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第十六話:おっさんのパーティは強いらしい

 パーティが三人になってからというもの絶好調だった。

 今日はちょうどエルフの精霊弓士ティルが仲間になって一週間になる。

 岩山ダンジョンで狩りをしていた。

 ロック・ゴーレム狩りだ。ここはレベル10までしか来れないダンジョン。ロック・ゴーレムのユニークドロップ、からくりの心臓は限界まで確保したいし、経験値もたっぷりもらえる。

 最近は美味しいクエストがあればそれをこなし、それから岩山ダンジョンに来るのが日課だった。


 ……だが、ここに来るのは今日が最後だ。

 ついにレベル11に上がってしまった。初心者のためにレベル上限が設けられた岩山ダンジョンにはもう入れない。

 俺の拳が炎を纏い、光り、唸る。


「【爆熱神掌】!」


 燃える拳でロック・ゴーレムの腹を貫き、内側から焼き尽くす。ロック・ゴーレムが青い粒子に変わっていく。

 最後にからくりの心臓をドロップしてくれた。ありがたく魔法袋に収納する。


「怖いぐらいに順調だな」


 独り言を漏らしてしまった。

 探索スキルを持つルーナのおかげで、索敵は万全。

 盗賊はさほど火力を期待できないクラスだが、アサシンエッジを使いこなすルーナはその常識を覆す。


 そして前衛の俺。魔法戦士は前衛としては体力と防御力が心もとないクラスだが、特典ボーナス、優れた防具、さらにステータス上昇時に必ず最大値を引き続けるという強みがあり並みの戦士並みの防御力がある。

 その状態でステータスを補うために極めた剣技を振るうことで、同レベル帯の超一流の戦士すら凌駕する壁となる。カスタムマジックにより圧倒的な火力という独自の強みもあり、前衛としての総合力は非常に高い。


 後衛役のティルは詠唱をしながら弓を放てる。そのことで二人分の火力をたたき出す。

 三人と人数は少ないものの、一人ひとりが凄まじい働きをしている。快進撃が続くのも当然と言えるだろう。

 戦闘が終わり、ルーナとティルが近づいてくる。


「お疲れ、二人とも」

「ルーナはがんばった。今日もいっぱいアサシンした!」


 ルーナはアサシンエッジでクリティカルを叩き込むことをアサシンするという謎単語で表現する。

 その表現が妙に可愛らしく、俺は気に入っていた。


「いっぱいアサシンしたことよりも精度があがってることがすごい。もうほとんど百発百中だ。たった一週間でここまでになるとはな。ルーナは天才かもしれないぞ」


 ルーナの頭を撫でてやると、ルーナは気持ちよさそうに目を細めて、キツネ尻尾をぶんぶん振る。

 驚いたことに、この子は七割程度の成功率だったクリティカルを今ではほぼ確実に成功させている。


 突きでしかクリティカルを放てないが、敵の急所を狙うという一点において突きはもっともすぐれており、ルーナの柔らかで無音、しかも高速な突進との相性もいい。


 とはいえ、強い魔物になればなるほど動きは速くなるし、攻撃を叩き込む隙が少なくなる。

 突きでしかクリティカルを出せないという弱点が露呈する日は遠くない。


 どんな体勢でも、どんな箇所でもクリティカルを叩き込む。

 それを可能にするには九種の斬撃をすべて極める必要があるだろう。突きが完璧になったことだし、少しずつ斬撃の幅を広げていこう。


「ああ、ルーナばっかりずるい。私もがんばってるよ。ほめてほめて!」


 エルフのティルが頬を膨らませて顔を見上げてくる。

 彼女の言う通り、ティルの活躍はすさまじい。レベルがあがったことでMPが増し、さらに燃費がいい単体攻撃魔法を取得したことから魔法と弓の併用に磨きがかかった。

 だが、弱点もある。ティルの場合、弓の腕は超一流だが、それ以外はほとんど素人だ。敵に近づかれれば身を守るすべはない。


 後衛を務める関係でティルは戦闘時に少し離れた位置にいる。

 それはセオリーではあるが、リスクもある。

 後衛が後ろから現れた新手に不意打ちされて沈むなんてことも多い。とくにティルの場合は矢を放つ際に凄まじい集中力を発揮するので余計に背後への警戒はおろそかになっている。


 今のところはルーナに【気配感知】でティルの背後に気を配ってもらい、新手が現れたときはフォローに回ってもらっている。 事故は起こっていないが、自分で身を守るしかない状況も想定しないといけない。

