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第十二話:おっさんはドワーフの鍛冶師を訪ねる

明けましておめでとうございます! 今年も私の作品を是非楽しんでください

 無事使い魔が生まれた。

 ドラゴン種のフェアリー・ドラゴン。

 手乗りドラゴンとも呼ばれる種で、成長してもせいぜい子猫サイズにしかならない。

 ふわふわの薄い青い体毛に包まれていて、赤い瞳が愛くるしい。

 直接的な戦闘力はあまりないが、優秀なサポート能力を持っている。


「ユーヤ、見て。エルリクも温泉気持ちいいって」

「キュイッ!」


 フェアリー・ドラゴンの名前はエルリクと名付けられたようだ。

 発案はセレネらしく、ルーナとティルが大賛成したようだ。

 その名前の意味は、俺の子供という意味。

 もう少し詳しく言うと、俺の名はおとぎ話に出てくる勇者ユーヤが由来であり、エルリクは共に旅をし息子のように可愛がっていた使い魔の名前だ。

 セレネはお姫様だけあって教養がある。


「ユーヤ兄さんも見てよ。エルリクは可愛いなぁ」

「ええ、ずっと眺めていたいわね」

「あとで、餌をあげさせてください」


 みんな、エルリクに夢中になっている。

 女の子は可愛い動物が好きなのだ。


「みんな、注意していろよ。フェアリー・ドラゴンはとんでもない値段で取引されるからな。金銭目的にさらわれるなんてこともありえる」

「だめ、ぜったいに渡さない」

「キュイッ!?」


 ルーナが胸元にエルリクを引き寄せて抱きしめる。

 使い魔は持ち主以外の言うことは聞かず、奪っても戦力にはならないが、フェアリー・ドラゴンはその可愛らしい姿や、幸運を呼ぶと言う言い伝えからペット用に購入したいという金持ちが多い。

