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第二十二話:おっさんは雷竜を倒す

 雷の翼で超低空を舞う、轟雷竜テンペスト。

 その姿は神々しく、美しかった。

 ……まあ、このビジュアルの良さすら奴の武器で、見惚れていたら死んだというプレイヤーがそれなりにいた。

 雷耐性無効を持つ、超強力な雷をさらに圧縮した翼だ。触れれば、タンクであろうと無事にはすまない。


「きつねじゃんぷ」

「じゃあ、私はエルフじゃんぷ」

「きゅいっ」

「二人とも余裕がありますね」


 身軽なルーナ、ティル、フィルが翼を飛び越える。

 そして、装備がそれなりに重い俺とセレネはその場に伏せてやり過ごす。

 頭上すれすれを雷の翼が通過していった。


「寿命が縮むかと思ったわ」

「たしかに心臓に悪いな」


 通過していった轟雷竜テンペストが壁にぶつかる寸前に、急上昇してあっという間に見えなくなる。


「もしかして逃げた?」

「違うと思うよ。ユーヤ兄さんが言ってた、空からの攻撃パターンだよ」


 ティルの言う通りだ。

 逃げたわけじゃなく、攻撃力を稼いでいるだけ。

 天を、見上げる。


 小さな黒い点が見えた。それがどんどん大きくなっていく。

 黒い点は黄金の雷光を纏っている。

 超上空からのパワーダイヴ。


「みんなわかってるな!」

「ん。ばっちし」

「距離を間違えないようにしないとね」

「こっちは準備ができてます」

「ええ、迎え撃つわ」


 耳鳴りがする。

 奴が音速を越えたせいだ。

 超高威力、超速度を誇る轟雷竜テンペスト、そのスキルの中でも最強最速の攻撃がくる。

 だが、助走があまりに長く、加えてその超速度によって方向転換ができない。

 ゆえに、落ち着いてさえいれば躱せる。

 なにより、この直後に最大のアタックチャンスがある。

 全員、注意深く奴を見ながら着弾位置を調整する。


「セレネ、あと二歩外側」

「ルーナちゃんは一歩前へ」


【翡翠眼】を発動し、超人的な動体視力をもった二人が指示を出す。

 視力の良さはこういうところでも役立つ。

 ついに、奴が着弾した。

 轟音と地響きと雷が吹き荒れる。

 着弾と同時に、大地が抉れて、石礫があたりに撒き散らされ、おまけとばかりにため込んでいた雷エネルギーを全方位に放出される。

 カウンター狙いで近づきすぎていれば、この雷の餌食になっていた。

 しかし、その範囲すら読み切り、エルフ姉妹の超動体視力で位置取りしているがゆえに俺たちは無傷。

 雷の放出が終わった轟雷竜テンペストめがけて、俺たちは突進する。


「なんか、灰色」

「発狂時にチャージなしで黄金の雷を纏うために命を燃やしたせいだ」


 轟雷竜テンペストは本来なら、自らの魔力を呼び水にして雷を生成し、それを吸収することで莫大な電力を操る。

 自分の魔力だけで黄金の雷を生み出すことなどはできない。

 だが、発狂時、その瞬間だけはすべてのリミッターを外し、そうしてしまう。

 それは、容赦なく轟雷竜テンペストの力を削る。

 最大の攻撃力と速度を得る代償に、命を燃やし、ほとんど魔力を使い果たし、かなりの体力を奪われるのだ。だからこそ、発狂後の固定パターンを避けてしまえば、極端に動きが鈍くなり、攻撃力も失われる。


