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第二十一話:おっさんは雷竜を追い込む

8/30にMノベルスから二巻が発売されました! 書き下ろし・加筆修正があるのでそちらもどうぞ!

 最後に残った三竜の一頭、轟雷竜テンペストとの激戦は続いている。

 空の王者、その翼を打ち抜いて、叩き落した。

 轟雷竜テンペストは怒り狂い、咆哮をあげて威嚇してくる。


「ここからが本番だ。空に居るときより危険だ。心してかかれ!」


 そう、あくまで前半戦は余興にすぎない。

 事実、轟雷竜テンペストの殺気が痛いほど肌を刺している。それは奴が俺たちを敵と認めた証拠。

 咆哮と共に、雷が落ちる。

 だが、様子が変だ。雷すべてが同じ個所に落ちていく。

 それも、すべて轟雷竜テンペストのもとへ。


「何をぼうっとしている。早く、撃て!」

「あっ、うん」

「はいっ!」


 雷撃の回避態勢に入っていたフィルとティルが再び弓を放つ。

 事前に、雷には二種類あると言っていたが、異様な光景に我を忘れてしまったようだ。

 あれは攻撃じゃない。

 ただの充電だ。

 充電中は、強力な雷撃を纏うため近接攻撃はできない。遠距離攻撃でのみダメージを与えられる。

 そして、一定ダメージを与えれば怯みが発生する。もし、怯みを発生させられなければ……。


「QYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 黄金のスパークが轟雷竜テンペストの周囲に発生する。

