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第十五話:おっさんは雷の渓谷を進む

8/30にMノベルスから二巻が発売されます! 書き下ろし・加筆修正があるのでそちらもどうぞ!

 世界樹の苗木が生い茂った大樹林を進んでいく。

 すでに、半日以上が経っていた。

 世界樹の苗木に偽装したユグドラシル・トレント以外にも様々な魔物と戦っている。


 そのほとんどが、この大地に満ちる世界樹の力を受けて進化したレアな魔物で、希少素材をドロップしてくれてありがたい。

 特殊な薬や、装備。作りたいものがどんどん増えていく。


「ユーヤ、また世界樹の葉が手に入った」

「こっちは、世界樹の枝だよ。……これって、すっごい強い弓になるかな!?」


 お子様二人組も大はしゃぎだ。

 そんな大樹林も終わりが見えて、さらに先に進む。

 すると、辺りの景色が一変した。


「すごいわね。まるで別世界よ」

「ここからが本番だ。雷竜の住処はこの最奥にある」


 大樹林が終わると、崖だった。

 そして、そこからは岩肌がむき出しの渓谷が見渡せ、稲光が眩しい。

 黒い雲が漂い、雷音が断続的に響いている。


「うわあ、すっごい雷。あれ、当たったら痛そう」

「雷のエネルギーはすさまじい。俺たちのステータスなら即死はしないが、当たれば大ダメージだ」

「……さすがに雷速を避けれる自信はありません。対策が必要ですね」


 フィルの言う通り、雷を見てから躱すなんて芸当はどんな超人でも無理だ。


「一応、自然のものとは違って、着弾予定地が白く光ってから、一秒程度の余裕があるから、ここから先は注意深く大地を見ないといけない」

「一秒もあれば、普段は大丈夫そうだけど、戦闘中とかはきついわね」

「それも含めて、ここでのだいご味だ。それに、そのためにホワイトルビーで装飾品を作った」


 水竜の住処に居たエンゼル・シュリンプから手に入れたホワイトルビー。

 それには、全属性に対するダメージカットがある。

 これがあれば、万が一落雷の直撃を受けてもかなりダメージが押えられる。


「これを使うのはティルとセレネだ。首飾りにしてみた」

「ありがと。大事に使うね!」

「この首飾り。素敵ね」


 ホワイトルビーは二つしかないので全員装備することはできない。

 俺とフィルは、レベルリセット前に最上位クラスの属性ダメージカット装備を保有している。

 そして、ルーナにはアレがある。

 素材状態のものを、ついさきほど錬金スキルと、携帯鍛冶セットで防具にした。


「ん。今から着替える」


 ルーナが服に手をかけたので後ろを向く。

 もう、羞恥心を教えるのは諦めた。

 ルーナの成長を待つことにしたのだ。いずれはきっと女性としての自覚を持つと信じている。

 しばらく待っていると、女性陣の声が聞こえた。

 ……あれはいろいろと特殊だから騒ぐのもわかる。


「ユーヤ、着替え終わった! 見て、可愛い?」

「……まあ、その、なんだ、可愛くはある」

「やった! これ、動きやすくてお気に入り!」


 ルーナの恰好を一言でいうと、どピンクのラヴァースーツだ。

 肌に張り付き、歳の割にはかなり発育のいいラインが出ており、かなりエッチだ。


「女狐のポーズ!」


 尻尾とお尻を見せつけつつ、振り向き猫の手を作っている。……わけがわからない。それでも可愛く見えてしまう。


「ルーナ、それかっこいいね! 私も着れば良かったかも」

「ん。あとで貸してあげる。フィルやセレネもきっと似合う」

「私は遠慮をしておきますね。……ちょっと、それを着るのは勇気がいります」

「同感ね。恥ずかしいわ」


 どピンクのラヴァースーツを着たいなんて思うのはきっとお子様二人組だけだろう。

 このピンクのラヴァースーツは、かつてグランネルのジャングル型ダンジョンで出会ったスコール・パンサーがドロップした皮で出来たものだ。


 スコール・パンサーの皮は毛がまったく生えておらず、ピンク色でぶよぶよのゴム皮だ。


 ゴム皮という素材のイメージ通りに風(雷)無効。

 それだけじゃなく、軽いし防御力が高い。

 しかも、かなり高ランクの打撃耐性とわずかながら斬撃耐性まである。こんなポテンシャルの高い装備はなかなかない。

 まだ利点はある。完璧に水を弾く完全防水。

 もっともそのせいで、どんな着色料も容赦なく弾き、どピンクから色変更不可なのだが。

 あまりの性能の良さに、ゲームのときは羞恥心を堪えながらも世話になるしかなかった。


 ……今は遠慮したい。これを来たおっさんは想像したくない。ただの変態だ。

 ただ、ルーナが着ればこんな服ですら可愛く見えるから不思議だ。


「準備もできたし行こう。ここから先は雷祭りだ」


 雷属性のダメージカットがなければ、まともに進めない。

 やはり、ダンジョン対策においてもっとも重要なのは知識と準備だと思う。

 万能な装備などはなく、そのダンジョンごとに適正装備があるのだ。


 ◇


 渓谷を進んでいく。

 道幅が狭いうえに、足を踏み外しでもすれば真っ逆さま。

 いっそ、下まで降りて進んだほうが安全に見えるが、下に降りればすぐに行き止まりだし、昇るために用意された道などなく、ロッククライミングをしないといけなくなる。