 そのあたりが、轟雷竜の評価を下げる要因で、氷盾竜のほうが強いと言われる原因だ。

 超攻撃力と超速度、だが、対処法を学び慣れれば倒しやすい。純粋に攻撃力と防御力が高い氷盾竜のほうがきつい。


 ……ただ、俺はこうも思う。初見で一発勝負という条件なら、轟雷竜のほうが数段上だ。

 そして、この世界ではすべてが一発勝負。

 事前情報がなく、こいつを初見で倒せるパーティなんて想像もできない


「畳みかけろ!」


 疲れ果て、ろくに動けない轟雷竜テンペストに全員の火力が集中する。

 ここで決めきれなければ、また充電されてしまう。

 貴重で高価な魔力回復ポーションもためらわずに注ぎ込んだ。


「もう、倒れてよ!」

「あと少しです。がんばって」

「ん、追い込む!」

「はっ!」


 あと少し、あと少しだ。

 しかし、何か嫌な感じがする。

 みんなの攻撃が雑だ。

 さきほどは躱したとはいえ、あの発狂からの連続攻撃で恐怖を感じ、怯えてしまっている。それが、すぐにでも戦いを終わらせたいと焦りを生み、無茶な攻撃につながる。

 諫めよう。 

 そう思ったときには遅かった。

 ルーナが無理なタイミングで【アサシン・エッジ】を振るい、隙を晒している。

 普通なら、問題ない。

 だが、あの角度、あのタイミングで、もし次のパターンがブレスなら。


「あっ、うそ」


 その最悪の懸念があたる。

 雷エネルギーをすべて放出したと追われた、轟雷竜テンペストは最後の最後に自らに残った残滓を絞り出し、ブレスに集中させた。

 黄金の雷が口内に集まり、周囲を照らす。ルーナは硬直のせいで避けられない、今から他のメンバーがひるませるほどの火力を出すことは不可能、セレネが庇える位置じゃない。

 あれが直撃すれば、かなり危険だ。

 今、まさにブレスが放たれようとした瞬間だった。


「きゅいっ!」


 ルーナの肩にエルリクが着地して、小さな口を開いてブレスを放つ。

 それは、フェアリードラゴンの必殺技、【スタン・ブレス】。 

 小さな小さな、青色の球状ブレスが轟雷竜テンペストに当たる。すると強制スタンが引き起こされる。一秒にも満たない硬直だが、直前のスキルは強制キャンセルされる。

 そのちっぽけなブレスがルーナの命を救う。


「ありがと、エルリク」

「きゅいっ!」


 ルーナの硬直がとけた。ルーナは全力で前へと踏み込む。

 そして、胸にあるドラゴン共通の弱点である竜核に向かい、短刀を突き出した。

 竜核が割れる。

 それが、命を燃やして黄金の雷にして弱り切った轟雷竜テンペストへのとどめとなった。


「QYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 轟雷竜テンペストが悲鳴をあげながら、青い粒子に変わっていく。

 そして、俺たちのもとへ、その粒子が降り注いだ。


「終わったな。みんな、見ろ。称号が増えてる」

「やった!」

「ふふふ、これで三竜コンプリートだね」

「ちょっと信じられないわ」

「でも、私たちはたしかにやり切りました」


 三竜を倒したときに得られるボーナス。

【竜殺し:雷】

 その効果は雷耐性の向上と、素早さ補正。

 ようやく、三つの竜殺しの称号が揃った。


「ユーヤ、やった。倒した!」

「そうだな。だが、ルーナ。最後のは減点だ。事前に轟雷竜テンペストの攻撃パターンは全部叩き込んだだろう。あのタイミング、あの位置取り、あの角度なら、ブレスを放たれれば躱せないことはルーナならわかったはずだ」

