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ポスト・ユニバース  作者: 我楽娯兵
加速・疾走・詮索
57/58

第57話

 新たなるドラゴを受け取る為、俺達はピッツバーグ軍事研究工廠へと来ていた。

 ペンシルベニア州ピッツバーグと言えば、古くから産業の街であり、造船業や鉄鋼業など、鉄を扱わせたならアメリカ随一の街でありその歴史は深い。

 高等教育や研究機関、文化施設などもあり今世紀の混乱の時代であっても歴史文化は色褪せず、より知識を深めている土地だった。

 そんな都市の中、中洲の小島『ブルーノット島』にピッツバーグ軍事研究工廠があった。元は変電所であったが、人口都市一極集中化した街で大電力の消費と、変電変換送電ケーブルの開発で変電所は悉く世界各地で払下げになり、ブルーノット島の変電所もただの廃墟に成り果てる定めだった。

 が、捨てる神あれば拾う神ありと言う言葉がある通り、R.G.I社が跡地を買い取り軍事研究工廠へと変貌を遂げたのは言うまでもないだろう。

 ここは云わばアメリカでの最新鋭のドラゴ・シェル・スケールを研究、製造、実用化まで持ってきている数少ない工廠である。


「止まって。IDの認証をします、少々お待ちを」


 フル装備の警備員。

 彼らも俺達と同じ、ホーク・ディード社の戦闘担当社員である。

 唯一違うとするなら、彼らは所謂キャリア組。偉い大学や学校を出て将来、俺達ヒラ社員を扱き使う連中だった。

 スキャナーで水素エンジン車全体をスキャンし俺達のIDを認識したのか、警備員はゲートを開き通してくれた。

 俺達はブルーノット島に踏み入り、そして俺達に宛がわれた『ワンオフ機』を取りに来ていた。

 工廠、工場と言うのはどれも外観が一辺倒で代わり映えが無い、国を跨いだとしてもそれは変わらない。近代化されオートメーション化されても、人がいるのは、偏に人は安価で汎用性が高い人的資源である為だった。

 ドラゴの製造は自動車と同じで、巨大な鉄資財のロールをカットしプレス機やなんやらでフレームを作る工程からだ。

 そこから、ゲルシリンダー、超伝達動力性可塑液を封入した脊椎ユニットにフレームを取りつけ内線ケーブルを設備すれば、あらビックリ、もうプレーンのドラゴが完成だ。と言っても、ここではプレーンのドラゴを作る工場ではない。

 そのオプションパーツ、装備を製造する為の工廠である。

 筋肉アクチュエータ群や頭部センサー、軟殻、ドラゴ対応銃火器を製造している。

 ドラゴ規格改良ブローニングM2重機関銃やアンツィオ20mmドラゴ改良狙撃ライフル、小型球状多視覚索敵ドローン『アイ・ドール』などをメインに製造している。


「工廠に入るのは初めてだろう? 。楽しい楽しい工場見学と行きたいが、時間も押しているから、サッサッと機体を貰いに行こうじゃないか♪」


 班長はそう言い、水素エンジン自動車を車庫へと止て、奥の研究区画へと俺達を導いてくれた。

 ここピッツバーグ軍事研究工廠は二つのエリアで区切られている。

 一つは先ほども述べたように携帯装備群や筋肉アクチュエータ群など機体拡張装置群などの製造工場だ。

 そしてもう一つ、研究開発エリアだ。ここが重要な場所で、セキュリティも並の警備ではない。俺達は体に付けたあらゆるスマート端末を押収され管理保管される。他にも行動監視の名目で、頸部に代謝性位置追跡装置を注入される。

 この代謝性位置追跡装置は中々に万能で、不審者と認定された人物を電気的に気絶させる機能を持っていて、もし俺達が不審者と思われたのなら白目を剥いて泡を吹く事になるだろう。

 まあ何であれここは俺の足りない脳味噌では何が行われているか点で判らない研究がなされている。

 そしての研究開発室はアメリカのダーパ、国防高等研究計画局の戦術技術室とも連携し共同研究をしていて、主にドラゴの装備の研究開発をしている。

 お国の、アメリカ国防総省直轄の組織と共同研究とは驚きだが、一つ忘れてはいけないのがR.G.I社とその子会社であるホーク・ディード社は民間軍事会社で、アメリカ国防総省の指図を受けずそれらを研究している。

 まあ、簡潔に言うのなら『非人道的』な兵器を作ろうともお咎めはほぼほぼないに等しい。何故なら民間で開発されたそれらは対『人間』用として販売はされず『狩猟目的』と言う建前の元で販売が成される。

