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第八話:おっさんはやらかす

 明け方まで飲み、そのあと運動したので体が重い。

 このままじゃ、今日一日つぶれてしまう。そうならないよう、普段は使わない裏技を使うことにした。


 ポーションによっては二日酔いすら治してしまう。

 一部の冒険者は毎日浴びるように酒を飲んで、ポーションで二日酔いを治してまた飲むという荒業をやっていたりする。

 俺の場合、くせになるとダメなので滅多にしないのだが、今日ぐらいはいいだろう。


 隣でフィルが横になっている。

 着ている服は、結婚式でも使っていた【精霊の羽衣】だ。

 明け方まで宴は続き、帰ってきてから結婚初夜なのに愛し合わないのは寂しいと二人で話し、そのまま夜の営みをした。

 そのときにどうせならその服を着たままがいいと俺がリクエストしたため、今も【精霊の羽衣】を身に着けていた。

 ……あまりアブノーマルな性癖はないのだが、どうしてもウエディングドレスでというのは、してみたかったし一生に一度しかこんな機会はない。


 いつも以上に燃え上がり、ことが終わったあとには着替えるだけの体力もなく、フィルは気を失い今に至る。

 そんなフィルを五分近く見続けていた。フィルの頭をなでる。

 俺のものになったと思うと、愛しさが込み上げてくる。


「俺を好きになってくれて、ありがとな」


 フィルなら、いくらでも相手は選び放題だった。

 かつてのパーティでの知名度と受付嬢の人気。それゆえに、フィルは伝説級の冒険者、大聖人、果ては貴族からすらプロポーズされたと聞いている。

 それなのに十年以上、俺のことだけを愛し続けてくれた。

 感謝してもしきれない。


「それは私のセリフです。ユーヤは昔から意外とモテてましたからね。面倒見がいいし、頼りになる大人の男って感じで。ずっと誰かにとられるんじゃないかって不安でした」

「起きてたのか」

「ついさっき。……頭が痛いです。こんなに飲んだのは数年ぶりです」

【精霊の羽衣】が着崩れて、いろいろと見えてはいけないものが見えている。

 ……昨日あれだけやったのに、また押し倒したくなってきた。


「これを飲め」

「ありがとうございます。【中級解毒ポーション】。これ飲むとどんな二日酔いも一発ですよね」


 ちなみに女性冒険者にとっては必須アイテムだったりする。冒険者は荒くれものだ。女を酔い潰して、悪いことをしようという輩が多いので、身の危険を感じたら即座に酔いを覚ますために持っているのだ。

 フィルがポーションを飲む。

 次第に顔色が良くなっていく。


「ついでに、【眠気覚ましポーション】も飲んでおくか」

「はい、いただきます」


 そして、ポーションが有用なのはなにも二日酔いだけじゃない。

 寝不足でも、魔物の睡眠攻撃対策に使う【眠気覚ましポーション】を飲むと、数時間意識がはっきりする。


 完徹でも意識が澄み渡るぐらいだ。

 今日はこれからぐっすり眠りたいところだが、いろいろと挨拶回りがあるのでそういうわけにはいかない。

 ただ、あくまで疲れを感じなくなるだけなので、乱用すると体を壊す。

 それでも、長期探索では非常に頼りになる。


「ふう、効きますね。……意識がはっきりしたせいか、体のべたつきが気になります。湖に行きませんか。水浴びをしましょう」

「それがいい」


 体がいろんなものでべたべたなうえ、酒臭い。

 ちょっと、今のままでは人前に出られない。

 フィルと二人で着替えて、それから部屋をでる。

 扉が重い……、立て付けが悪いのか、そう思って力を込める。


「きゃっ」

「うわっ、ルーナ、重いよ」


 お子様二人組が扉の前で倒れてた。

 二人とも顔を真っ赤にしていた。


「どうした、二人とも」

「いや、別になんでもないよ」

「んっ。ルーナたちは何も見てない。フィルの声がうるさいし、どんどん音がなってたから様子を見に来てた。ユーヤたちすごくて、声かけられなかったから覗いてた」

「ちょっ、ルーナ、まずいって」


 ティルが大慌てになっている。

 普段はフィルをからかう彼女だが、さすがに今回はまずいと思っているようだ。

 いつも、俺たちが愛し合うときは、ほかのみんなに気付かれないように極力声を殺したりしているのだが、疲れと酒と雰囲気で、配慮が欠けてしまった。


「その、あれだ。ああいうのは結婚した男女がやることだ。だから、ルーナたちは気にしないほうがいい」

「うそ。前、テントで同じことしてた」


 訂正。わきが甘かったのは今回だけじゃない。


「フィルとは結婚の約束をしていたから。結婚の約束をしてれば、結婚をしなきゃダメなこともしていいんだ」

「……んっ、わかった。すごく、フィル楽しそうだった。ユーヤ、ルーナもユーヤと結婚の約束したら、ああいうことできる?」

「それはそうだが、結婚は一人の女性としかできない」

「残念。ユーヤとフィルのを見てたら、なんかお腹の下のほうが熱くなって、きゅんとして、ルーナもやってみたくなった。前のときはそうならなかったのに不思議。ティルも興味津々、鍵穴に張り付いて、ぜんぜん代わってくれなかった。たぶん、ティルもやりたがってる」