 使い魔の卵争奪戦が激しい理由の一つはフェアリー・ドラゴンの存在だ。


「ぱっと見た限り、ルーナに一番懐いているみたいだし、世話はルーナをメインにして、ティルにも手伝ってもらいたいと思う。どうだ?」

「やる! エルリクはルーナが育てる」

「任せてよ。ルーナ、一緒にこの子を立派なドラゴンにしようね!」


 小さな生き物を育てるのは少女の情操教育にもいい。

 エルリクはルーナとティルに任せよう。

 それから、貸し切りの時間終了までエルリクを可愛がりながら温泉と冷たい酒を楽しんだ。

 お風呂を出るころには、すっかりと出来上がってしまった。

 さて、この勢いでそのままご馳走だ。

 クエストを達成して金は手に入る。今日はパーッといこう。


 ◇


 宿で目を覚ます。ルーナとティルがエルリクをぎゅっと抱いて寝ていた。二人と一匹の姿は、とても愛くるしい。

 起こさないようにして、着替えてセレネと共に出掛ける。

 今日はダンジョンの探索は休みだ。温泉で癒されたとはいえ、初めての泊まりがけの冒険でフィル以外は疲れている。とくに心の疲れが深刻だ。

 今、探索に出かけても注意力が散漫となり危険だ。


「ルーナに悪いわね。二人きりでお出かけなんて」

「別に悪くないさ。これもパーティのためだ」


 セレネと二人きりで出かけているのは、セレネの装備を作ってもらうよう鍛冶師に依頼するためだ。

 セレネは利き手にルノアの盾、反対の手には籠手を装備する特殊なスタイルだ。

 籠手は、高位の物になると魔力を高める効果がある。

 壁役だけではなく、回復魔法を使うヒーラーの役割を果たすクルセイダーには魔力を高める籠手は非常に強力だ。


 店売りでは、魔力を高めるような籠手はないので作ってもらうしかない。

 そのための上位素材は既に持っている。

 希少魔物の地喰蟲が落とす、レアドロップの【蟲紅玉】とミノタウロスを倒したときに手に入れた最高位魔法金属のオリハルコン。


 この二つのレアドロップを組み合わせれば、高位の籠手を作ることができる。

 ただ、オリハルコンを加工するには相応の設備と一流の職人の腕が必要となる。

 この街には、世界の誕生から一度も消えたことがない炎と、その炎を使いこなす職人がいる。

 きっと、最高の籠手を作ってくれるだろう。


「セレネ、俺から離れるな。この街は人通りが多い上に、広くて道が複雑で迷いやすい。はぐれると厄介だ」

「ええ、気を付けるわ」


 セレネがおずおずと近づいてくる。

 そして、ちらちらと俺の手を見る。


「手をつないだほうが、はぐれにくいかもな」

「……そっ、その、言葉に甘えるわ」


 セレネがおずおずと俺の手を握る。

 ルーナの暖かい手とは違い、セレネの手はひんやりしている。

 幼いころから剣を振っているせいか皮が厚い。だが、俺はこういう手が好きだ。

 セレネは黙り込んで顔を伏せる。手をつなぐのが恥ずかしいのか耳が赤い。

 そのまま、二人で商業区を抜けて、人通りの少ない郊外へと向かっていく。


「ついたぞ。なじみの店だ。俺の使っている竜の皮を使った鎧も、ここの親父さんに作ってもらったんだ」


 石造りのいかめしい建物に入る。

 ここまで郊外になると、近づく人は少ない。

 だけど、ここの親父さんはむしろ作業に集中できていいと言っている。

 ……そして、人通りが少ない場所に工房を構えていても十分すぎるほど稼げている。

 親父さんの評判を聞いてたくさんの客が訪ねてくるのだ。

 店に入る。


「帰れ! わしは気に入った客にしか武具は作らん!」


 いきなり怒声を浴びせられる。

 相変わらずだな。この人は。


「親父さん、久しぶりだな。怒鳴るのは顔を見てからにしてくれないか?」


 俺が声をかけると、親父さんがこちらを見て目を丸くする。

 小柄だが、異様に筋肉質な初老のドワーフだ。

 ツナギがよく似合っていた。


「おおう、ユーヤか! 久しぶりじゃな」


 笑顔を浮かべて、親父さんは抱き着いてくるので、それに応える。


「顔を出せずにすまない」

「わしの作った鎧はどうだ」

「最高だ。何度命を救われたからわからないよ」


 竜の皮を使った鎧。

 あれは素材もいいが、それ以上に親父さんの腕がいい。低ステータスの俺が死なずに済んだのは、あの鎧があったからというのも大きい。

 普通の鎧ならとっくに墓の下だ。


「今日はなにを作ってほしいんじゃ。ユーヤの装備ならなんでも作るぞ! おまえはいい冒険者だ。武具を使いこなす。おまえほど容赦なく、それでいて正しく武具を使う冒険者はおらん。限界まで性能を引き出されて武具も喜んでいるさ。槌の振るい甲斐があるわい」


 この人とは長い付き合いだ。

 過去にとある事件があり、その事件以降目にかけてもらっている。


「今日来たのは俺の武具を作るためじゃないんだ。俺の仲間の武具を作ってもらうためなんだ」

「なに? ユーヤの武具ではない。なんじゃ、その小娘は? 知らん顔だな」

「セレネという。新しいパーティのメンバーだ」


 セレネの背中を押して、親父さんの前へと差し出す。

 いぶかし気に親父さんはセレネの顔を全身を舐め回すようにみる。けっしていやらしい視線ではない。

 親父さんはセレネの値踏みをしているのだ。


「ふむ、まあ、ちゃんと鍛えた戦士ではあるな。生半可な鍛え方じゃ、この肉体はできん……ただ、わしの武具を託すにふさわしいかはわからん」

「俺を信じてくれないか? セレネは俺の弟子だ。そして、親父さんの武具を担うにふさわしいと思ったから連れてきた」


 そう断言する。

 俺は親父さんのことをよく知っている。

 武具の担い手を選ぶ鍛冶師だと知ったうえでセレネを連れてきたのだ。


「お主のいうことは信じたい。……だが、この目で見ないとな。ユーヤ、この小娘と戦ってみろ。その戦いの中で見定める」

「わかった……というわけだ。セレネ、俺と戦ってくれるか?」


 急に話を振られたセレネは、戸惑いつつもしっかりと頷いた。


「わかったわ。私の全力を見せる。そのうえで、武具を作るか決めて」


 うっすらと、親父さんの口角があがった。

 ここで逃げ出すようならその時点で失格だった。親父さんは技量も重要視するが、何よりも勇気を重んじる。

 第一関門は突破だ。

 

