第十五話:おっさんは【七色とり肉】を堪能する
夜、フィルが料理を始めて、お子様二人組が料理を待つ間に謎ダンスをしている。
エルリクも子竜モードで一緒に踊っていた。
「なんで、エルリクが子竜形態になっているんだ」
街の中や酒場では邪魔になるため、子竜形態になる必要はあるが、ダンジョンの中ではそんな必要はない。
実際、つい先ほどまでは通常モードだったのだ。
「んっ、エルリクがね、ごはんの時間は小さいほうが、いっぱい食べれてお得だって言ってる」
「きゅいっ!」
その発想はなかった。言われてみれば、小さいほうがお腹いっぱいにはなるのは間違いない。
妙なところで知恵が回る。
ただ、それで必要な栄養が摂取できるのか? と思わなくもないが、不思議生物に突っ込んだら負けだ。
そんな謎ダンス中にもフィルは忙しく料理をしている。
それをセレネが手伝っていた。
フィルの指示で巨大な岩を腰の剣で斬る。そして石の周囲に薪を並べて火をつけ、石ごと温める。
十分に石が温まったところで、ダチョウの卵クラスの卵(並)を落とす。
卵(並)はなんと2kg近い。普通の卵の三十倍にもなる。
そのため、フライパンになんて乗らず、こんなものを作る必要があった。
「すごい迫力だな」
「そうね。でもとっても美味しそうよ」
じゅううっといい音がなる。
その上に、大量の濡れた葉っぱを乗せた。
蒸し焼きにするためだ。たっぷりと水を吸った葉っぱは燃えないし、蒸気を閉じ込めて卵が蒸される。
普通にやれば黄身に火を通すことは難しいし、大きすぎてひっくり返すのも難しい。
頭のいい調理方法だ。
その間に、フィルは肉の塊をそのまま串にさして、たき火であぶり始めた。
「料理上手のフィルにしては珍しく、あまり手間をかけないんだな」
「このお肉を料理をするのって、とっても難しいんですよね。なにせ、【七色とり肉】って、見た目からして七色だし、色の部分によって味が変わるんですよ。その七つの味があるせいで、凝った料理をすると、美味しい部分とまずい部分が出来ちゃいます」
カットして、それぞれ部位に合った料理をすればいいのだが、それだとせっかくの七色肉のだいご味がなくなる。
だからシンプルに丸焼きなんだろう。
「でも、その代わりタレはたくさん作りました。いろんな味があるので部位によって好きなのを使ってください。名付けて、レインボー・たれ」
フィルが出したのは、甘いタレ、すっぱいタレ、辛いタレ、あっさりしたタレなどなど。
レインボーというだけあって七つもそろえている。
「楽しそうだな」
「はいっ、そろそろできます。……目玉焼きも、お肉もいい頃合いです」
葉っぱをとると、目玉焼きは半熟に仕上がり、【七色とり肉】も中まで火が通った。
「みんなご飯ですよ」
「んっ、ごはん!」
「うわぁい、美味しそう。てか、でかっ、なにそのお化け目玉焼き!」
「きゅいっ!」
謎ダンスをやめて、お子様二人組とエルリクがやってきた。
フィルを手伝っていたセレネは皿を並べている。
「みんな、食べよう。【七色とり肉】楽しみだな」
いったい、どんな味がするだろう。
◇
【七色とり肉】をフィルが切り分けて配る。
焼かれても、肉はもとの七色が残っている。
そして、目玉焼きも取り分けられた。
普通の目玉焼きの三十倍。なんていうか、半熟卵の黄身をナイフで切り分けるっていうのは新鮮な感覚だ。
それを口に運ぶ。
「いいな、これ」
味自体は普通の卵より、若干濃いめで感動するほどのものじゃない。
だけど、半熟の目玉焼きの黄身を頬張るというのはいい。
とても濃厚で満足感がある。
くせになりそうだ。
ルーナたちは、【七色とり肉】を食べ始める。
「この赤いお肉、コリコリして面白い、鉄っぽい味、噛めば噛むほど味がでる」
「黄色いのは脂たっぷりでぷりぷりだね」
「青いのは、しっとりしてさっぱりしていいわ」
「私のお気に入りはこの緑ですね。ちょっとぱさぱさしますが、濃厚で味は一番いいです。タレを染み込ませるとぱさぱさ感も気になりませんし」
