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第十七話:おっさんは船を見つける

わざと浮石を踏んで、雷竜レプリカが来るのを待ち陸地側へと引きつける。

 レプリカで劣化しているとはいえベースがあのとんでもない強さを誇る雷竜。

 油断をすれば一瞬でやられるし、浮石の上で戦おうものなら一方的に虐殺される。


 しかし、こうして身構え、陸地で戦うのなら負けはしない。

 着実に追い詰めていく。

 フィルとティルの矢が翼を射抜いた。

 雷竜が悲鳴を上げながら墜落する。

 その墜落地点では、セレネとルーナと俺がいて、それぞれの最強必殺技を放つ準備は十分。


「【シールドバッシュ】!」

「【アサシンエッジ】!」

「【バッシュ】」


 スパイク、短刀、剣が吸い込まれ、雷竜レプリカが青い粒子となり消えていく。


「よし、厄介なのは倒したな」

「ん。これで安全」

「結構強かったよね」

「そうね、攻撃パターンは知っていても速くて対応が難しいわ」

「陸地で戦えてよかったです。こんなのと浮石の上で戦うと考えるだけでぞっとします」


 それぞれにほっとした顔をしている。


「レアドロップが出たな。こいつは欲しかったんだ。【雷竜の牙】」

「うわぁ、綺麗な牙だし、なんかビリビリしてかっこいいね」


 真っ白で荘厳な牙はティルの言う通り帯電しており、たしかにかっこいい。


「ユーヤ、それ強い武器になる?」

「そうだな。風(雷)属性の強い武器が作れる。単純な威力だけで言うなら、俺の黒い魔剣や、比翼の剣のほうが上なんだが、追加効果で【雷撃】と【加速】を与える武器が作れる。【雷撃】はフィルの【魔力付与】で補えなくもないが、【加速】はとても重要なんだ」


 動きそのものを速くさせるアイテムは数少ない。

 ましてや、武器で【加速】を与えるものは【雷竜の牙】を含めて二本ぐらいしかない。


「へえ、速さか。じゃあ、ルーナ用の短刀にするのかな? ユーヤ兄さんの場合、速さより、力と技って感じだし」

「そのつもりだ。ルーナは【災禍の業火刀】と使い分けることで炎が効かない相手には雷で攻めるという芸当ができる。何より、あとに”最速”を求められる場所があってな」

「ユーヤ兄さん、それってどんなの?」

「ダンジョンのギミックに、制限時間がえげつないところがある。限界まで速度に特化したステータスの持ち主が、己の速さを完璧に生かす走法を身に着け、装飾品と防具、武器すべてが速度上昇効果があるものを身に着ける、そのうえで補助魔法によるブースト。ここまでやってぎりぎりって感じだ」


 ……いやがらせとしか思えない。

 なにせ、レベルアップ時に最高値で引くことが前提の上、盗賊をはじめとした速度補正最高の職業に全装備枠加速と、最高レベルの補助魔法を要求するなんて、条件がきつすぎる。


 しかも、それだけ揃えてもその速度を生かし切る技量がなければどうにもならない。

 ただ、あくまでその速度が求められるギミックはやりこみ要素。クリアしたらご褒美がもらえるってだけで必須ではないのが救い。

 加えて、【試練の塔】をクリアしてレベル上限を70まで引き上げるとあっさりクリアできたりする。


「面白そう。ルーナやってみたい。その速さ、経験したい」

「そう言うと思った。三竜を祭る祭壇に早さが必要なギミックがある。今日、ダンジョンから出たら、鍛冶セットで雷の短剣を作るさ。幸い、【雷竜の牙】以外の必要素材は揃っているしな」

「んっ、楽しみ!」


 ルーナがキツネ尻尾をぶんぶん振っている。

 ルーナなら、理論上の最高速に振り回されず、己の足を見せてくれるだろう。


「それより、こうして楽しく雑談をしているが、早く渡らなくていいのか? レプリカ雷竜が復活するぞ」

「あっ、やばいよ。ルーナ、急ごう」

「ふぉっくすだっしゅ!」

「きゅいっ!」

「ティル、ルーナちゃん、急ぐのはいいけど慌てちゃだめです」

「危なっかしいわね」


 全員で浮石のほうに行く。

 最後の浮石地帯は長い上に、風が止まるタイミングが少なく、かなりの時間を要する。

 多少は余裕があるが、かといってゆっくりもしていられないのだ。


 ◇


 浮石を渡り始めて、一時間三十分後、ようやく最後のセレネが渡り終える。


「ふう、もう二度とこのダンジョンに来たくないわね。まだ、心臓がバクバクしてるわ」


 セレネの弱音にみんながこくこくと頷いている。


「気持ちはわからなくはないがな。また、ここに来ることになるぞ。このダンジョンはレベル四十五を超えたあとだと最良の狩場なんだ。レプリカ雷竜無限狩り以上に効率のいい狩場は、ほかに一つしかない」