「……ごめんなさい。早く倒さなきゃって焦って、ミスした。もうしない」

「わかっているならいい。反省して、繰り返さないようにしろ。もし、エルリクがいなければ万が一のことが起こったかもしれない。礼を言って可愛がってやれ」

「んっ、エルリク。おいで、たくさん撫でてあげる。それから大好物のナッツ」

「きゅいっきゅ!」


 エルリクがルーナに纏わりつく。

 美しい光景だ。


「ううう、ユーヤ兄さん、いつものダンスしたいのにルーナが取られちゃったよ」

「いや、別に無理してする必要はないと思うが」

「あれ、やらなきゃすっきりしないんだよ!」

「ん、ルーナも。ティル、エルリク、やろ」

「よし来た!」

「きゅいっ!」


 そして、始める。いつもの謎ダンスwithエルリク。

 この子たちは平常運転だ。

 だが、エルリクの様子がどこかおかしい。

 いつもなら、ルーナとティルが作るリズムに乗っているのに、テンポがずれている。

 ルーナたちもそれに気づいたようで、謎ダンスをやめる。

 すると、エルリクが墜落して、苦しそうに胸を上下させる。


「エルリク!」

「どこか、調子がわるいのかな?」

「わからない。そもそも、使い魔の体調不良なんて聞いたことがない」


 ゲームで、使い魔が病気になったりしたら興ざめもいいところだ。

 そんな設定組み込まれていないはず。

 現実になった今なら、病気になってもおかしくないが、さすがに使い魔の病気なんて見当が付かない。


「セレネ、【回復ヒール】を」

「はいっ、だめ。ぜんぜん効かないわ」


 セレネの【回復ヒール】は意味をなさず、エルリクの輪郭がぶれて、青い粒子にほどける。

 全員の顔が蒼白になる。これは魔物が死ぬときのモーションだ。


「うそ、ユーヤ、エルリクが、エルリクが死んじゃう」

「どうにかならないの、ユーヤ兄さん!」

「……残念だが、俺にはどうするも。いや、待て。これは死亡モーションじゃない」


 普通なら、徐々に分解速度があがり粒子は消えていくというのに。

 粒子の放出速度は一定、それにほどけた粒子が消えない。

 それどころか、粒子が増大し、エルリクの元へ戻っていく。

 青い光がエルリクを包み、より大きく膨らみ続ける。

 そして……。


「きゅいっ!」


 光がほどけた先には、飛竜がいた。

 俺よりも少し背が高く、二足歩行で腕と立派な翼をもつ竜。

 なんだ、これは、こんなの見たことがない。


「エルリク、あなたはエルリク?」

「きゅい!」


 大きくなったエルリクがルーナに頬ずりする。

 しばらくそうしていると、目を輝かせてルーナの足の間に滑り込み、背中に乗せて飛び始めた。


「エルリクすごい! これ楽しい」

「うわあ、面白そう。ルーナ、あとで替わってよ」

「ん、もう少し飛んでから」


 使い魔が進化しただと? 

 こんなのは知らない。

 何が原因でだ?

 ステータスカードが光っている。三つの竜殺しの称号が消えて、新たに【竜殺しの英雄】という称号に変わっていた。

 この現象自体は知っている。三つの竜殺しの称号はこうして竜殺しの英雄になり、より強力なボーナスを受けられる。

 これがエルリクの進化の原因かもしれない。

 まさか、竜種の使い魔を持ち、竜種を従えた状態で三竜を倒して、【竜殺しの英雄】の称号を得るという進化条件が隠されていたという推測だ。

 ゲーム時代でもそんな話は聞いたことがない、フェアリー・ドラゴンが極めて希少ゆえにだれも気付かなかったのかもしれない。

 ありえないこともない。

 ゲーム時代はやり込み要素が多すぎて、日々新しい発見があった。

 これは検証が必要だ。

 だが、どっちにしろ。


「エルリクが強くなって良かったな」

「んっ、それにすごく便利」

「うんうん、これから空を飛び放題だね」


 エルリクが頼もしくなったことは喜ぶべきことだ。

 加えて、人を乗せて空を飛べる。この能力は、いろいろと使い道がありそうだ。

 あとで、みんなで相談してみよう。


「きゅいっ!」


 そんな俺の考えを知るよしもなく、エルリクは大好きなルーナを背中に乗せて気持ちよさそうに飛び回っていた。

 

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