 ある程度、ティルに近接戦に必要な技術を叩き込むことが必要だと俺は考えていた。


「ティルもよくやっている。魔物を倒した数じゃぶっちぎりのエースだ」

「言葉だけ?」

「しょうがないな」


 ティルの頭を撫でる。ルーナと並んで目を細める。


「えへへ」


 ティルもルーナ並みに懐いてくれている。手のかかる子が増えてしまった。

 ルーナにもティルにも強みはあるが欠点だらけ、まだまだ鍛えてやらないといけない。


 だけど、どこかほっとする自分がいる。

 こういうのは性分に合っている。俺の導きで少女たちが力をつけていくことが楽しくて仕方ない。


「そろそろ戻ろうか。あんまり遅いとフィルも心配する」

「ん。今日はごちそう。そういう約束」

「私も覚えてるよ。今日中にレベル11になれたら、ユーヤが酒場のスペシャルメニューを頼んでいいって言ったこと!」

「ちゃんとわかってるさ。好きなだけ食べるといい」

「ルーナはユーヤが大好き!」

「私も!」


 ルーナが右腕、ティルが左手に抱き着いてくる。

 俺は苦笑する。

 うまい料理は俺も楽しみだ。それに、この子たちと一緒だとうまい料理がもっとうまく感じる。


 ……ただ、この子たちがあんまりべたべたするものだから、ギルド内でロリコン魔法戦士やロリヒモさんなど不名誉な仇名が付けられている。レベルを隠すことはできない。魔法戦士である俺が快進撃を続けているのは、少女たちに寄生しているからだと思われている。

 こっちはこっちで早急に手を打たないといけないだろう。

 俺は断じてロリコンではないのだ。


 ◇


 換金とギルドポイントを受け取るために受付に行く。

 フィルのところだ。


 フィルは人気受付嬢なので、いつも行列ができている。

 ただ、ギルドは営利組織ということもあり、追加料金を払うことで受付嬢の予約ができる。


 その予約のおかげで並ばずにフィルのところに行ける。

 ちなみに、フィル自身がその予約代金を払ってくれている。

 予約料金の大部分は受付嬢にやる気を出させるボーナスになっているので実質的にフィルの懐はあまり痛んでいないが、申し訳ない。


 金を出すと言ったが、『妹を助けるためにやっています。姉として妹のことを逐一知る必要がありますから』と断られてしまった。

 ……後から別の受付嬢に聞いたがフィルの場合、幅広い知識と豊富な実戦経験、圧倒的な強さ、見た目は美少女エルフ、ということで人気があり。予約枠は常に埋まっている。

 フィルはそのあたりも融通してくれているらしい。

 フィルは俺と目が合うと微笑んで手を振ってくる。

 周囲の冒険者たちが恨めしそうな顔をしていた。……フィルはわりと自分の人気に無自覚だ。

 俺はフィルの前に座り、パーティの状態を報告する。


「ユーヤ、あなたが引率しているとはいえ、ちょっとおかしいペースです。たった一週間そこらで全員レベル10を越えてるってなんですか? 長い間受付嬢をやっていますが聞いたことがないです」


 フィルはジト目で見てくる。


「別におかしくないだろ? フィルに紹介してもらったクエストをこなしつつ、それが終わればロック・ゴーレムを狩っていたらこうなった」

「ロック・ゴーレムを倒せる時点でおかしいです」


 フィルは腕のいい受付嬢だ。

 夜にクエストの達成報告と素材の換金をする際に、全員のレベルを報告しているのだが、次の日の朝には旨味のあるクエストを紹介してくれる。

 それがかなり的確であり、俺たちの快進撃に繋がっていた。


 ロック・ゴーレムにも助けられてる。なにせ、初心者が倒せない初心者ダンジョン専用モンスター、俺たち以外が誰も倒さない。他の魔物は再配置からしばらくすると根こそぎレベル上げのために狩られてしまうが、ロック・ゴーレムはまるまる俺たちの物だった。それでいて経験値が美味しくレアドロップまでもらえる。