 レベルは10刻みに、別世界というほど必要経験値が増える。

 しかし、レベル40台の場合は5刻み。45~50場合は本当に地獄なのだ。

 冗談抜きにゲームのときですら一レベル上げるのに一か月かかると言われた。


「んっ。でも、さっきレプリカ雷竜倒したとき、全員レベルが1上がって46になった。そんな、レベル上がりにくくなった感じしない」

「それは、レプリカ雷竜の経験値がおかしいだけだ。なにせ、奴は三竜とほとんど変わらない経験値があるからな。このレベル帯だろうが、二匹につき一レベル上がる。しかも、三時間に一度回復するからな。二日あれば、レベル50にたどり着けるわけだ」

「うわぁ、めちゃくちゃですね。私たちのときって、最後の5レベル上げるのに、何年もかけたのに」

「だから、今日は船を回収したら、明日また来る」

「ええええ、やだよ。また、あの浮石地獄渡るの!? 怖いし、危ないし」

「ティル、安心しろ。次来るときは楽できるぞ。そのための船だ。それにな、レベル50に届かないまま、三竜の祭壇に行くほうがよほど怖い」


【試練の塔】を除けば最終ダンジョンに位置付けられている。

 配置されている魔物の強さも規格外。あそこは全員最高レベルまで上げて、なおかつ出現する魔物の情報をすべて暗記し、優位に戦うための装備・アイテムをそろえている前提でのバランス調整をされている。

 レベル50に届かないまま、あそこに行くのは自殺と一緒だ。

 あれを知識なし、レベルリセットなしでクリアしたレナードたちのほうがおかしい。


「それなら、もう文句言わないよ。あとね、思ったんだけど。ユーヤ兄さん、ここより効率がいい狩場が一つしかないって言ったよね。なら、そっち行けばいいじゃん」

「その狩場は【試練の塔】だ。あそこは一度踏み入れたら最後、【帰還石】を使えないうえに、行きに使う渦は消えて、クリアするまで出られない。ちなみにな、あそこに行って戻ってきたのは、レナードたちただ一組だけ」

