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第五話:おっさんは指輪を作る

モンスターコミックス様でコミカライズの連載が始まったみたいですよ!

http://webaction.jp/Mcomics/

 ダンジョンを出たあと、すでに日は完全に落ちていたため、ラプトルの近くで野営して、翌朝に帰還することにした。

 帰りながら、指輪を作るのに必要な素材を確認しておく。

 主役になるのは、【蛮勇の証明】で得た翡翠色の宝石、ウインド・エメラルド。


 その宝石を支えるリングは魔法金属のミスリルで作る。

 ただのミスリルではなく、ミスリルといくつかの素材を組み合わせることで生まれる、セイント・ミスリルを使う。

 そうすることでより美しくて強力なアクセサリーとなる。なにより、俺が作りたい指輪は特別で、ただのミスリルでは生み出すことはできない。


 さらには、つなぎに魔石をいくつか使う。

 これらは、アクセサリーの見た目には現れないが、セイント・ミスリルとウインド・エメラルドの力を高めつつ一つにしてくれるのだ。

 ラプトルを走らせながら、これから作る特別な指輪を想像していると、自然と頬が緩んだ。


 ◇


 昼過ぎになって、ようやく帰還できた。

 俺たちが借りている部屋に戻るとにぎやかな声が聞こえる。

 ルーナたちはすでに帰っているようだ。

 既製品の丈合わせだけとはいえ、あの街一番の人気店にそんな突貫工事をさせるとは……ホランドは俺の想像以上の商人になっていたようだ。


「ただいま」

「お帰り、ユーヤ」


 ルーナが跳びついてくる。

 赤いドレスを着ていた。

 活動的なルーナらしく、すらっとしたシルエットだ。


「街で作ってもらったドレスか。よく似合っている」

「んっ、動きやすくて楽。それにユーヤが似合っているって言ってくれたから、もっと気に入った」


 本人も気に入っているのかご機嫌で、きつね尻尾を振っている。


「もう。ユーヤ兄さん、帰ってくるのが遅いよ」

「ティルは、綺麗だが、もう少し年相応のがいいと思う」

「ふふん、口ではそう言っても、眼は釘付けだね。私はもう子供じゃないんだよ!」


 ティルは深緑のドレスで、ルーナのものとは違い大胆に胸元が開いた色っぽいものだ。

 ティルは年齢の割に立派なものを持っているので、充分に着こなせている。

 おそらく、ティルがそういうのを選んだのだろう。

 最近、子供扱いすると微妙に嫌がる。

 年相応にふるまうルーナとは違い、ティルは背伸びをしたがっているようだ。


「ティルのそのドレスはうらやましいわ。そういうの、胸がないと全然似合わないから」

「本気で言ってる? 私は胸とか出さなくても、そういう自然に色っぽいのが似合うセレネが羨ましいよ」

「たしかにな。これが本当の大人の魅力だ」

「ああ、ユーヤ兄さん、鼻の下伸ばしてる。ぐぬぬぬぬ、悔しいよう。これはもっと胸を出すしか」

「そういうところが子供なんだ。もっとティルは慎んだほうがいい。セレネを見習ってな」

「そう言われると照れてしまうわね。でも、嬉しいわ」


 セレネのドレスは、黒をベースにしたもので上品で、お嬢様らしいもの。

 お姫様だけあって、そういうドレスが良く似合う。


「そう言えば、ユーヤ兄さんは服をどうするの? まさか、普段着で結婚式に出たりしないよね」

「前も言わなかったか? 俺は冒険者として長いからな。それなりに、かしこまった場に出る機会も多くて。いろいろと持っているんだ」


 中級までの冒険者であれば、かしこまった場にでる機会はそうそうない。

 だが、上級冒険者ともなると大商会や、貴族、果ては王族から指名クエストを受けることがある。

