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エピローグ:おっさんは竜の祭壇に挑む

 休日が終わり、いよいよ三竜の祭壇へと向かう。

 全員、装備は最高のものを揃えているし、消耗品も目いっぱい持っている。


「ルーナ、新しい短刀は問題ないか?」

「ん、大丈夫。ユーヤが使いやすくしてくれた。ばっちり手になじんでる」


 俺の気遣いを察してくれたか。

 ルーナの持っている炎の短刀。それと同じ形状と重心にしてある。

 鍛冶ではそういう調整もできるのだ。


 ルーナに与えたのは雷竜レプリカの素材を中心にして鍛え上げた最速の短刀。

 その名を【雷迅刀】。

 二つのスキルを持つ魔剣だ。


・雷刃

 刀身に雷を纏い、雷属性を付与しつつ攻撃力の増加。

・雷迅

 所有者の体を電気の力で刺激することによる速度強化。


 二つのライジンこそが【雷迅刀】の真骨頂。


「ぶうぶうぶう、ルーナばっかり新武器ずるいよ!」

「俺たちには必要ないからな」


 俺は黒の魔剣と比翼の剣。

 セレネは宝盾。

 フィルとティルは成長する弓、世界樹の弓。

 どれも優れた武器であると同時に、汎用性も高く持ち替える必要性がない。


「それはそうだけどさー」

「そう不満そうな顔をするな。武器じゃないが、今回のダンジョンをクリアすれば手に入る素材で防具のほうは新調する予定だ」

「それ、かわいい!?」

「努力はする」


 作りたい防具は、可愛いというよりかっこいい装備。デザインに手を加えられるとはいえ、俺にそういうセンスを求められても困るというのが本音だ。


「ティル、いい加減に落ち着きなさい。これまでで一番厳しいダンジョンに向かうんですよ。緊張感が足りません」

「それがティルのいいところよ。少し羨ましいわ。私はちょっぴり怖いもの」

「そうだそうだ!」

「いい度胸ですね。だれが昼食の準備をしているか知っているでしょう?」

「ああ、お姉ちゃんずるい!」


 俺としても緊張感をもってほしいところだ。

 なにせ、今向かっているのは三竜というハイエンドボスをすべて倒したものだけが挑める超難関ダンジョン。


 死んで当たり前。

 クリアできることを前提に設計されているダンジョンではなく、クリアできるものならやってみろというダンジョンだ。


「ルーナも怖くない。危なくなったらユーヤが助けてくれる」

「そう言ってもらえるのはうれしいが、本当に危険だからな。俺ですら対処できないこともある。いつも以上に警戒してくれ」


 俺の見立てではぎりぎり。

 一流の冒険者として成長したルーナたちを、すべてのギミックを知っている俺がフォローしてもぎりぎり。


 ……ゲーム時代は死にまくった。攻略組と呼ばれる最速で新ダンジョンに向かっていく精鋭中の精鋭でも見事に嵌められた。

 高難易度ほど、熟練者が頼りにするセオリーを裏切るギミックが多いのだが、三竜の祭壇の場合、セオリーを裏切るギミックを読んだ冒険者すらも騙す。


 もうわけがわからない。

 そういう愉快なダンジョンだ。


「うわ、ユーヤ兄さん、顔がまじだ」

「それぐらい注意しろっていうことです。ティルはあまり私の傍を離れないでください。ユーヤがサポートできるのは前衛組が精一杯でしょうし」

「うん、そうする」


 昨日のうちに、俺が知っているギミックすべてはあらかじめ説明している

 大抵のダンジョンはルーナたちの危険感知能力と、対応力を底上げするためにあえて事前情報を伝えない。


 例外は致命的なギミックがある場合。

 しかし、ここの場合はすべてが致命的。一見大したことがない罠でもそれが連鎖するように設計されている。

 だからこそ、俺が知るすべてを叩き込んだ。

 とくにフィルには念入りに。

 フィルが言ったように、罠が凶悪すぎて後ろのフィルとティルまで手が回らないので、ティルはフィルに任す。


「そういえば、ダンジョンでのギミックは教えてもらったけど、そもそもどうやって入るのかしら?」

「もうすぐだ」


 俺たちがやってきたのは、浮遊島のふち。

 そこで船を取り出す。


「全員、船に乗ってくれ」

「ん? でも、ユーヤ。雲がぜんぜん見当たらない。落ちるだけ」


 この船は空を飛ぶのではなく、雲の上を滑る船。

 雲がなければ落ちるだけ。


「雲がないっていうのが目印なんだ。俺を信じてくれ」

「わかった」

「まあ、ユーヤ兄さんの言うことだし」

「もう慣れちゃったわね」

「ええ、私たちもいつまでも驚くだけじゃないですよ」

「きゅいっ!」


 メンバー全員と子竜サイズのエルリクが乗り込む。

 そして、俺は全員が乗った船を持ち上げて……。


「よいしょっと」


 浮遊島の外へ投げた。