俺も、そっちを食べてみる。
たしかに色ごとに全然味が違う。
それだけに、レインボー・タレといろんな組み合わせを考えるのが面白い。
俺のお気に入りは、黄色の脂が乗ったぷりぷりの肉と、レモンをベースにしたさっぱりタレの組み合わせ。
「ユーヤ、見て。ルーナのお気に入りの赤い肉、これに辛いソースをつけて、たっぷり目玉焼きの黄身をまぶせば、さいこー」
「あっ、それ美味しそうだね」
「私もやるわ」
ルーナがあまりにも美味しそうに食べるので、俺たちもやってみる。
コリコリの赤い肉、それに辛いソースの相性は抜群で、卵の黄身をつけると、その辛みがまろやかになる。
俺の黄色肉の檸檬タレよりいいかも。
「美味しいですね。もしかしたら、ルーナちゃんは料理のセンスがあるかも。今度から、料理手伝ってもらいましょうか?」
「……んっ、ユーヤ、ルーナが料理作れたらうれしい?」
「そうだな。ルーナの料理を食べてみたいな」
「じゃあ、がんばる。ルーナ、料理を覚える」
「ああ、ルーナ抜け駆けずるいよ。私も私も」
「ティル、あなたどれだけ教えようとしても、逃げてましたよね……」
「わっ、私だって成長するんだよ」
楽しい夕食の時間は過ぎていく。
「きゅいっ!」
エルリクも満足そうだ。
エルリクは切り分けて食べるより、いろんな味を一口で食べるのが好きなようだ。
それを見て、肉の組み合わせもいろいろと試してみた。
うん、うまい。
ユニーク肉は、毎回新しい味と感動を教えてくれる。
こういうのがあるから冒険は辞められない。
◇
食後は、それぞれの魔法を羽根に込めた。
「ふふふ、一番広範囲の魔法と言えば、私の【神雷】だよね。派手だし、便利だよ!」
「私は【回復】をいくつか込めておくわね」
「俺の【超電導弾】と【爆熱神掌】はいくつか必要だな」
「では、私は各種、ベール系を。とっさの防御に使えます」
今、みんなが口にした魔法がメインになる。
フィルの【魔力付与】も便利ではあるが、あれは効果時間が長く、事前に準備でき、とっさの発動が必要な機会は少ないので却下。
俺の【永久凍土】は、使いどころは少ないからいらない。
今、使うと言った魔法が使用頻度の高いものだ。
「むう、ルーナは魔法を使えない……寂しい」
「逆に考えれば、一番、羽を使って強くなれるのがルーナかもな。今まで使えなかった力が使えるんだから」
「たしかに! ルーナ、魔法を使えて強くなる」
現金なもので、一気に立ち直った。
「こうして手札が増えたんだ。一度、戦術を考え直してみよう。それぞれが今まで使えなかった魔法を使えるんだから、いろんなパターンが考えられる」
前衛が後衛の魔法を。
後衛が前衛の魔法を。
少し考えただけで、いくらでも新戦術が頭に浮かぶ。
「今日の夜は長くなります。あっ、その前にデザートがありますよ。冷やすのに時間がかかって完成が今になっちゃいました」
フィルが、奥から卵(並)を取り出す。
「お姉ちゃん、まさか、それ生卵を食べるの?」
「いえ、違いますよ。えいっ」
ハンマーが振り下ろされ、卵の上部の殻が割れる。
すると中にあるのは、ぷるぷるとした黄色いプリン。
「じゃーん、卵まるごとプリンです。せっかくなんで、卵の殻を容器にしてみました!」
「美味しそう! たくさんある!」
「お姉ちゃん、すっごくお洒落だよ」
「小皿じゃなくてどんぶりが必要ね」
そうして、俺たちは3kg近くある特大プリンをどんぶりにとりわけ、デザートを楽しんだ。
普通の卵より濃厚という特徴は、プリンには最適で非常に美味だった。
……ただ、問題があるとすれば、甘いものをお腹いっぱい食べたせいで、お子様二人組が早々に寝落ちしたこと。
話し合いは中断。そのまま、みんなテントに戻ることになった。
まあ、たまにはこういう日もありだ。
また、この巨大卵プリンは食べてみたいものだ。
味も大事だが、やはり見た目も大事で、こんなにわくわくするデザートは他にないだろう。




