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第十四話:おっさんは虹色クジャクを倒す

 無事、浮遊石の橋を渡り次の島に渡れた。

 ルーナやティル、セレネは怖がっていたが一度渡れたというのは重要だ。

 たいがいのことは一度やると慣れてしまう。

 次からはもっとスムーズにいくだろう。


「お肉、お肉!」

「絶対に逃がさないよ!」


 そして、さっそく浮遊島を渡ったご褒美が現れた。

 それは、このダンジョンで是非倒したいと思っていた魔物、レインボー・クジャク。

 虹色のクジャク。

 そいつが翼を広げて威嚇している。

 このダンジョンに生息するユニークの肉をドロップする魔物だ。

 その味は、鳥肉(上)すらも超える。


「油断するなよ。強いからな、そいつ」

「ん。わかった」

「ふふん、どれだけ強くても、私たちはもっと強いよ」


 ルーナがナイフを構えて走り、ティルは足を止め、弓を構える。

 ティルが矢を放つ。

 その矢は正確にレインボー・クジャクに飛来する。

 しかし……。


「えっ、うそ、打ち落とされたよ!?」


 大きく広げた翼はただの飾りじゃない。

 名前のとおり、七色にセパレートした虹のような翼、そのうち赤色の羽が輝き、火炎を打ち出し、矢を焼き払ったのだ。


「ちゃんす」


 通常、魔法を使った後には数秒の硬直があり、その硬直を狙うのはセオリー。

 セオリーどおり、ルーナがキツネ尻尾をたなびかせながら走る。


「キュウウウン」

「うそっ」


 突進するルーナめがけて、今度は青い翼から氷の矢が飛来する。

 ルーナはセオリーを妄信していたから、反撃なんて想定していない。

 硬直を狙い、全速力で突進していたせいで、躱せず直撃を喰らい、傷を負い転倒。


 幸い威力はさほど高くなく、軽傷ではある。

 ルーナが直撃を喰らうところを久しぶりにみた。

 ……これが上級魔物の怖いところだ。ここまでくる冒険者たちは、今までの経験から敵の動きを先読みする。


 しかし上級魔物は、冒険者の経験則を裏切ってくるのだ。


「ピイイイイイイイイイイイ!」


 レインボー・クジャクが倒れたルーナに向かい追撃の魔法を放つ。

 緑から刃のように硬質化した葉っぱと、青からは水の奔流が放たれている。

 魔法の詠唱・硬直を考えるとありえない現象。

 四連続で詠唱・硬直を無視しているのだから。


「ぎりぎり間に合ったわね」

「ありがと、セレネ」


 セレネがルーナをかばい、魔法を盾で受ける。

 その後ろから、フィルが矢を放ち、また撃墜されたものの、その次の矢が突き刺さり、レインボー・クジャクに隙ができる。

 その隙を突いて俺は走る。

 再びの詠唱なしの魔法。オレンジの翼からは放射型の炎。


 それは想定のうち。

 放射型はかわし辛いが、威力は落ちる。覚悟していれば突っ切れる。

 剣の間合いに入る。

 あれだけ、好き勝手、詠唱・硬直を破棄していたレインボー・クジャクなのに、もう魔法は撃たない。

 いや、撃てない。

 レインボー・クジャクが放てる魔法には限りが有るのだ。


「【バッシュ】」


 発生が早く、硬直が少ない、使いやすい剣技スキルを発動。

 レインボー・クジャクを捉える。

 さすがに上級魔物であり、一撃では死なないが、ほぼ致命傷。

 追撃のフィルとティルの矢で倒れ、青い粒子に変わっていく。


「ドロップは卵(並)、それとこいつか」


 残念ながら、ユニークドロップではなかった。

 まあ、これはこれでありがたい。

 それにボリュームもある、ラグビーボール大、ダチョウの卵くらいにでかい。

 味自体は、普通の卵より少しうまいぐらいなのだが、栄養価が非常に高く、でかい目玉焼きはそれだけでわくわくする。

 それから赤い羽根。


「むう、納得いかない。魔法の硬直狙うのは鉄則」


 セレネの【回復ヒール】で怪我を治したルーナが近くにやってきた。


「そうだ。鉄則だな。だがな、覚えておくといい。上級の魔物は、その鉄則を覆してくる。上級冒険者ほど、セオリーを重視するせいで、罠に嵌る。セオリーは大事だが、依存しちゃだめだ。このレインボー・クジャクは七色の羽にそれぞれ魔法をストックしている。七発までなら、詠唱・硬直なしで放てる」