 ルーナの周囲が白く光り、後ろに跳ぶ。

 そんなルーナを抱きとめる。


「……せーふ」


 さきほどまでルーナがいた場所に落雷。

 びりびりとスパークしている。


「そのスーツがあるし直撃してもいいんだがな」

「なんか怖い」

「気持ちはわかる」


 いかに風(雷)無効とはいえ、雷の直撃なんて受けたくはない。


「ユーヤ兄さん、ここ道幅、三メートルもないし、高いし怖いね」

「それを含めてのギミックなんだろう。狭い足場で雷を躱す。それも魔物と戦いながら、なかなかに厳しい」


 三竜のいるダンジョンはどれも難易度が高い。

 せまい道幅での落雷は意図的なものだ。

 また、雷が一発落ちてくる。

 今度はティルが躱す。

 普段は、魔物に襲われたとき、スムーズに陣形を組むためになるべく距離を詰めているが、雷を躱すため今回はある程度ばらけている。

 まったくもって鬱陶しい。

 加えて……。


「ん。敵が来た。空から!」


 ここでは空から敵が襲い掛かって来る。

 それは、翼と後ろ足が生えた蛇と表現するような生き物だ。

 翼を広げると三メートル以上でかなりの威圧感がある。


 サンダー・ワイバーン。

 雷竜の眷属とも言われる魔物。それが三匹、編隊を組んでやってきた。

 二匹が突っ込み、一匹が空中で止まり雷撃のブレスを放った。

 タイミング悪く、近くに二発の雷が落ちる予兆が現れた。


 雷撃のブレスを避ければ、雷に打たれる。

 これは偶然じゃない。

 サンダー・ワイバーンは落雷を踏まえたうえで、躱しづらいところにブレスを放つといういやらしい性質を持つ。

 だが……。


「このスーツ、本当に雷が効かない」


 ティルをかばって雷撃のブレスを受けたルーナはぴんぴんしている。

 見た目には難があるが、ピンクパンサーのラヴァースーツは優秀な装備だ。


「かばってくれてありがと。後でお返ししてあげる」

「ブレス後の硬直、見逃すほどお人よしじゃないです」


 ブレスを放ち、放心状態のサンダー・ワイバーンにエルフ姉妹の矢が殺到して打ち落とす。

 青い粒子に変わり始めたところで、フィルが糸付きの矢で貫いて引き寄せた。

 谷底に落ちればドロップの回収が難しくなる。

 そのための配慮だ。

 フィルは抜け目がない。


「セレネ、左を任せる」

「わかったわ!」


 残り二匹のサンダー・ワイバーンは後ろ脚の爪をたて、雷を纏わせて突進してくる。

 サンダー・ワイバーンが近づいてくるタイミングはここしかない。

 紙一重でカウンターを叩き込んで仕留める。


 奴が突き出した後ろ足をぎりぎりでかわし、渾身の振り下ろし、インパクトの瞬間、詠唱が完了する。


「【神剛力】」


 十倍の威力に強化された振り下ろしはサンダー・ワイバーンを一刀両断。

 飛行能力と敏捷性を得るために、サンダー・ワイバーンは防御力を犠牲にしている。

 だから、この威力の攻撃なら即死させられる。


 横目でセレネを見ると、彼女のスパイクがサンダー・ワイバーンを貫いていた。


「よくやった、セレネ」

「私も成長しているのよ」


 誇らし気にセレネが微笑む。

 これでサンダー・ワイバーンは全滅。

 三匹とも青い粒子に変わってドロップアイテムが現れた。

 それを見た、ルーナとティルが目の色を変え駆けよって拾いに行った。


「ユーヤ、お肉!」

「でも、これってなんのお肉だろ? 牛でも豚でも鳥でもないよね」


 この世界だとドロップ時の肉の分類はかなり大雑把で、オークが豚肉をドロップするぐらいだ。

 そして、こいつは……。


「【ドラゴン肉(並)】だな」

「ドラゴン!?」

「うあぁ、それってなんかすっごいわくわくするよ!」


 お子様二人が好奇心に目を輝かせる。

 ワイバーンは、ちゃんとした竜ではなく亜竜とでも言える存在だが、大雑把なドロップ肉のくくりという仕様で、ワイバーンでも竜肉を落とす。


「わかりました。では、今日の夕食はドラゴン肉にしますね。ドラゴンステーキとか、美味しいですよ」


 フィルが苦笑しながらつぶやくと、ルーナとティルがドラゴンステーキといいながら、フィルの回りをくるくる回る。


 気持ちはわからなくない。

 冒険者をやっていれば、ドラゴンステーキを一度は食べたくなるものだ。


「フィル、美味しく作るのはいい。だけど、せっかく初めてのドラゴン肉だ。最初はドラゴン肉らしい、ドラゴン肉を食べさせてやれ」

「あっ、ああ、そういうことですね。ふふっ、そっちのほうが面白そうです」


 俺たちは意味ありげに視線を交わし合う。

 そんなことに気付かずにお子様二人組ははしゃいでいる。

 今日の野営が楽しみだ。

 きっと、ルーナとティルは驚くだろう。

 ドラゴン肉はいろんな意味ですごい肉だから。

 

いつも応援ありがとうございます。

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そして、二巻はいよいよ8/30発売。↓に表紙があります!

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