第十話:おっさんは剣鳥を倒す
モンスターコミックス様でコミカライズの連載が始まったみたいですよ!
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天空都市へやってきた。
すでに、俺たちが渡るのに使った山脈は見えなくなり、ぐんぐん高度を上げている。
おそるおそるといった様子で、ルーナたちがガケから下を見下ろしていた。
「すごく高い。ぜんぜん、下が見えない」
「ちょっと耳がきーんってするよ」
「私もです」
すでに高度は三千メートル以上だ。気圧の変化で、耳がいいエルフの姉妹は苦しそうだ。
これぐらいの高度で浮遊島ラピュナは飛行する。
この高度になると空気が薄く、慣れるまでは少々辛い。
冒険者の中では、ここでトレーニングをするものもいる。ある種の低酸素トレーニングになり持久力が付きやすいのだ。
「ユーヤおじ様、びっくりするぐらい賑やかね。特産品が売れるとは聞いていたけど、想像以上よ」
「ああ、今回はキャラバンが来ているからな」
何日かに一回、陸路とつながるこの場所にキャラバンがやってくる。
そうして、多くの商人たちと積み荷を乗せて天空都市を目指す。
キャラバンのように大規模であれば、上級冒険者を数人雇っても一人当たりの負担は軽く、安全に街までたどり着ける。
キャラバンがやってくる日は、いつも以上に渡ってくるものが多く、今日のにぎわいはそれも理由の一つだった。
商人たちの景気のいい声がさきほどから聞こえてくる。
中には屋台などを開いているものもいて、なかなか盛況のようだ。
「ユーヤ、キャラバン使うの?」
「いや、あれは安全だが少々遅い。俺たちはラプトル馬車で行こう」
俺のパーティなら魔物に襲われてもどうにでもなる。
速さを優先したほうがいい。
それに、キャラバンが街につけば、いい宿はすぐに埋まるだろう。団体さんがやってくる前に宿を押さえたい。
「なら、急ぎましょう。……でも、その前に屋台で何か買っていきませんか? ラプトルの足でも半日はかかりますし、あったかいものを食べたいです」
「ルーナも賛成。いい匂いがする。ティル、買いにいこ」
「じゃあ、行ってくるね」
お子様二人組が走っていく。
こういう買い出しは率先して行ってくれるのだ。
なにせ、食べたいものを購入できるのは、買い出しに行ったものの権利だから。
そんな二人を見届けつつ、ラプトルに水を飲ませておく。
さて、浮遊島の冒険はどうなるかな。
◇
ラプトル馬車が軽快に街道を走る。
街道はしっかりと整備されていた。やはり、特産品目当ての商人が多く、金があるからだろう。
道を見れば、街がどれだけ潤っているのかがわかる。
……ただ、いつも以上に周囲の警戒はしておく。
この浮遊島は野良魔物すら強い。それこそ上級冒険者でなければ手も足もでないような魔物ばかり。
それもあり、ルーナには【気配感知】スキルを使うように言いつけてあった。
杞憂に終わってくれればいいのだが、残念ながらそうはならないらしい。
「ユーヤ、空からすごい勢いで魔物がこっちに向かってる。おっきな鳥!」
「浮遊島らしい魔物だな」
俺たちが今まで訪れた街の数々、そこにあるダンジョンにはそれぞれテーマがあった。
たとえばグリーンウッドは森、フレアガルドは炎、リバークルは水。
そして、この浮遊島は空だ。
ダンジョンも、空をイメージしたものが多く、魔物も飛行能力を持ったものが多い。
ラプトルを止め、全員が飛び出す。
魔物が上空を通りすぎ、旋回して戻ってくる。
「ソード・イーグルか」
翼を広げれば、三メートルにも至る青い巨鳥。
その最大の特徴は、両足がそれぞれ剣になっていること。急降下しながらあの剣で切り裂く。
そして、よくよく見ると青紫の液体が剣を覆っている。
強力な毒でかすっただけで、まともに動けなくなる。剣戟と毒の二段構え。