 今のステータスならこれぐらいはできる。

 驚かないと言っていたのに、ルーナ以外が悲鳴を上げている。 俺も跳び降りる。

 空気抵抗を減らす姿勢を取ることで先に落ちた船に追いつき、操縦席へ。


「これ、落ちてますよね!? いったい高度何千メートルあるんですか!?」

「フィル、落ち着け。そろそろ見える」


 雲がまったく見えない場所、そこから高度五百メートルほど下に秘密の雲道があるのだ。

 五百メートルと書くと、あっさりした印象を受けるが東京タワーですら三百メートル強しかない。

 雲船は不思議と自由落下のペースが遅いのだが、それでもとんでもない速度になっている。


「あそこを見て! 雲の道があるわ」

「んっ、でも遠い」

「大丈夫だ。覚えているだろう。最上級の炉を使った場合だけ、……飛べる!」


 ウイングが展開される。

 短時間だけだが、飛行をする。

 なんとか、雲の上へ着地。


「やはり、飛行能力が解禁されてると楽だな。おおざっぱに落ちても調整できる」

「あの、ユーヤおじさま、もし中級以下の炉で飛行能力が使えない場合、どうなるのかしら?」

「一発勝負だな。細い雲の道に着地しなければ地面にたたきつけられて死ぬ。マグマロック・ドラゴーレムの炉があって良かった。あれがなければ、あとは初心者用ダンジョンで手に入れたのしかない」

「ユーヤ、なつかしい。あのときは、あいつ強く感じた」


 もちろん、それが上級なわけがなくぎりぎり中級程度の出力しかない。

 それでもできなくはないがひどく難しい。


「それとさ、ユーヤ兄さん、さっきからめちゃくちゃスピード上げてない」

「風が強くて話づらい」

「きゅいぃぃぃぃ」


 お子様二人組が文句をいい、エルリクが必死にルーナのフードにしがみついている。


「スピードを落としたら死ぬからな。この秘密の雲道は、十分に加速するための滑走路だ」

「あの、滑走路ってことは、そういうことですよね」

「察しがいいな。ほら、ジャンプ台が見えた」


 大よそ、三百メートルほど先には、スキーのジャンプ台のように急に上り坂になり、先がない道。

 そして、その遥か彼方に道が見えている。

 この船を手に入れたダンジョンでも似たようなものをみたが、その比じゃない距離。

 それを飛び越えるには最高速度まで加速する必要がある。


「そんな脅さないでよ。ほら、短時間なら飛べるんでしょ」

「言わなかったか? というか、昨日の練習で試してないのか? 飛行は一度使うと三十分は使えないんだ」

「えっ、うそ、ってことはジャンプ失敗したら?」

「真っ逆さまだな」

「ひいいいいいいいい」


 ティルが絶叫する。

 というか、この風の中でよくそこまでしゃべれるものだ。

 残り、百五十メートル。


「ここから全力でいくぞ。舌を噛まないよう、口を開くな。それと道幅がせまい。ジャンプがずれると終わりだから動かれると困る」


 わずかに角度がずれるだけで終わりだ。

 神経を使う。


「それからな、全員帰還石を握っておけ。ジャンプに失敗したら使え!」


 みんながコクコクと頷く。

 目にはそれを先に言えと浮かんでいた。

 さすがの俺も、保険なしにこんな危ないことはしない。

 さらに魔力を注ぎ、加速。

 あまりの速度に頬が引きつる。

 それでも緩めない。

 あっという間に残り距離を食いつぶし、宙に舞う。

 全力で姿勢制御。

 心を落ち着け、着地。ぎりぎり届いた。

 徐々にスピードを落としていく。


「成功だ」

「楽しかった、気持ちいい」

「死ぬかと思ったよ!」

「生きてるって素敵ね」

「……訂正します。驚かないって言ったこと」


 それぞれに感想をいう。


「ほら、着いたぞ」


 それからはあっという間に、隠し島にたどり着く。

 鉱石が光輝く洞窟があり、そこに進むと祠があった。

 祠の中には、三つ口を開けた竜の首が並んでおり、その顔はそれぞれ三竜を模していた。

 さらに下には宝玉を入れるくぼみがある。


「うわっ、わかりやすいね」

「そうね、あの竜の口に宝玉をいれるといいのよね?」

「そうだ。そうすれば、超高難易度であり最高の報酬が約束されたダンジョンへ」


 俺は微笑み、それから三つの宝玉を取り出し、うずうずした顔で見ているルーナとティルにそれを渡す。

 お子様二人組がはしゃぎながら台座にはめ込みに行く。

 そして……。


「すごい揺れ」

「それに光がすごいです」


 祠全体が揺れ、光が満ち、巨大な魔方陣が起動する。

 最難関ダンジョンの一つだけあって、演出が凝っている。

 転送が始まる。

 わくわくしてきた。

 最高のパーティで最難関ダンジョンに挑むのだ。

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