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第十八話:おっさんは見つけ出す

 あのアレクルト王子が負けた。

 指揮能力だけでもなく、個人の武も王国最強と呼ばれる彼の敗北を信じられないものが多い。

 観客は衝撃を受けて、ざわついていた。


 俺も驚いているが、茫然としていられる時間はない。

 ……なにせ、アウレ王女は超希少アイテムで【転移】を使い魔物を増援として呼び、それをいけしゃあしゃあと【召喚魔法】だと言い張った。

 ここで手を打たなければ、ルトラも同じように敗北する。


 かなり厳しい言い訳ではあるが、事前に根回しをしていたようで審判たちはそれを認めた。たとえ、抗議してもひっくりかえることはない。

 俺たちは分かれて行動する。

【気配感知】を持っているルーナや、視力に優れるティルなどはその力を使い周囲を探索し、俺はとある男を訪ねる。


 ぶっちゃけた話をすれば魔物を隠せる場所は多くない。

【転移】の射程は誤差をほぼゼロという条件なら十メートル、誤差を許すのであれば三十メートル。リングからその範囲で隠せる場所なんて限られている。

 観客席に、あの大きさの魔物を隠すことはほぼ不可能。

 だとすると、コロシアムの中、あるいは地下だ。

 それも、おそらくは一般人が入れない特別な部屋に魔物は隠されている。

 ルーナとティルが探してくれている間、その部屋に入るため俺とフィルは動き始めた。


 ◇


 意外に過去の英雄という肩書は役に立つ。

 本来、彼に会うことは非常に難しいがなんとかなった。

 彼の部下によって、彼が休んでいる部屋に連れてこられる。


「もしかして、俺を慰めにでも来てくれたのか? それとも笑いにか?」


 俺が訪ねた相手はアレクルト王子。

 彼は元気そうだ。あの場には腕のいい僧侶もいたので、あの程度の傷なら数分で完治する。

 ただ、体とは違い、心のほうのダメージはまだ癒えていない。


「まさか。アレクルト王子だって、俺に慰められたくないだろう」


 何度か話をしているうちに、敬語はお互いに止めようと決めたため、王族相手でも普段の口調で話す。


「だろうな。……ユーヤ殿が来るとすれば、ルトラのためか」

「その通りだ。結論から言おう。アウレ王女の【召喚魔法】はでまかせだ。あのエフェクトは【召喚魔法】ではなく【転移】。彼女は協力者に【転移】で魔物をリングに送らせた。……だが、【転移】の射程は誤差を許容しても三十メートル。人目につかず、あれだけの魔物を隠せるだけの場所は限られる。その心当たりがないかを聞きに来た」


 このコロシアムは国営。

 こういった戦い以外にも式典などにも使われるし、王族や要人の出席率も高く、万が一が起こった際に王族や要人を安全に隠すため、一般に公開されていない隠し部屋や通路が存在する。

 アウレ王女が魔物を隠すのであれば、そういう部屋を利用すると予想している。

 そして、そういう隠し部屋もアレクルト王子ならば知っているし、足を踏み入れられる。


 決勝戦まで二十分しかない。隠し部屋を見つけるのも、そこを守っているであろうアウレ王女の息がかかった兵士と争う時間もない。

 だから、考えうる最速。アレクルト王子に隠し部屋を聞き出し、妨害する連中はアレクルト王子の権力で黙らせる。そのために来た。


「俺が協力すると思うか? すでに王位継承戦に脱落した俺が、ルトラに手をかして何か得があるとでも?」

「いや、アレクルト王子は協力する」

「理由を聞かせてもらっていいか?」

「あなたは賢い。アウレ王女とルトラ、どちらが王位についたほうがこの国のためになるか理解している。それに、恩知らずじゃない。俺の知っているアレクルト王子は、強大な魔物から身を挺して、王子の命を救ったルトラに恩を返す絶好の機会を逃さないだろうし、足元を見て無茶な要求をするような器の小さな男でもない」


 俺がそう言うと、アレクルト王子は笑った。

 実に愉快そうに。


「そう言われてしまえば協力するしかないな。ユーヤ殿、ついてくるがいい」


 アレクルト王子が立ち上がる。

 もし、彼が器の小さな男であれば協力なんてしない。あるいは、ルトラが王になったあとのことを考え、保身のため有利な条件を引き出そうとするだろう。

 しかし、彼はルトラのために協力することを選んだ。

 やはり、彼はいい男だ。


 ◇


 歩きながら、魔法道具を使ってティルとルーナを呼び寄せる。

 これは王城のダンジョンで手に入れたものだ。半径一キロ以内であれば、パーティ全員にアラームを届けることができるという優れもの。メッセージまでは無理だが、自分の位置を知らせることができるだけでもありがたい。


「ユーヤ殿、そのような魔物が存在するとは信じられない。なにより悔しいのは、あなたはその魔物に勝てたことだ。俺はまだまだあなたに及ばない。……俺は不意打ちで負けたのではないのだ。あれらが起き上がったことには気付いていた。だが、そのあまりにも強大な力を感じ、体が震え、怯え、絶望し、硬直した。その結果があれだ」