「あははは、こっちでお願いします」


 ティルの笑みが引きつってる。

 さすがのティルも【試練の塔】の怖さは知っているか。


「でも、三竜の祭壇、それが終わればルーナたちはそっちに行く。早いか遅いかの違い」

「そうだな、そのつもりだ」


 レナードとの決闘。

 その前に、レベル上限を外して70まで上げておきたい

ところだ。


「ユーヤ、きっと大丈夫ですよね」

「大丈夫なはずだ。俺たちは強くなった」


 レベルリセットしたものが二人いる。

 それに、ルーナたちはレベルだけじゃなく本当の強さを持っている。

 ちゃんと導けばクリアできるだろう。


「もし、私たちが【試練の塔】をクリアすれば大騒ぎになるわね」

「なにせ、世界で二組目のクリアパーティになるんだからな」


 それは非常に誇らしいこと。

 なんとかしてもやり遂げ、俺のパーティが最高であることを証明したいものだ。


 ◇


 最後の浮島の神殿にはあっさりとたどり着けた。

 それは神殿とは名ばかりで、港町にあるドックのようなものだ。

 港町のドックと違うのは浮き島の外周部、その雲の上に船を泊めているところだろう。


「ユーヤ、これが空飛ぶ船?」

「そうだ。こいつを取りに来た」


 製作者の趣味なのか、ファンタジー感あふれる世界に、なぜかメタリックなジェットスキー。

 それに折り畳み式の翼がある。


「かっこいいわね」

「うんうん。これ、乗りたいよ」

「乗ってもいいぞ。雲の上にいる限りは落ちないからな」


 俺がそういうと、ちょんちょんと足でつついて沈まないことを確認してからティルが飛び乗る。


「うわ、ほんとだ。雲の上に乗ってるよ」

「ルーナもいく!」


 ティルが乗って大丈夫なところを見てルーナも乗り、俺たちもあとに続く。

 全員乗りこんだあとはロープを外す。すると風が吹いて、雲の上を少しだけ進んだ。


「これ、どうやって進むのかしら? 雲をオールで漕いだり?」

「なんか疲れそうだね。それ」

「安心しろ。ちゃんと動力はある。フレアガルドの火山ダンジョンで出会った、マグマロック・ドラゴーレムを覚えているか?」

「ん。覚えてる。すっごい強かった。竜の顔した炎のゴーレム」

「あいつがドロップしたアイテム。【紅蓮の炉心】。これがこの船に火をともす」


 ゴーレム系がドロップする炉心は、からくり系アイテムの動力になる。

 高ランクの炉心ほど出力が大きく、操れるからくりの幅が広い。

【紅蓮の炉心】は最高クラス。

 動かせないからくりはない。


 おあつらえ向きに、空飛ぶジェットスキーには、炉心をセットする場所があり、【紅蓮の炉心】をセット。

 船に火がともる。

 コンソールの代わりに水晶がセットされており、それに触れた瞬間、この船の操作方法が脳裏に刻まれる。


「いくぞ、みんなしっかりつかまっていろよ」


 俺はにやりと笑う。

 そして、エンジン音がなり、ジェットスキーの後方から炎が噴射され急加速。

 ラプトル馬車なんか目じゃない速度。

 このドックからダンジョンの出口までは雲の道が用意されており、そこを突っ切っていく。


「きゃああああああああああああああああああああ」

「あははははははははははははあはははははははは」

「んっ」

「……っ、ユーヤ飛ばし過ぎです!」


 悲鳴を上げるセレネ、楽しそうに笑うティル、無表情のルーナ、たしなめてくるフィル。

 こういうときは性格がでるな。


「きゃっ、ユーヤ、前見て、雲の切れ目が。減速してください!」


 フィルが悲鳴をあげる。

 これはあくまで雲の上を行く船であり、飛行しているわけじゃない。

 雲を逸れれば落ちるのだ。


「【紅蓮の炉心】の出力があれば、あれぐらい大丈夫だ。このまま飛び越える!」


 脳裏に浮かんだ操作法を試す。

 側面の折りたたまれたウイングが展開、水平方向だった背部の噴射口の角度が変わる。


 そして、雲から飛び上がって空を飛んだ。

 最高ランクの炉心をセットした状態でのみ、二、三十秒ほどだが飛行できるのだ! 【紅蓮の炉心】でなければこうはいかない。


 雲の切れ間を飛び越えて、新たな雲の道へと飛ぶ。

 みんなの絶叫を聞きながら着地。

 さすがのティルも今回ばかりは心底驚いたようで、笑い声じゃなくて悲鳴だった。


「どうだ、なかなかすごいだろ?」

「ユーヤ兄さん、こういうのはちゃんと言ってよ!」

「……あやうく漏らすところだったわね」

「ルーナはユーヤを信じてた」

「かなり怖かったです」

「悪い。でも、これのすごさはわかっただろう?」


 超高速で雲を進み、そして短時間なら飛行できる。

 それに、実は水の上もジェットスキーとして使えて非常に便利だ。


「これがあれば、三竜の祭壇にいける。……その前に、レベル上げがあるがな」


 ここのダンジョンはすべてこの船があれば浮島間の行き来が楽に設定されている。

 明日は、レプリカ雷竜狩りポイントへは楽にたどり着けるだろう。


「ユーヤ兄さん、安全運転で頼むね」

「ああ、気を付けよう。それとも運転を変わろうか?」

「やだよ、失敗したら真っ逆さまな乗り物の運転なんて」

「そっか」


 ゴールである、青い渦と陸地が見えた。そろそろ減速しよう。

 陸地につき、船を降りて、船を【収納袋】に片付ける。

 これで必要なものは揃った。

 一日か、二日レベル上げをすれば三竜の祭壇へ向かう。

 そして、三竜の祭壇をクリアし、称号と祝福、それからレアアイテムを手に入れれば、いよいよ次は【試練の塔】だ。

 いよいよ俺たちも最強へと近づいてきた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前にも一度描写があったけど、結局フィルは雷エンチャも取得してるのかな。 ポイントたりないと言ってたはずなのに。ティルが雷持ってるから取らないと言っていたのに。
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