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エピローグ:おっさんは乾杯する

Mノベルス様から一巻が4/28に発売されます。そちらもよろしくお願いします!

 決勝戦が始まる。

 相手はアレクルト王子の騎士。

 名をレオンハルト。

 彼はアレクルト王子にいつも付き従い、レベル上げなども共に行っておりレベルが高い。

 そして、レベルが高いだけのぼんくらではない。

 王家の剣指南役に、アレクルト王子と共に鍛えられている。その剣技は速く、鋭い。

 アレクルト王子が、自らの半身と言っていたのも頷ける。

 ただ、一つ難を言うのであれば……。


「剣が素直すぎる」


 魔物相手であれば問題ないが、人間相手では先が読まれてしまう。彼には人間相手の実戦経験が足りていない。

 予備動作は最小限、動きにも無駄がないが、一つ一つの動きから意志が読み取れる。


 だから、俺は彼の剣を余裕を持って受けられる。

 逆にレオンハルトは俺の動きの先読みに失敗する。

 意識的に、いろいろなパターンを臭わせて迷わせたり、あるいは剣を鈍らせてでも虚をついているからだ。

 剣をぶつけ合うたびに、レオンハルトは体勢を崩し、選択肢を奪われていく。

 そして……。


 レオンハルトの持っていた剣がくるくると宙を舞い、俺の放った追撃の剣が彼の額に触れる直前で止められる。


「参りました、ユーヤ様」


 勝者は決まった。

 審判が声を張り上げる。


「勝者、ユーヤ・グランヴォード!! 前回に引き続き、最強の称号を手にしたのはルトラ姫の騎士、ユーヤ・グランヴォードです! 姫を救い、凱旋した騎士は圧倒的に強くなっていた。この場で宣言しましょう。彼はもはや【最弱最強の騎士】ではない、【最強の騎士】だ!」


 客が総立ちになって、拍手を送ってくれる。

 最強の騎士を決める戦いで、俺の強さは認められた。

 決勝での倍率は1.2倍。ほとんどの客はアレクルト王子の半身であるレオンハルトではなく、俺の勝利を信じていたのだ。

 レオンハルトは端整な顔を歪めて、絞り出すように声を出した。


「勝ちたかった。あの人のために」

「君は強い。十年前の俺なら君に勝てなかった。次で勝てばいい」

「今回もそう思って臨んだ戦いでした。まさか、十年で老いるどころか強くなるなんて。あなたは化け物だ。……でも、いつか勝ってみせます。勉強させていただき、ありがとうございました」


 レオンハルトは丁寧に頭を下げて、その場を後にする。

 彼のような部下がいれば、アレクルト王子は安泰だろう。

 審判から、観衆に向かって一言がほしいと要請された。

 頭を悩ませる。考えていなかった。

 しかしすぐに言うべきことは決まった。この場で言うべきことは一つしかない。


「我が勝利、ルトラ姫に捧げる」


 べたべたで恥ずかしいセリフだが、俺はルトラの騎士としてここにいる。

 これが正しいだろう。

 観客も盛り上がっている、とくに女性陣は黄色い声をあげていた。

 少々気恥しい、早くリングを降りたいものだ。


 ◇


 俺がリングを去ってから、新たな王を祝う式典が始まった。

 式典では、リングで新たな王になった王族が挨拶し、そのまま外に繋がる特別なゲートが開き、派手に飾り付けられた馬車に王族が乗り込み街に繰り出して、街を一周するパレードを行う。