 それを達成すると、依頼主が冒険者をもてなし、その武勇伝を聞こうとすることがある。


 その際、失礼な格好では出られないので、ある程度のものを揃えたり、あるいはパーティの主催者からプレゼントされたりしたものを取っておくのだ。


 俺やフィルは、レナードたちと一緒にいたころ上級冒険者であり、当然、そういう服も持っている。

 今回、金に糸目をつけずにいい服を買えとルーナたちに言ったのも、そろそろそういう機会があるだろうという計らいからだ。


「へえ、ユーヤ兄さん。着てみてよ」

「んっ、ルーナも見たい」

「それは結婚式当日まで待ってくれ。肩が凝って好きじゃないんだ」

「けちー」

「ユーヤがそう言うなら仕方ない」


 お子様二人組は、それぞれ言っていることは違うが、二人とも不満そうにしている。

 だが、折れてやるわけにはいかない。こういうのは癖になる。


「奥の部屋で鍛冶をする。スキル任せとはいえ、手元が狂うと素材が台無しになるから集中したい。扉は開けないでくれ。それとできれば静かにしてもらえると助かる」

「わかったよ。ルーナ、着替えたら外で訓練しよ。昨日はできなかったし」

「ん、賛成。がんばる」

「私も付き合おうかしら」

「セレネも来るなら、ルーナは模擬戦がいい。……セレネには一つ負け越してる。兄弟子としてゆゆしき事態」


 ルーナが対抗意識を燃やしていた。

 最近、セレネとルーナに模擬戦をさせているのだが、セレネが若干優位だ。


 理由としては、ルーナの鍛錬の特殊性にある。

 隙を見つけて、急所にクリティカルを入れて、即離脱するという、対モンスター戦闘に特化したものを重点的に鍛えた。


 一応、俺とのゲーム形式のおかげで対人試合も経験値をつんでいたが、俺としか戦っていなかったことで、対人戦の場合は対俺のスペシャリストになってしまっていた。


 おかげで、俺以外の対人戦で戸惑うことになった。

 それでも、並程度の相手であれば圧倒できるが、セレネクラスになると厳しい。


 セレネとの模擬戦はその矯正でもある。

 正統派剣術を基礎としているセレネはスタンダードで、なおかつ腕が良く、ルーナの矯正にはもってこいだ。

 実際、セレネとの戦いの中で矯正は進み、今ではほぼ互角となっている。

 相変わらず凄まじい才能だ。ルーナの吸収力は異常とも言える。

 それこそ、たまに嫉妬してしまうほど。


「訓練がんばれよ。それからな、……着替えは俺のいないところでと言っているだろう」

「ん。つい、忘れちゃう」

「ふふん、私はわざとだよ。ユーヤ兄さんを誘惑中。ほら、これがユーヤ兄さんのものになるんだよ。お買い得だよ」

「その、二人とも、はしたないと思うわ」


 まったく、この二人は。

 首を振り、俺は奥の部屋に移動した。


 ◇


 携帯鍛冶セットを広げる。

 簡単な高炉と石台、それにハンマーが用意されている。


 専用プレートにミスリル、魔力を持つ霊草……ルーン・プリム草、鍛冶専用の水、フレイムウォーター、さらに中級の魔物からとれる魔石を入れる。


 最後の魔石は中級であればなんでもいい。

 材料をすべてプレートに乗せて、それを高炉の中へと移動、すると勝手に炎が燃え盛る。

 数分後、プレートが高炉から出てくる。

 どろどろに溶けた赤い液体になっていた。

 それを石台に流すと、自然に歪な長方形のインゴットへと変化する。


「ここからが本番だな」


 ハンマーを振るう。

 鍛冶スキルの場合、回数と強さと打つ場所がすべて。

 赤い液体を石台に流すと、できるものに応じた形に変わるのだが、その変化、赤の濃さ、厚さ、形状、柔らかさ。

 そう言ったもので、回数と強さと打つ場所を見抜いて打つ。


 ……普通の鍛冶師を馬鹿にしているようだが、そういうミニゲームなのだから仕方ない。