 と言う事はだ、あり得ない程の大口径火器をR.G.I社が製造して、ホーク・ディード社に卸しても、何の問題は発生しない。

 第一問題として、それらが国からお咎めを食らったとしてもR.G.I社とアメリカと言う国家はズブズブで、咎める相手がいるとすれば国連組織、という事になる。

 研究者はどんな経歴、どんな経緯であろとも問題はなく、ここで評価されるのは如何に効率的に戦場で優位に戦術的な展開が出来るか、それを可能とする兵器の開発こそ、ここでの絶対条件で、奇抜なアイディアで不効率な殺戮兵器を開発するよりも、効率よく制圧、撃滅する火器が求められそれらを開発できる科学者がここでの絶対王者だった。


「遅かったな。一体何をしていた? 。楽しい工場見学か?」


 分厚い防弾アクリル扉の先から現れたのはドクで、苛立たし気に、煙草が吸えない現場が頗る居心地が悪いようでガムを噛んでいる。


「済まない済まない。セキュリティが頑丈でね、ここに来るまでIDの確認作業が多かったんだ」


 班長がそう楽し気に言って見せるが、ドクはそんな様子にただでさえイラついている様子を更にイライラさせている。眉間に青筋が浮かんでいても可笑しくはない様子だった。


「何だっていい。早くしろ、フィッティング作業が押してるんだ」


 ドクの案内で俺達は工廠の研究区画の最奥、セキュリティも最大レベルの区画に入った。

 そこは完成品の兵器群のテスト区画であり、どの国の兵器カタログにも記載のないR.G.I社が独自に開発した兵器群だった。

 最終調整品が動作テスト待ちの列が出来ていて、それらは基本的にドラゴの装備オプションであり、ドラゴ規格改良ブローニングM2重機関銃の後期開発の新型機関砲が、防弾エリアで火花を散らしている。別の区画では防弾素材の対環境テストを行っている、またまた別の所では三次元音波及びレーザー反射立体索敵スキャンレーダーの機能テストをしている。

 どれも、実用化されれば非常に優位に事を運ぶことのできる兵器装備たちであり、R.G.I社の資産たちだった。


「お前そっち、あんたはそれ、お前はこっちだ」


 ドクがそう言い俺達をドラゴの中に押し込もうと大忙しの様子で、俺の目の前にそれが見えた。

 それは非常にシャープな印象を受ける機体で、恐らくこの地球上最も技術的に上位にいるであろう兵器だった。

 試作型第三種機プロトタイプ・アンノウン量子次元構築平行思考(トリニティ・ペルソナ)装甲駆動被服ドラゴ・シェル・スケール“ノーレア”。

 この工廠は元は宇宙開発用プログラムの為の施設であり、本来はドラゴの拡張オプションなど開発せず、エグゾスケルトン、強化外骨格の開発を目的とした工廠だったが、オール・フォーマットの影響とドラゴ・シェル・スケールの登場で強化外骨格(エグゾスケルトン)はお払い箱になってしまった。

 ドラゴは強化外骨格と違うのか? 。という質問が飛んで着そうなので答えておく。

 一応ではあるが、ドラゴは自律行動が可能な無人兵器。その無人化で生じる稼働活動障害範囲が、有人搭乗状態と比べても格段に劣るのが現状なのだが。

 そんな問題点もありながら完全無人化の出来ない強化外骨格(エグゾスケルトン)とも違い、無人兵器化可能な兵器群、巨大じゃない巨大ロボット、小型モビルスーツといった見方もできる。一番近いのがアーマードトルーパーなのだが、一番の強化外骨格(エグゾスケルトン)違いと言う点で言うのなら、やはり脊椎ユニット『超伝達動力性可塑液(ゲルシリンダー)』だろう、あれを中心に全てが構築されているのがドラゴであり、人を中心として据えられていないのが一番の違いだろう。

 ともあれ、俺はウッキウキで“ノーレア”の脱着ハッチを開いて、搭乗位置を確認した。これはスカージみたいに前面装甲殻開放型ではなく、後方装甲殻型でグレイと似た降着の姿勢をとっている。

 軟殻は俺の匂いがビッシリついたものであり、ヨルムンガンドからずっと寝食を共にしているモノで、このシリコンの塊に俺のメタデータが入っている。


「フィッティングを開始する。早く装着しろ」


 俺は体をその中に埋め、高鳴る鼓動を抑えながら頭をドラゴヘルムに預け機体を起動させた。


『──|Initializing《起動》──Ready(準備完了)