 民たちはこの流れでそのまま街に戻り盛大に祝う。

 今日だけは一晩中、多くの店が営業し、再び太陽が昇るまでバカ騒ぎする。

 観光客も多く、ラルズール王国がもっとも熱くなる日だ。


 ルトラがリングの上に出てくる。彼女の隣にはパレードようの馬車が並ぶ。

 彼女は白いドレスを着ていた。

 化粧をしっかりして、髪を結い揚げ王家の至宝である髪飾りを身に着けていた。


「ルトラ、綺麗」

「うわぁ、お姫様みたいだね」

「化粧をすると、もっときれいになると思っていましたが、これほどとは思っていませんでした」


 ルーナたちが、あまりにも美しくなったルトラに見惚れていた。

 俺も同じだ。

 本当にお姫様なんだと改めて実感する。

 ……いや、お姫様ではなく王位継承者なんだが。

 そのルトラが口を開き、魔法拡声器で観客席中に声が響き終わたる。


「みんな、聞いてほしいの。私は継承の儀に勝ち王位継承権を得たわ。そのことを祝福してもらえてすごくうれしく思う」


 ルトラを祝福する声がコロシアム中に響き渡る。


「でも、私には王として足りないものが多すぎるわ。強いだけじゃ、この国を豊かに、民を幸せにできない。だから、私は王にはならない。王になるのは兄上、アレクルト・ラルズール。彼の能力と経験こそがこの国に必要だから」


 ルトラの言葉と同時に、王位を継いだものの証である王冠をかぶったアレクルト王子が現れた。

 民衆たちの反応はまちまちだ。

 敗者が王になる。そのことを良く思わないものもいる。


「今、ルトラが伝えた通り、俺が新たな王になる。だが、あくまでルトラが成長するまでの一時的なものだ。俺はルトラの理想を形にするために全力を尽す。そして、ルトラが、自らで理想を形にできる力を手にしたとき、王位を返すと約束する。……兄妹でいがみ合うのは終わりだ。これからは、力を合わせて、この国と民を幸せにしていきたい。どうか、ルトラと俺に力を貸してほしい」


 誰かが拍手をした。その拍手が徐々に広がっていった。

 民たちが、アレクルト王子が王になることを認めたのだ。


 ルトラとアレクルト王子が選んだ答えはこれなのか。

 今のルトラが王になっても足りないものが多すぎる。

 だから、アレクルト王子が王になり、その指針をルトラが示す。

 そして、いつかルトラに王位を返す。


 ……アレクルト王子はお人よしが過ぎるな、こんな都合のいい条件を呑むなんて。

 だけど、彼らしいとも思う。


「では、パレードを」

「新しいラルズールの誕生に祝福を」


 アレクルト王子とルトラ、二人が並ぶ。

 そして、新たな国に生まれ変わったことを宣言する。

 民衆たちは、ラルズール王国万歳、アレクルト王万歳、ルトラ姫万歳と叫ぶ。

 特殊ゲートが開き、飾り立てられた馬車に二人が乗り、街へ繰り出すと、民衆たちも観客席から飛び出し、走り出した。

 これから、長い長い夜が始まるのだ。


「ルトラ、遠くに行っちゃった。寂しい」

「ずっと一緒だったもんね」

「きゅいぃぃぃ」


 ルーナが泣きそうな声でささやいた。ティルとエルリクも表情が沈んでいる。

 ルーナたちにも、ルトラとの別れになることがわかっているのだ。


 ◇


 俺たちは、王城で借りている部屋には戻らず、どうせならこの祭りを楽しもうと街に繰り出した。

 そうしたほうが、ルトラとの別れの寂しさが紛れるからだ。

 街中が凄まじい熱気だ。

 どの店も、サービスが良く、いつもより安いのに質のいい商品が並ぶ。

 賭けのおかげで、金銭的に余裕があるので、いろんなものを買いこむ。


「ユーヤ、あっちの屋台美味しそう!」

「見たことがない果物だよ」

「調味料がこんなに揃っているなんて」


 みんな楽しそうにふるまっているが、どこか無理をしているようにも見える。

 ルトラの存在はいつの間にか、俺たちのパーティにとって大きなものになっていた。


 ◇


 一通り、買い物を終えたので酒場に入る。

 満席の店が多く、座れるという理由だけで入った店だが、思った以上に料理も酒もいい。

 とくに酒は、エールではなくラガーなんてものを扱っていた。

 ラガーは滅多に飲めない。

 この熱気のなかで、爽快感がある飲み物は有難い。

 しかも、きんきんに冷えている。常温で出すほうが主流なので、これもうれしい配慮だ。


「お肉、美味しい!」

「ココナッツジュースが冷たくて、染みるね」

「麦のお酒は苦手ですが、これなら美味しくいただけます」


 料理と酒を目いっぱい楽しむ。

 ラルズール名物という、牛もつの煮込みを頼んだ。これがまた酒に合う。

 ダンジョン産の肉が多く出回るため、畜産をしている街は少ない。そのせいで、ドロップで出る肉の部位はともかく、内臓類は滅多に食べられないのだ。この店は正解だったと言える。


