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第三話:おっさんは新たなクラスと出会う

 無事、フィルのレベルリセットが終わり、帰路を急いでいた。

 ラプトルに跨り、疾走する。

 帰りは行きよりも気を使う。

 なにせ、低レベルのフィルを守りながらの道程だ。

 フィルは攻撃力を優れた装備で補えているが、素早さ重視の軽装のため防御力は補い切れていない。

 ある程度、レベルが高い魔物の一撃で死んでしまいかねない。


「ユーヤ、迷惑をかけた分は強くなってから返しますね」

「フィルからはいろいろともらいすぎている。気にするな。そんなことより、魔物襲撃だ。ラプトルを加速させる。口を閉じておけ、舌を噛むぞ!」

「はい!」


 野生のラプトルの群れが現れた。

 俺のラプトルは人間に調教されており懐いているが、もともとは雑食性かつ狂暴な魔物。

 優れた脚力と強靭な顎を持ち、旅先で出会うと非常に厄介だ。


「キュイッ、キュア!」

「キュアッ、キュウアッ」

「キュキュキュキュキュ」


 二足歩行の爬虫類型の魔物が牙を光らせ威嚇をしながら、こちらに向かってくる。

 ラプトルのことは好きだが、人を喰らおうとするラプトルに容赦をするほど俺は優しくはない。

 速やかに返り討ちにしてやる。

 ……そう思っていたのだが。


「あっさり振り切って戦いにならなかったな」

「キィッキュゥ!!」


 俺のラプトルが誇らしそうに鳴き声を上げる。

【風の首飾り】を付けた俺のラプトルの速度は圧倒的で俺とフィルを乗せているにも関わらず、すぐに野生のラプトルたちが見えなくなった。


 野生のラプトルたちは早々に追いつくことを諦めて足を止め、鳴き声を上げて俺たちを見送った。

 ラプトルは群れの中での序列を足の速さで決める。

 もしかしたら、俺のラプトルの力を認め、敬意を払ってくれたのかもしれない。


「私たちを乗せているのに、ぶっちぎりなんてラプトルさん、すごいです」

「キュイッ!!」


 俺だけじゃなく、フィルにも褒められたことでラプトルはさらに上機嫌になる。

 もとから、自分の実力以上の速さを出せて機嫌が良かったこともあり、張り切って快調に飛ばす。

 行きは急激に増した速度をもてあましていたせいで足が速い魔物に追いつかれた。だが、今ではきっちりと、新しい速さを物にしている。これなら、ほぼすべての魔物を振り切れるだろう。


「ラプトル、街までがんばってもらうぞ。また魔物に襲われたら振り切ってくれ」

「キューイ」


 頼もしい。

 フィルをかばいながらの帰り道は苦労するかと思っていたが、この速さなら楽できそうだ。


 ◇


 驚いたことに夕方にはルンブルクに戻って来れた。

 早くて夜。深夜も覚悟していたのに、うれしい誤算だ。

 ラプトルを預けた俺たちは、すぐに移動を始める。


「さて、ユーヤ。すぐにギルドに行きましょう。特例でクラス付与の部屋に入る手続きは済んでいます。どのクラスを選びましょうか? 私の特技を生かすなら精霊弓士なのですが……ティルもいますし。パーティで役割がかぶるとバランスが悪くなっちゃいます。現状、風(雷)耐性を持っていて、防御力が高い魔物はユーヤ頼みになっているのはパーティとしての欠陥です。そこを埋めるクラスを選ぶべきかもしれません」

「たしかにな」


 矢と魔法を両立できる精霊弓士は強力なクラスだが弱点がある。

 それは、風(雷)属性の魔法しか使えないこと。物理属性がほぼ無効な敵はそれなりに多く、そういう敵の中でも上位の魔物になれば炎、風(雷)、水(氷)のいずれかの耐性を合わせ持つ場合が多い。