 ◇


 親父さんの工房の中庭で、俺とセレネは打ち合っていた。

 夜の鍛錬でやっている模擬戦闘だ。


 ……俺は一切手を抜いていない。

 セレネに花を持たせるなんて考えない。そんなことをしたら、セレネの輝きは見せられない。限界の戦いでこそ、セレネの真価を見せつけられる。


「セレネ、緊張でもしているのか? 動きがいつもより鈍いぞ」

「否定しないわ。でも……私は全力を尽くす!」


 俺の猛攻をセレネは盾でうまく躱し隙を探している。

 よく育ったものだ。知り合ったばかりのころなら、五度目の剣戟で終わっていた。

 徐々にセレネの防御が遅れてくる。ついにセレネの体勢が崩れた。盾をすり抜けるように剣を滑り込ませる。

 その一撃をセレネは籠手でいなした。うまい、だが剣に意識が向きすぎだ。

 加えて、防御だけしか考えないのも減点。


 俺を崩すところまで気が回っていない。だから、次の手を打つ余裕を与えてしまう。

 しゃがみつつ足払い。セレネの足が綺麗に刈り取られ転倒。

 俺の木刀がセレネの首筋に突き立てられる。


「やっぱり、まだ勝てないわね……でも、少しはいい勝負ができるようになってきたわ」

「そうだな。日々成長している。そろそろ俺から一本とれるようになるさ」


 セレネに手を差し伸べ引っ張り起こす。


「親父さん、どうだ? 親父さんの武具を託すに値するか?」

「ふむ、正直な感想を言うとまだ未熟だな。わしが武具を託してきた武人たちと比べれば、一歩、二歩劣る」

「……そう、やっぱりダメだったのね。いつか、成長したらまた来るわ。そのとき、もう一度試してもらえないかしら?」


 ここで、泣きついたりしないところがセレネの美徳だ。

 彼女には誇りがある。


「早とちりするな、ダメとは言っておらん。未熟だが、そのひたむきさ、なにより成長していくという期待が持てた。ユーヤが育てているなら、いずれわしの武具にふさわしくなる。いいだろう、作ってやる。ただし、条件がある。必ずわしの武具にふさわしい武人に成長すると誓え。誓うなら、渾身の力で最高の武具を作り上げよう」


 セレネは息を呑み、拳を握りしめる。

 そして、決意が満ちた瞳で頷いた。


「必ず、成長してみせるわ。世界最高の師匠と、その師匠が信頼する鍛冶師の作る武具があるのだもの。それで強くなれなければ、私は自分が許せない」


 いい言葉だ。

 俺と親父さんは目を見合わせて笑う。


『いい弟子だろう』

『そうじゃな』


 目線だけで、お互いの言いたいことがわかる。


「ユーヤ、材料はあるんだろうな」

「ああ、蟲紅玉とオリハルコンだ」

「これなら、不足はない。さっそく取り掛かる。明日の夕方までには仕上げてみせよう。興が乗った。他の仕事は後回しだ」


 親父さんが店の中に消えていく。


「良かったな。セレネ、最高の武具を作ってもらえるぞ」

「ええ、うれしいわ。でも、今の誓いが嘘にならないようにがんばらないと」


 出来上がりが楽しみだ。

【再配置】が行われるまではボスではなく、ダンジョンに潜りレベル上げをする。明日の帰りに親父さんのところに来よう。

 きっと、そのころにはセレネの籠手は出来上がっているだろう。

いつも応援ありがとうございます。面白いと思っていただければ画面下部から評価をしていただけるとても嬉しく思います。

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