上級の魔物らしくいやらしい。
「あの剣は絶対に食らうな、受け止めることも禁止だ。あの青紫の毒が皮膚に触れただけで、動けなくなる。フィル、ティル。翼を狙え。あれは急所に当てても一撃で落とせない、まずは地上に叩き落す」
「任せてください」
「……あっ、うん、がんばるよ」
戦闘になってもティルの返事がワンテンポ遅い。
心のどこかで、戦いの中なら心配ないと思っていたが、甘かったようだ。
これはもう時間が解決してくれるなんてことは言っていられない。
ソード・イーグルが急降下してくる。
翼を畳み、弾丸のように。
あまりにも速く、あまりにも的が小さい。それでもフィルは狙い撃つが、嘴は槍の穂先のようになっておりはじかれる。
地表すれすれで翼を広げ滑空しながら、剣の足を向けてルーナを狙っている。
その一撃をルーナが躱し、エルフ姉妹の矢が滑空のために広げた翼を打ち抜く。
「キュイイイイイイ」
ソード・イーグルの悲鳴が響く。
傷ついた翼で羽ばたこうとするも、バランスを崩して墜落。
「セレネ!」
「わかっているわ」
その墜落した先にはセレネがいて、盾を構え走っていた。
そして、踏み込み、全身の力を集約しながら盾を突き出す。
「【シールドバッシュ】」
インパクトの瞬間に、液状金属のスパイクが射出され、同時に防御力を攻撃力に変換する【シールドバッシュ】が発動。
俺たちのパーティにおける最大火力が突き刺さり、ソード・イーグルは青い粒子へと変わっていく。
「さすがに強いな」
「私の矢をはじいたのは少しびっくりしましたね」
「ん、ルーナは躱すだけじゃなくてカウンター決めるつもりだったのに速すぎて無理だった」
「一体だからいいけど、こういう魔物が群れでくると辛いわね」
今回はたまたま一体だけだったが、群れで来られることが多い。
その場合、もっと苦戦しただろう。
「あっ、ドロップアイテム。小瓶に入った青紫の液体。すっごいねっとりしてる」
「見るからに毒々しいわね」
「まあ、毒だからな。それもかなりどぎつい。【剣鳥の紫毒】と言ってな、ソロだとこれを食らうだけで終わる。あまりの激痛で解毒薬を持っていても使うことすらできない」
上級魔物の毒であり、極めて強烈だ。
冒険者ですらそれだ。もし、一般人がやられようものなら一分も保たずに死ぬ。それも毒が回る前に激痛によるショック死だ。
「ユーヤ、この前のサソリの毒みたいにそれも薬になるの?」
「こいつはどうにもならないな。だけど、武器にはなる。こいつを剣に垂らして切りつけると、魔物相手でも有効だ。実は、前から欲しいと思っていたんだ」
うちのパーティには状態異常などの絡め手を使えるものがいない。
中には物理攻撃と、全属性が効かない代わりに毒に弱い。
そんな魔物もいる。
というか、これから行くダンジョンにも心当たりがある。
「わかった。でも、ちょっと使うの怖い。毒を剣に塗ったら、振ったときにはねて、自分にかかっちゃいそう」
「コツがある。あとで教えてやる」
「ん、お願い」
強力なだけに扱いには注意が必要だ。
そして……。
「ティル、街に着いたら二人きりでゆっくり話そう」
少し前から気にはしていたが、さすがに戦闘に支障がでた。
指示を出してから動き出すまでに一拍遅れている。状況によっては、それが命取りになる。
これはもう放っておけない。
「えっ、あ、その、今日は、その用事があるかなーって」
「ダメだ。用事もなにも初めていく街だろう」
「お姉ちゃんとの訓練が」
「今日は訓練を休みにします。だから、ちゃんとユーヤと話しなさい」
「ううう、そんなぁ」
こうして、話す機会は作った。
だけど、どうしたものか。
こういうのはあまり得意ではない。
ティルに見えないところで、こっそりフィルに相談しよう。
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