 炎に強い耐性を持つ魔物のほとんどが風(雷)には弱い。

 風(雷)に強い耐性を持つ魔物のほとんどが水(氷)には弱い。

 水(氷)に強い耐性を持つ魔物のほとんどが炎に弱い。

 そんな相関関係があるので補完し合う二属性を使えればうまく立ち回れる。

 三属性を使おうとすればいくらスキルポイントがあっても足りないため、炎・風(雷)や風(雷)・水(氷)など補完し合う二属性を習得するのが魔法使いの基本となっている。

 だが、風(雷)しか使えない精霊弓士にはそれができない。


「魔法使いがベストでしょうか?」

「魔法使いになってせっかく弓の技術を捨てるのも馬鹿らしいだろう?」

「なら、弓に特化するために狩人はどうでしょう? 精霊弓士と違って、物理の範囲攻撃のような弓の高位スキルも取れますし、探索スキルも取得できますよ?」

「いや、やっぱり精霊弓士になるべきだ。結局、炎と水の魔法を使えないなら狩人を取るメリットが薄い。狩人でしか取れない弓スキルはいくつかあるが、総合火力では大きく精霊弓士に劣る。盗賊のルーナがいるから探索系スキルもいらない」


 結局、フィルに一番合っているのは精霊弓士だ。


「やっぱりそうですよね。物理と風の両方に耐性がある敵のことは割り切っちゃいましょう。すべての魔物に対応できるパーティはないですし」


 フィルの言う通りだ。どう工夫しても必ず弱点はでる。

 別に無理をして、倒しにくい魔物を倒す必要性はない。倒せる魔物がいる狩場でがんばればいい。


 ……一体だけどうしても倒したい魔物はいる。物理と風に完璧な耐性を持つボスモンスターだ。

 あいつの固有レアアイテムは素晴らしくなんとか手に入れたいが、あれに勝つためだけにフィルに魔法使いをさせるほうがもったいない。そいつを倒す方法は別途考えよう。

 

 ◇


 フィルが事前に調整していたおかげで、飛び込みでクラスを与えてくれる石像がある部屋にやってこれた。

 フィルが石像に祈りを捧げて、クラスを得るための儀式を始める。


 今頃フィルの脳内に選択可能なクラスの一覧が流れているはずだ。

 そんな中、フィルが目を見開いた。かなり驚いているようだ。

 これを行うのは二度目だ。フィルが驚くようなことが起きるとは考えにくい。


「ねえ、ユーヤ。驚かないで聞いてください。私の知らない職業が選択肢に浮かびます」


 まさか、ユニーククラス?

 元から精霊弓士を得ているフィルさらに新しいクラスだと?

 この状況で選択肢に現れたということは、新しいクラスの解放条件はレベルリセットを選択しているということになる。

 俺のときには現れなかったことから、エルフということも関係あるだろう。あるいは精霊弓士がレベルリセットをしたということも考えられる。

 それほどの厳しい条件だ。かなり有用なクラスの公算は高い。


「一度目のときはなかったのか?」

「はい、間違いなく。レベルリセットがクラスの解放条件の一つだった可能性が高いですね……」


 ごくりと生唾を飲む。

 期待感が高まっていく。


「クラス名は?」

「えっと、ドルイドです。……名前だけは聞いたことがあります。おとぎ話ですが」

「俺も名前は聞いたことがある。俺は伝承で聞いた。エルフの始祖であるハイ・エルフが使用していたクラスだ」


 ドルイド。精霊や自然と共に生きるもの。

 弓を使うところは精霊弓士と一緒だが、風の精霊以外とは交信できない精霊弓士とは違い、ドルイドはすべての自然界のマナと交信すると言われている。


 ゲームだったときにも、伝承では偉大なハイ・エルフのクラスとして、ときおり名前は現れるものの、ドルイドというクラスを得たキャラクターを見たことがない。


 好奇心を刺激される。ドルイドがどんなクラスかを知りたい。

 ……クラスは選ぶまえにどんなクラスかはわからない。知るためにはドルイドになってもらうしかない。

 しかし、選んでからドルイドが外れクラスであれば目も当てられない。

 確実に強クラスである精霊弓士を選んだほうが無難だ。それはわかっている。だけど……。


「フィル、冒険してほしい。ハイ・エルフが使ったと言われるクラスだ。伝承では弓とすべての属性を使いこなしたとある。それが正しければ、今の俺たちのパーティの欠点を埋められるし、フィルの特技も活かせる。……だが、賭けのベットはフィルの人生。もう一度レベルリセットをすればクラスを選びなおせるが、レベル50までたどり着くのは並み大抵の苦労じゃない」