 まずいな、充電が完了したようだ。

 この【雷竜の聖域】において、イナズマは三種類存在する。

 入口付近の白いイナズマ、奥に行き遭遇すれば青いイナズマ、そして、轟雷竜テンペストだけに許された黄金のイナズマだ


 大きく口を開き、雷光が放たれる。

 全員が回避行動をとる。それは、ピンクラバースーツのおかげで風(雷)を無効となるルーナでさえもだ。


 雷光が放たれてからじゃない。放たれる前に動いている。

 奴のブレスは雷速故に、見て躱すことは不可能。だからこそ、ブレスの予備動作を徹底的に叩き込んでいる。

 発射の瞬間に、ブレスの軌道に居なければ命中しない。

 ただ、厄介なのが……奴のブレスには三種類の軌道があること。


 直線、斜め右、斜め左。

 微妙にしか違わない予備モーションで読むしかなく、読みを外せば一撃で即死クラスのダメージを負う上に、しびれ(強)を受けて数秒硬直する。


 さらには、轟雷竜テンペストはブレスの後に追撃行動パターンが多く、ヘイトに関係なく、しびれ(強)を優先的に狙う。

 事実上、タンク以外はブレス一発で終わりと考えたほうがいい。

 故に近距離戦の鉄則は、側面や背面など、絶対にブレスが届かない位置で戦うことだが、それができれば苦労しない。


「んっ!!」


 ルーナの右腕に黄金のイナズマが掠る。

 ルーナは予備モーションで直線か、斜め右か一瞬迷った。その迷いのせいで躱しきれなかった。

 たった、一撃。それも掠っただけで、腕部分のピンクラバースーツが焼け切れ肌が露出して、火傷を負い、しびれ(強)で体の自由が奪われる。


 さらに、雷竜が跳んだ。飛行ではなく跳躍、そして後ろ脚のかぎづめでの蹴りを繰り出す。

 雷による刺激で、全身の筋力が活性化している。とんでもない速度と威力。

 あれを無防備で喰らえば、ルーナは無事では済まない。


「させないわ! 【城壁】」


 ぎりぎりセレネが間に合い青い壁でルーナを庇う。


「っ、重い」


 セレネが後退る。

 それほどの一撃。そんなセレネに追い打ちをしようと、奴は長い尻尾を鞭のようにしならせてくる。


「【爆熱神掌】!」


 それを横合いからぶっ飛ばす。

 轟雷竜テンペストは翼竜のため、巨体の割に軽いからできたことだ。

 その後ろから、エルフ姉妹の矢が降り注ぐ。


「セレネ、ルーナに【回復ヒール】を」

「ええ、わかったわ」


 セレネがルーナを回復させる。


「助かった……風(雷)無効を無効なんて反則」

「言っただろう、奴の黄金の雷は雷耐性無効なんてふざけたアビリティがある」


 それこそが、ルーナのピンクラバースーツを貫いた秘密だ。

 青いイナズマのうちはいい。だが、充電をすることで進化した黄金の雷は、耐性無効であり、どんな装備だろうと防げない。

 それが、炎無効装備で固めれば、楽に倒せる炎帝竜との違いだ。


 ……そして、恒例の初見殺しでもある。

 竜種のブレスは威力が高い分、モーションが長い。

 ゆえに、無効装備があると殴るチャンスだとプレイヤーたちは喜び勇んで、無警戒に殴りまくろうとするのだが、耐性無効のブレスであっさりと死ぬ。

 充電してないときの青いイナズマを防げるからこそ、余計に油断する。

 俺もゲーム時代に経験して殺された。


 吹き飛ばされた轟雷竜テンペストが起き上がり、再びブレスモーションに入る。

 次は左斜め。

 今度は全員回避に成功。

 知らなければ、躱せないし、知っていてもブレスモーションはたった二秒。


 その二秒で、三種類のうちどれかを判断して回避行動に入らないといけないため、知っていても対応しきれないことがある。

 まったくもって厄介だ。

 ブレスを回避された轟雷竜テンペストが上体を起こして、走ってきた。翼竜だけあって手が翼と一体化しているので、歪な二本足歩行であり、ひどく滑稽に見える。

 だが、それでもでかさゆえに迫力がある。


 狙いは俺のようで、そのままボディプレスをしかけてくるので、バックステップで躱して、目の前にある脳天に思いっきり【バッシュ】を叩き込み、即座に後ろへ。

 俺がいた位置に黄金のイナズマが落ちる。

 このボディプレスも奴の得意技だ。ボディプレスし、その周囲にイナズマを落とす二段攻撃。

 攻撃をあてて、即座に逃げなければ回避が間に合わない。

 その攻撃のあと、奴が纏う黄金のスパークが青くなった。


「ユーヤ兄さん、あいつのスパークが青くなったよ!」

「充電ぎれだ。これで攻撃力がだいぶ落ちる」


 そういうなり、再びブレス。

 俺たちは回避行動をとるが、一人だけ突っ込んでいく。

 ルーナだ。


「さっきのお返し」


 轟雷竜テンペストのイナズマブレスが発動。

 しかし、光は黄金ではなく青。

 ルーナに直撃するが、そのイナズマを突っ切る。

 腕の一部が焼け切れても、風(雷)無効は健在だ。この状態では、強力なブレス攻撃もただのアタックチャンスにすぎない。

 ルーナが、鋭いモーションで奴の目に向かい突きを放つ。

 ブレスを放つために、地に這うように頭を下げている今だからこそ、最大の急所に届く。

 それに合わせて、俺も詠唱が完了する。


「【神剛力】」

「【アサシンエッジ】」


 クリティカル限定での全スキル最強倍率の一撃が、十倍威力で急所に叩き込まれる。

 超ダメージにより、轟雷竜テンペストがノックバックし転倒。

「追い撃つよ!」

「稼げるときに稼ぐわ」


 そこに全員で総攻撃を行う。

 轟雷竜テンペストは速度と攻撃力に特化している分、体力と防御力は低い。

 こうして、少ないチャンスに全力でダメージを与えることが勝つための鉄則だ。


 ◇


 一時間経過した。

 なんとか、順調にダメージを与え続けている。

 轟雷竜テンペストはぼろぼろだ。

 途中、セレネとティルがブレスの予備モーションを読み間違えてダメージを負ったが、なんとかカバーが間に合っている。

 ……さて、問題はもうすぐ起こるであろう竜種お決まりのパターンだ。


「そろそろ、あれが来るぞ」

「ん、わかってるけどまずい。今でもわりといっぱいいっぱい」

「そうだよ。これより強くなったらまずいよ」

「安心しろ、ただ攻撃力と速度があがって、厄介な攻撃パターンが増えるだけだ」

「ユーヤ兄さん、ぜんぜん安心できないよ!?」


 俺たちが警戒しているのは発狂だ。

 一定以下のライフになって、初めて出す本気。

 轟雷竜テンペストが充電を始めた。無数の雷が奴に向かって降り注ぐ。


「もう、それはさせないよ!」

「んっ、青い状態なら近づける」

「はい、私たち三人の火力なら!」


 充電中の轟雷竜テンペストを無数の矢とルーナの刃が蹂躙する。

 そして、悲鳴と共に転倒して充電が中断。

 ほっとした空気が流れる。

 だが、次の瞬間に奴は飛んだ。

 跳躍ではなく飛翔だ。

 翼は奪った。

 だが、しかし……。


「綺麗、光の翼」


 ルーナがあまりの美しさに憧憬の視線を向ける。

 奴の翼は両翼とも根本から綺麗に吹き飛び、代わりに黄金のプラズマで形成されたものができている。


 神々しく、圧倒的な力を込めた雷翼。

 その翼を広げ、地表すれすれを飛び、俺たちの間をすり抜けようとする。


「全員とべえええ! 消し炭になるぞ!」


 それは飛翔能力を与えるだけじゃない。

 超々密度の黄金のイナズマを圧縮したもの。

 ブレスが掠っただけであれだ。直撃すれば、問答無用に即死。


 奴の発狂はこれがあるから厄介だ。

 超スピード、飛翔能力、超攻撃力、しびれ(強)。それぞれが相乗効果でとんでもない強さを発揮する。

 最後の三竜、やはり楽には勝たせてくれないようだ。

 だが、負ける気はしない。

 なにせ、今の俺には最高のパーティがいるのだから。


 

 

 

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