにあるの?」


「ああ。フィルバートも鱗を取ってくれたが、素材として欲してた訳じゃないからな。時々、気に入った人間に渡すために持っていったりしていたが、そんなに頻繁に渡す事もなかった。それほど人間に接する事も無かったからな」


 レオは鱗の山から何枚か抜き取ると、大事そうにポケットにしまった。


「それだけで良いのか。全部持っていってもいいんだぞ」


「いや、いいよ。そんなにたくさん持っていくと、『ドラゴンを倒した人間』みたいに認識されると困るからさ」


「フッ、なるほどな。私も『人間に倒されたドラゴン』と認識されたくはないな」


「もう他に生え変わりそうな鱗は無いのか?」 


「ああ。これで後十年くらいは大丈夫だろう。次に生え変わる時はフィルバートが手伝ってくれる事を願ってるよ」


「わかった。僕もそれまでに元の身体と記憶を取り戻すよ」


「待ってるよ」


 僕とレオはドラゴンに別れを告げ、ノームのおじいさんの元へと戻っていった。



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