 ぶっちゃけ、最初からいろいろおかしい。

 材料を全部プレートにいれるだけで下準備が完了とか、真面目な鍛冶師が聞いたら卒倒するだろう。フレイムウォーターなんて瓶ごと入れていたし。


「こいつだと、四隅に一回ずつ、あとは中央に四回。四隅は心持ち弱く、中央は強めにってところだな。間隔は二秒」


 リズムよくハンマーを振り下ろす。

 ハンマーで打つたび、歪な長方形がどんどん整っていく。

 八回打ち終わる。

 それだけ打ったあとは、ハンマーを下ろして冷えるのを待つ。

 すると十秒後、完全に冷えて光り輝いた。この輝きは、完璧に鍛冶を終えた証拠だ。

 鍛冶が成功し、材料が完成品へと変わる。

 ミスリルといくつかの材料を原料にした、高位素材セイント・ミスリルへ。


「ふう、成功か。じゃあ、次は指輪だな」


 これはあくまで、指輪の材料を作るための鍛冶。

 次こそが本番だ。

 セイント・ミスリルの素材は余裕があったが、ウインド・エメラルドは替えがない。

 より一層、気を引き締めていこうか。


 ◇


 すべての作業を終えて汗を拭く。


「無事、完成したか」


 もちろん、出来は完璧。

 鍛冶はゲーム時代に何万回もやってきた。失敗などはしない。

 俺の手には、二つの指輪があった。

 翡翠色の光を放つウインド・エメラルドと、月の輝きを閉じ込めたセイント・ミスリルがお互いを高めあう美しい指輪だ。


 その名を、【祝福の風を纏う指輪】という。

 数少ない、特別な指輪の一つ。

 効果は三つ、防御力の上昇、風の加護により風(雷)スキルの威力向上、敏捷性の上昇。

 強敵との戦いでは、属性ダメージをカットするアクセサリーを優先するが、雑魚との戦いではこちらが勝る優秀な装備だ。


 加えて、美しい上位素材を用いて作る、特殊な指輪数種類のみが持つ、システム的な結婚ボーナスを受けられる。

 この世界の結婚には二種類ある。


 一つ、社会的な結婚。所属する社会共同体によって認められるもの。

 もう一つは、システム的なもの。パーティを組むのと同じだ。結婚システムというものが存在する。


 その条件は、エンゲージリングに使用できる特別な指輪のいずれかを二人が身に着けること。

 そうすれば、結婚申請が可能となり、それを相手が受けることで結婚が成立する。だからこそ、ウインド・エメラルド等のエンゲージリングの素材は宝箱に二つ入っている。


 この結婚システムも、俺がウインド・エメラルドが欲しかった理由だ。

 システム的なメリットは大きいが、何より、この世界で俺たちの結婚が認められるのがいい。


「現実になった今でも、結婚システムがあるといいがな」


 実際のところ、俺がユーヤとなってから結婚システムを使った実例は見たことがない。

 ウインド・エメラルドも入手難易度が非常に高かったが、他のエンゲージリングに使う宝石類も軒並み、嫌がらせのような難易度になっている。


 ルーナに似合うのは赤い宝石だろう。その場合はファイア・ルビー、ティルはフィルと同じくウインド・エメラルドが似合う、セレネだと月の光を持つダイヤ、ルーン・ダイヤだろう。


 ファイア・ルビーとルーン・ダイヤは、ソロ限定ダンジョンではないが、ソロ限定とは違った苦しさがある限定ダンジョンであり、今の俺たちでも苦戦するだろう。


「とはいえ、それを取りに行くことはないか」


 満足げに、完成した【風の祝福を纏う指輪】を光にかざす。


「ただいま戻りました」


 フィルが帰ってきたようだ。

 早速指輪を見せよう。

 きっと、この指輪を見せれば喜んでくれるだろう。

 

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