 起動音声と共にジェネレーターが稼働し、動き始めた。

 俺は降着の姿勢から、直立し腕の動きを確かめるように動かす。

 滑らかな動きだ。まるでドラゴを着ていないような、そう錯覚してしまう程に機械的な膠着動作が少ない。


「あまり激しく扱うなよ。従来のドラゴと違い関節可動範囲のリミッターを付けていない。勢い余って体の関節を明後日の方向に向けて担ぎ込まれるのは嫌だろう」


 ドクがとんでもない事をさらっと言ってくれる。おいおい、バカバカ、馬鹿野郎。関節の可動リミッターを付けてないだと? 。重大な欠陥じゃないか。


「お前たち、もう思考姿勢制御は慣れてくる頃だろう? 。ピューパ素子は十分なほど肉体に定着している。無意識的に関節が逆エビにならないように制御してくれるはずだ」


 そう言うドクだが、怖いもんは怖い。腕振り回して勢い余って腰関節を180度回して見ろ。見るも耐えない、惨殺死体の出来上がりだ。

 そんな事で棺桶に直行したくはないし、何より俺はまだまだ生きたい。

 思考姿勢制御や整備班に不備があるとは思えないが、関節リミッターが無いと言う不安要素は心のキャンバスに落とされた不安要素だ。

 まあでも、頭の中で体がどこまでどう動くと言う事はハッキリとしていてよく理解しているし、体が逆エビに曲がるなんて想像もつかない。

 故に、通常通りに思考の中でドラゴの機体を操縦できて無謀な動きなどしなかった。

 完全に思考姿勢制御の一辺倒では思考が混乱してしまう、それも合ってか軟殻の体姿勢制御方式は残していて、思考姿勢制御は殆どサポートである。


「比嘉のドラゴ。|脚部筋肉アクチュエータ群改修型《プロジェクト:ケリントス》G-12後継第三種機(F-X01)装甲駆動被服ドラゴ・シェル・スケール“イヴ”。脚力能力の特化に伴いロードホイールを廃止し、内蔵武装装備群と速力の大幅に向上させるため脚部アクチュエータの構造を一新した」


 過剰に発達している脚部。脚部装甲殻は必要最低限、明らかにアンバランスに見える筋肉配列のそれは尋常ならざる発想から生み出された化け物。

 脚部より現れるモーターブレードが現れ、おどろおどろしい嘶きを鳴らし火花が散った。


『コイツ、最高!』


 柊は大喜びだった。その横で、専用装備群に齷齪している葛藤さんがいた。


「葛藤のドラゴ。|多目的作戦行動対応《マルチオペレーション:マルキオン》97式後継第三種機(F-X02)装甲駆動被服ドラゴ・シェル・スケール“セト”、どんな環境下でも作戦遂行のために多武装装備対応のサブアームを装備した。オプション・ウェポン・データバングの登録武装数は驚きの658種ある。今装備しているのは専用装備『面制圧用機関砲“ブラヴァツキー”』。驚異の弾薬六千発搭載の拠点防衛用の装備だ」


 全体的なシルエットが一回り大きく、そして思わせる城砦のそれは両腕に装備されたブラヴァツキーのせいだろう。

 M61バルカンドラゴ対応改修モデルのそれと、超長距離狙撃ライフルを一緒くたに内蔵したそれらは明らかな過剰積載武装であったが、それらを難なく持ち上げて見せ作業員の誘導で試射場へ誘導されて、その引き金を引くと轟音と共に途轍もない衝撃が俺を叩いた。

 なんて火力だ。並のドラゴの装甲殻では防御も儘ならず木端微塵にするのは請け合いの威力だった。


『とんでもない威力だな……』


 言葉を失っている葛藤さん。

 ドクがこちらを向いて、説明しようとするが。


「お前のは……説明は要らんか?」


「なんで? 。せっかくだから説明してよドク」


「……試作型第三種機プロトタイプ・アンノウン量子次元構築平行思考(トリニティ・ペルソナ)装甲駆動被服ドラゴ・シェル・スケール“ノーレア”。量子AIを内蔵したドラゴだ。電脳戦の際にサポートAI“ノーレア”の演算能力が付加されている。それ以外は特筆すべきところはない」


「かー、簡素な説明」


 ドクは煙草が吸えないことに心底イライラしている様子であった。


「あれ? 。紙白の機体は?」


「あいつの機体は最終調整中だ。まだ渡せない。アイツ自身も少々不可解なピューパ素子の振る舞いが見られる」


 そう言うドクは一応この工廠で開発された最新鋭機『GRX:666“ノルディック”』を宛がわれていた。

 さて、まあこれらはハッキリ言わせてもらうと棚ボタ。今眼前で必要としているモノは別にあった。

 ドクが案内しるそこへ向かった俺達を出迎えていたのは、そう飛行用装備。

 低軌道航行ユニットパッケージだ。

 今後、R.G.I社が大々的に売り出していくであろうそれは、ドラゴの第二種機後期から対応する低軌道飛行ユニットであり、六翼の翼を持ち双発のバーニアジェットエンジンが搭載されたUCAV。それ単体でも十分な攻撃性能を持った戦闘用無人航空機。戦場のトレンドに合わせて言うのなら対地攻撃用航空ドローンと言ったところか。

 ともあれコレが俺達の当面の間の仕事道具となる。飛行ユニット、ドラゴ・レース、何ともワクワクする話じゃないか。

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