 それがレインボー・クジャクの能力。

 七発魔法を放ったあと、翼に魔法を再び充填する際には大きな隙ができてしまう。

 それを差し引いても七発も無詠唱かつ、硬直踏み倒しの魔法が使えるのは非常に強力。

 せめてもの救いは、レインボー・クジャクの呪力パラメータが、上級魔物としては低く設定されていること。

 そうでなければ、ルーナは無事では済まなかっただろう。


「ずるい」

「そのずるさこそが、上級魔物の強さだ。それに、そういう魔物がドロップするアイテムは便利だぞ」

「おっきな卵と赤い羽根!」


 ルーナが走ってそれを拾ってくる。


「卵はでかくてうまいだけだが、この赤い羽根は面白いぞ。貸してみろ」

「どーぞ」


 ルーナから赤い羽根を受け取る。

 それを摘まみ、詠唱を始める。

 放つ魔法は、中級火炎魔法【炎嵐】カスタム。


「【爆熱神掌】」


 俺の切り札となる、超圧縮された炎の魔術。

 それが赤い羽根に吸い込まれる。


「うわぁ、ユーヤの魔法が消えた」


 ルーナが驚きの顔で赤い羽根を見つめる。

 そこに、ティルやセレネたちが集まってくる。


「ねえ、もしかして羽が吸収した魔法を使えたりするのかな」

「だとしたら最高ね」

「その、もしかしてだ。この赤い羽根には炎属性の魔法ならなんでも閉じ込められる。そして、【解放】と唱えると、その魔法を放てる。……そうだなルーナが持っていてくれ、俺の【爆熱神掌】は近接魔法。ルーナが一番うまく使える」

「大事に使う!」


 ルーナに赤い羽根を返す。

 それを大事そうにルーナはポシェットに入れた。


「ああ、それ、レインボー・クジャクもドロップするんですね」

「フィルは見たことがあったか」

「はい、便利ですよね」

「魔法を人に渡せる以外にも、自分で使うのもありだからな。魔力を消費せず、詠唱も硬直もない」


 後者だけで十分に強い。

 魔法を使える本人でも大量に持ち込むのもありだ。


「でも、それものすごく高いのに、使い捨てなのが難点なんですよね」

「それにドロップする魔物が少なすぎる」


 赤い羽根は、【魔封じの羽(赤)】というのが正式名称。

 魔封じの羽は、色によって込められる魔法の種類が変わる。

 そして、本来なら色ごとにドロップする魔物が違う。

 そのいずれも、なかなか出会えない魔物。


 このレインボー・クジャクは、そのいずれかの色をした羽を確定でドロップするというので非常にありがたい存在だ。


「使い捨て……残念」

「使うべきときには使え、躊躇わずにな。貴重とはいえ、道具は道具だ」


 道具は使って初めて意味がある。

 ちなみに俺は、ゲームではエリクサーを躊躇わずに使うタイプ。


「んっ、使うべきときに使う」

「それにな、レインボー・クジャク、肉をドロップするまで狩るんだろ。こいつはな、一匹目に出会うのは大変なんだ。無数にある浮遊島のいずれかにしか出現しないからな。だが、一匹見つければあとは楽。その一つしかない島には、たくさんいる」


 俺の言葉にルーナたちの顔が緩む。


「やった! たくさんいるならお肉ゲットできる!」

「今日の分だけじゃなくて、たくさん獲り溜めするよ」

「羽もたくさんゲットしておかないとね。私、【シールドバッシュ】以外に火力がないから、こういうのは欲しいわ」

「数があれば、前衛にも、【フレアベール】とか【回復ヒール】を持たせられますね」


 ユニークな肉と、便利な羽。

 それを同時にがっつり稼げる。

 こんな機会はそうそうない。この島のレインボー・クジャクを狩りつくしてやろう。


 ◇


 そして、半日が過ぎ、日が暮れ始めたころ狩りを終えて、次の島に移り、野営の準備を終えた。

 そして、そこには……。


「ユーヤ、見て【七色とり肉】たくさんある!」

「卵もたくさんあるね。お姉ちゃん、美味しいの作ってよね」

「任せてください。とっても美味しいの作りますから」

「羽根もたくさんあるわ。あとでどの羽根にどんな魔法を込めて、誰が持つか話し合いましょう」


 十分な成果を得た。

 うまい肉を食うのも、【魔封じの羽】をどう使うのか考えるのも楽しそうだ。

 今日はいい夜になるだろう。

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