 レベルリセットは何度でもできる。

 だが、レベルリセットをするたびに特典が豪華になったりなんてことはない。

 二回目以降のレベルリセットはこれまでの労力を捨てるだけだ。


「ユーヤ、そんな申し訳なさそうな顔をしないでください。私も同じ気持ちです。冒険しないといけないときがあります。それが今です。それに、本当はもう決めちゃってました。ドルイドってクラスが脳裏に浮かんだとき、すごい力を感じました。こう、体がドルイドを求めています」


 フィルは即答し、にっこり笑った次の瞬間、フィルの体が光に包まれた。

 光が止む。


 どこか、フィルの雰囲気が変わった。

 フィルがステータスや習得スキルをチェックしている。

 そして、何度か頷いた。


「わかりました。ドルイド、いいクラスです。私、個人の殲滅力は下がりましたが。ユーヤのパーティの一員としては最高だと思います。想像通り、炎も水も使えますよ。攻撃魔法ではないですけど」

「どんなクラスか説明してもらっていいか?」

「見せたほうが早いです。さっそく、ステータス上昇幅を最高にする隠し部屋に行きましょう! ステータス上昇幅を最高にすれば、魔物相手に実演して見せます」


 俺のとなりにフィルは軽やかに近づき手を引っ張ってくる。


「待ってくれ、初心者用のダンジョンに俺は入れない」


 ギルドのルールでレベル10を越えてしまった冒険者は、初心者用のダンジョンに足を踏み入れるかもしれない。

 システム的なものではなく、あくまで見張りがいるだけなので強行突破できなくはないが、そんな真似をすれば世界各地のギルドに手配書が回ってしまいギルドを利用することができなくなる。


「安心してください。根回しはしています。クエストを受注しました。じゃじゃーん、初心者用ダンジョン定期見回り。出現する魔物はまれに変わるので、新人たちが安心して探索できるダンジョンかを確認するというクエストが定期的に発生しています。それを受けてきました」

「……そういうのがあるなら先に言え、本当に優秀な受付嬢だよ。おまえは」


 さすが、フィル。ぬかりはないようだ。

 隠し部屋までの道のりはそれなりに危険だ。【気配感知】なしで無傷でたどり着くのはレベル1の冒険者ソロでは非常に難しい。

「使えるコネは使わないともったいないですからね。初心者用ダンジョンとはいえ、レベル1で一人で潜るのは怖いです。ユーヤ、エスコートをお願いします」

「任せてくれ、お姫様」


 俺はフィルの手を取って、初心者用ダンジョンに向かう。

 フィルは涼しい顔をしているが、ギルドでは男性冒険者があこがれのアイドル受付嬢であるフィルの可愛い戦闘服姿に視線が釘付けになっていた。

 同性ですら憧れの目でフィルを見る。


 ……それだけでなく、フィルと腕を組む俺は殺気を込めた目で見られてしまっている。

 フィルは気にせず、俺の腕にぴったりと体を寄せて上機嫌だ。

 それが火に油を注ぐ形になっている。

 まあ、たまにはこういうのも悪くないだろう。フィルが上機嫌だし、少しの優越感もある。


「フィル、ドルイドの力しっかりと見せてくれよ」

「はい! 特典でスキルポイントがたくさんあるのでドルイドの素敵そうなスキルを習得済みです。期待していてください」


 ドルイドの力を見せてもらおう。

 フィルが俺たちのパーティに最適とまで言った力、どんなものか早く見てみたいものだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前話では疾風の首飾りだったのに風の首飾りにダウングレードされてます~
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