 ルーナがキツネ耳をぺたんとして落ち込んでいる。

 ティルのほうは、ルーナが無邪気にとんでもないことを言っているのを聞いて、目を白黒させていた。

 ティルは人をからかったりいじるのは得意だが、逆に攻められるとひどく弱い。

 こう見えて、根は恥ずかしがり屋だったりする。

 しばらくするとルーナが首を傾げた。


「でも、おかしい。ユーヤは、嘘だけどティルと結婚の約束してるって、エルフの里に認めさせた。結婚を一人としかできないなら、そんなことできない。ユーヤはルーナに嘘ついてる」


 ルーナは頭がいいし、するどい。

 下手な嘘はすぐにばれてしまう。


「……まあ、その、国や地域によってそのあたりのルールは変わるんだ」

「なら、結婚できる国にいるときだけ、ルーナに同じことして」


 逃げ道が塞がれていく。


「それもだめだ。十六にならないと結婚できないし。ルーナのことは好きだが、結婚したくなる好きとは違う。あまり、俺を困らせないでくれ」

「んっ、わかった。ユーヤ、どうやったらルーナへの好きがそういう好きになる?」

「それは俺にもわからないな」


 そこまで言うと、ようやく引き下がってくれた。

 ただ、諦めたわけじゃなく、俺以外にいろいろと聞くつもりのようだ。

 ……変なことを吹き込まれなければいいが。


 ◇


 あれからルーナの追及をかわし、湖に来ていた。

 相変わらず、エルフの村付近にある湖はきれいだ。

 透き通るし、心を安らかにしてくれる。

 そこで体を清めると、汚れだけじゃなく疲れまで落ちていく気がする。

 水浴びのあとはルーナは魚を取り、ティルが鳥をしとめ、セレネが薪を集めて、フィルが料理をすることで、現地調達した食材での昼食会が開かれる。


「フィル、この魚料理はいいな」

「エランドの名物料理、パイ包み焼きです。こうすると、うまみが全部パイに吸収されて、美味しいです」

「ルーナは、鳥の串焼きが好き」

「今日のパンは、平べったくて面白いわね。大きな石に張り付けて焼くなんて初めてみたわ」


 ルーナとセレネはいつも以上によく食べている。昨日、あれだけごちそうを食べたというのに。強い胃袋も冒険者の資質と言える。

 それに比べて、ティルはあまり食が進んでいない。


「ティル、食欲がないんですか」

「えっ、あっ、ううん、ぜんぜんそんなことないよっ。お姉ちゃんの料理はおいしいね!」


 ティルはいつもと様子が違う。俺やフィルと目が合うたびに顔を赤くして背けている。

 昨日ののぞき見はティルにとって刺激が強すぎたらしい。


「食事が終われば、俺とフィルは挨拶回りにいく。その間、みんなには消耗品を買い集めてほしい。とくにこの村でないと買えないものをな」

「ユーヤおじさま、そうするということはもうすぐこの街を出るということかしら」

「そうだ明日の朝には出発する。次の目的地は三竜の宝玉を捧げる祭壇があるダンジョンに一番近い街だ」


 三竜の宝玉を捧げる祭壇があるダンジョンは隠しダンジョンであり、そのダンジョンにたどり着くことすら難しい。

 大きな街の近くにあるのに、気付かれていないぐらいだ。

 実際、俺も前世の知識がなければまず気が付かなかっただろう。

 ルーナが目を輝かせる。


「三竜、倒すのすっごい大変だった。きっと、三竜の祭壇、すっごいの手に入る」


 苦労する分、いいものが手に入るというのは思い込みに過ぎないが、今回においてはそれは当たっている。

 この試練を乗り越えれば、全員確実に強くなる。


「今日がこの村で過ごす最後の日だ。心残りがないように過ごしてくれ」

「んっ、わかった」

「今回の里帰り、長いようで短かったね」

「そうね。でも、楽しかったわ」

「ええ、私もみんなの顔が見れてよかった。それに、ちゃんとユーヤとのこと認められてうれしいです」


 エルフの村では、さまざまなものを得た。なにより、フィルと結ばれた。

 この幸せを逃がさぬよう、次の街でも頑張っていこう。

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[良い点] 主人公の性格ぎどんどん腐ってる
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