「俺の時は一体だけだったからだ。三体もあんな化け物が現れれば、勝てなかったし、まともじゃいられなかったかもな」


 コロシアムの内部の通路を歩きながら、ルンブルクで俺が遭遇した進化の魔物のことを、ギルド長がそそのかされて手引きしたことまで話していた。


「アウレは、いったいどうやってあんなものを手に入れたのやら。……あれだけ強大な魔物を操ることができる組織か。ますますアウレを王にするわけにはいかない。そうでなくても、それだけの組織が野放しになっているのもまずい。なんとしても尻尾を捕まえなければ。即座に信頼できる部下に調べさせる」


 アレクルト王子は、いちいち俺が忠告しなくてもやるべきことをやってくれる。

 ルンブルクでは、奴らの尻尾を捕まえることはできなかった。ここでなんとか敵の正体を突き止めたい。放っておくととんでもないことを仕出かす。

 ……もし、アウレ王女が王になれば、魔物を提供した組織はどんな要求をするかわかったものではない。

 アウレ王女に対して、秘密をばらすと脅して、ラルズール王国を意のままに操ることすらありえる。

 そんなことを考えていると、お子様二人組と合流した。

 彼女たちは、少し先の分かれ道で兵士と言いあいをしていた。

 俺たちに気付いて、こちらを向く。


「ユーヤ、魔物を見つけた! リングの真下、こっちの方向に進めばさっきの魔物がいる。間違いない!」

「って、ルーナが言うから来たんだけど、ここの人、通してくれないんだよ!」


 拙い説明だが、状況はわかった。それは俺だけでなくアレクルト王子も。

 アレクルト王子が一歩先へ出る。


「ラルズール王国、第一王子アレクルト・ラルズールの名において命じる。この先へ通せ」

「……できません。この先には何人も通すなと」

「アウレの命令か」


 アレクルト王子の問いに兵は答えないが、その態度が正解だと物語っていた。

 アレクルト王子は、さらに前へ出る。


「継承の儀が終わり、アウレが王になった後ならともかく、現時点では俺の命令が優先される。加えて、この先に進むのはラルズール王国に迫る危機を防ぐため。これ以上邪魔をするなら国への反逆とみなす。それでも、ここを守るか?」

「ひっ、ひっ、とんでもないです。わっ、私はそんなつもりなどなく」

「では、通らせてもらおう」


 さすがアレクルト王子。

 俺たちだけで無理やり通ろうとすると、いろいろと問題になる。兵に真っ向から喧嘩は売れない。

 兵が守っていた先へと進み、通路に隠された仕掛けを起動することで姿を現した隠し階段を通る。

 ……こんな隠し階段があるのは知らなかった。まともに探していれば、それだけで時間切れになっていただろう。アレクルト王子の元へ向かったのは正解だった。

 その階段を下っていると、アレクルト王子が口を開いた。


「ユーヤ殿。同じ男として伝えておかないといけないことがある。俺はこの継承の儀に勝ち王になれば、ルトラを妃として迎えるつもりだった。そのことをどうやってルトラに承認させるか悩んでいて、あの場でルトラが賭けを持ち出してきたとき、内心でほくそ笑んだ」


 あまりにも特大の爆弾を放り投げるものだから、一瞬、言葉を忘れた。


「……二人は兄妹だろう」

「母が違うし、王家においてはそのようなことは関係ない。むしろ、血を薄めないために兄妹の結婚などありふれている。昔からルトラのことを気に入っていた。あの美しさも、強さも、だからこそ、あの子には早めに棄権してほしかった。それも過去形だが」

「それは、王位継承の儀に負けたからか?」

「それもあるが、あの子に好きな男が出来ていた。しかも俺よりも強い男だ。……一つ問いたい、ユーヤ殿は」


 言葉はそこで止まる。

 隠し階段を降りた先の通路、その最奥には牢屋があり、さきほどの魔物たちが閉じ込められ、その前には三人の男たちがいた。……想定していた最悪、さきほどの三体の他に魔物がいるということはない。

 ただ、誤算もある。ここにいる三人の男たちのレベルが表示されない。つまりは、俺よりもレベルで勝る相手。最低でレベル40以上。


 時計を見る。

 試合開始まで、あと三分二十秒。

 レベル40を超える手練れ三人と、レベル50近い魔物が三体。

 それらを三分で倒さないといけない。

 骨が折れる。


「ユーヤ殿、今の話はまた後で」

「そうだな。まずはこいつらを始末してからだ」

「ん。ルーナがそっこーアサシンする!」


 ルーナがもふもふの尻尾を振ると、尻尾に括り付けられていたバゼラートが宙を舞い、見事にキャッチする。

 ついでに、お菓子やおもちゃがいくつか床に落ちた……ルーナの尻尾は思ったよりいろいろと入っているようだ。こんど、念入りに調べてみたい。


「ティル、この弓を使ってください」

「って、お姉ちゃんのイヤリングが弓に」

「こういう魔法道具もあるんです。矢は自分で【矢生成】しなさい」


 向うには魔法使いがいるらしく詠唱を始める。

 それが戦闘開始の合図となった。

 俺、アレクルト王子、ルーナの三人が走り始め、フィルとティルが矢を番える。

 三分で瞬殺するのは辛いが、なんとかしてみせよう。

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