 腹が膨れてきたので、これからの話もした。

 この王城でするべきことは終わった。

 明日、きちんと挨拶、そして別れをしたうえでこの街を出る。

 アウレ王女の背後関係についてはアレクルト王子に調査結果を共有してもらえるように頼んでおこう。


 俺たちは冒険者だ。

 意味もなく、一つの場所に滞在してはいられない。

 ルーナたちと一緒に、今日の戦いの話題で盛り上がる。

 楽しいし、酒と料理もうまい。

 だけど、物足りない。

 みんなも同じようだ。

 ルトラがいないのが、こんなにも寂しいなんて。

 そんな時だった。


「相席してもいいかしら?」


 背後から、涼やかな声が聞こえた。

 俺たちは六人席に案内されており、後二人座れる。

 他の席は空いていない。


「構わない。もう少しにぎやかなほうがいいと思っていたところだ」

「四人でも楽しそうだけど」

「まあな、四人でも楽しい。だけど、やっぱり五人のほうがずっと楽しいんだ。……ルトラ」


 振り向かなくてもわかる。

 なんども聞いた声、慣れ親しんだ気配。

 間違うはずもない。


「ルトラ!」

「よく抜け出せたね」

「きゅいっ!」

「すぐに飲み物を頼みますね」


 みんな、無理をした明るさからいつもの明るさに戻る。


「ルトラは目立つからやめてほしいわね。それに、今の私はセレネよ」


 装備の効果で黒く染まった髪を指さしながら、ルトラ……いや、セレネが微笑む。


「いいのか? ここにいて」

「ええ、パレードは終わったし、貴族たちへの挨拶も済ませてきたわ」

「そうか。ルトラの送別会ができて良かった。こういうふうに飲める機会はもうないと思っていた」

「送別会? 勝手にパーティから追い出さないでほしいのだけど」


 ルトラがいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「俺たちは歓迎するが、いいのか?」

「ええ、兄上とも話し合ったの。私はまだまだ未熟よ。それに、世界を知らなすぎる。だから、しばらく時間をもらったわ。世界を旅して、広い世界を知って、それからラルズール王国に戻る。……ユーヤおじ様、まだ一緒に旅がしたいの。ダメかしら?」

「言っただろう、歓迎するって」

「やった、セレネと一緒!」

「壁役は必要だからね!」


 お子様二人組が立ち上がってセレネに抱き着き、エルリクがルトラの頭の上に着地した。

 微笑ましい光景だ。

 そうか、ルトラとまだ旅ができるのか。

 それはいいことだ。


「それから、兄上からユーヤおじ様への手紙を預かっているわ。私も見るなって言われているの」


 ルトラから、アレクルト王子の手紙を受け取る。

 中をみるとルトラに手を出しても構わないが、手を出せば責任を取ってもらう。

 ……いったい俺をなんだと思っているんだ。

 恋人もいるのに、子供に手を出すわけがない。


「なんて書いてあるの?」

「ルトラにはまだ早いな」


 手紙をしまい込む。

 余計なお世話だ。


「よし、じゃんじゃん追加で頼もう。セレネの酒も来たようだな。乾杯をしよう。そうだな、セレネのお別れ会じゃなく、俺たちの再出発に」


 グラスを掲げる。

 ルーナたちもそれぞれのグラスを掲げ、ルトラも店員が運んで来たばかりのグラスを掲げる。


「「「「乾杯」」」」


 これからも、この五人で旅を続けていける。

 そのことがうれしくて仕方ない。

 色々と、片付けないといけない問題はあるが、今はすべてを忘れて、精一杯楽しむとしよう。

 幸い、今日は朝まで騒いでもいい日だから。

いつも応援ありがとう。

第四章最終回。ここまでの評価を画面下部からしていただけると、非常にうれしく思います!

第五章もご期待ください!

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