 その二つのおかげでたった一週間で全員がレベル11になれた。


「クエストで依頼されていた素材がこっちで、換金素材がこっちだな」

「こんなに!? 中級冒険者並みの稼ぎじゃないですか」

「まあな、競争相手が少ない新人用ダンジョンで再配置直後ならこれぐらいはできるさ」


 一週間に一度の再配置で、魔物と宝箱が復活しダンジョンの地形が変わる。

 魔物がうじゃうじゃいて危険は高いがもっとも効率がいい日だ。

 今日は気合を入れて、早朝から狩りをしていた。

 おかげでくたくただが、目標を軽く超える成果を得られた。


「ぜったい、なにかしてますよね。ティルが精霊弓士で二人分の火力があることも、クリティカルを自在に出せるルーナちゃんのアサシンエッジの火力を計算にいれても、まだ計算が合わないです!」


 さすがはプロの受付嬢。

 冒険者のスキル構成とレベルだけでどれだけの狩りの成果がでるかわかってしまうようだ。


「元冒険者ならわかるだろう? 明かせない手札があることぐらい」

「ですね。わかりました。もう、聞きません。明日のダンジョンとクエストですが……」

「明日はいい。行く場所は決まっているんだ」


 ようやくレベルが十一まであがった。

 おかげで、ロックゴーレムがいる岩山ダンジョンにはいけなくなったが、このレベルに到達するまで足を踏み入れなかったダンジョンに挑める。

 冒険者時代にため込んだアイテム、特典ボーナス。その他もろもろを入れて、ようやく可能な無茶がある。


「いやな予感しかしませんが、どこに行くか聞いていいですか?」

「海底ダンジョンだ」


 フィルが息を飲む。

 当然の反応だろう。なにせ、そこは初心者用のダンジョンじゃない。

 適正レベル25。レベル11のようやく卵の殻を捨てたようなひよっこたちが足を踏み入れていい場所じゃない。

 一歩どころか、半歩間違えれば死ぬ。

 普通のパーティなら。


「自殺行為です!」

「安心してくれ、俺一人ならともかく、仲間を連れて危ないことはしない。考えがあるんだ」


 今までの狩りは、あくまで常識の範囲内で最大効率の物でしかなかった。

 だが、レベル11に届いたことでようやく普通じゃない狩りができる。

 36歳にもなってレベル1に戻ってしまった俺が、普通の狩りをしていればレベル上限にたどり着く前に迎えが来てしまう。


 フィルが俺の目を見る。ぷくーっと頬を膨らませ、そして大きく息を吐いた。


「それも秘密なんですね……」

「ああ」

「わかりました。ユーヤのことは信じています。ユーヤはルーナちゃんやティルを危険にさらさないでしょう。でも、念のためにこれをもっておいてください」


 フィルがポシェットから三つの青い宝石を取り出した。


「【帰還石】か、こんな高価なものは受け取れない」

「妹を思う姉の気持ちです。冒険者時代にため込んで使う予定もないものですから気にしないで」


【帰還石】を使うと、どんな窮地だろうがダンジョンの外へ一瞬で脱出できる。

 人間に作れるものではなく、ダンジョンの宝箱からしか手に入らない。

 冒険者なら、誰もが最後の命綱に欲しがり値段が高騰している。


「ありがたく受け取ろう。使わないで済むように努力する」

「はい、こんなのを使うような窮地になる時点で最悪です」

「違いない」


 俺とフィルが顔を見合わせて笑う。

 それで話は終わり、クエスト報酬とドロップアイテムの代金を受け取って去っていく。


 さて、あの二人がお腹を空かせて待っている。

 たしか、今週のスペシャルメニューは巨大猪の足一本、まるまるのロースト。あれなら、あの欠食児童たちもお腹がいっぱいになってくれるだろう。


 ◇


 翌日、海底迷宮ダンジョンに来ていた。


「ユーヤ、変な格好」

「いつもの皮鎧じゃないんだね」

「まあな」


 俺の格好はいつもと違った。

 皮鎧ではなくローブを身にまとい、剣は腰の鞘に納めて宝玉が付いた杖なんて持っている。


「今日はこういう気分なんだ」


 分不相応な狩場に来たのは、とあるカスタム魔法を使った反則じみた狩りをするためだ。

 俺のカスタム魔法は中級火炎魔術【炎嵐】カスタム、【爆熱神掌】だけじゃない。この狩場だからこそ真価を表す魔法がある。

 圧倒的なレベル差の魔物を倒し、一気にレベルを上げる。

 地道にこつこつやるのも悪くない。だが、こうしてショートカットするのも最高にそそる。

 さあ、気合を入れていこう。ここからは超特急で強くなる。俺は世界最速でレベル上限である50にたどり着くつもりなのだから。

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レベル10を超えると入れないとしか記載されていない。 出ずにこもればいいのでは? 何故日帰り?
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