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第二十一話:おっさんは新たな称号を得る

4/28にMノベルス様から単行本一巻が発売されました! 書き下ろしもありますのでそちらも楽しんでください!

 氷盾竜アルドバリスとの戦いが始まりすでに三十分経っていた。

 事前の予習の成果が出ている。

 いくら、情報を教え、対処法を練習したとはいえ、本番できっちりと行動できるものは少ない。

 やっぱり、俺のパーティは優秀だ。

 これだけのパーティはなかなかない。

 本気で頂点が狙える。そんなことを考えてしまう。


 そんな俺たちですら、ぎりぎりだ。

 レベルリセットが二人、事前に氷盾竜の全行動パターンを叩き込んでいる、エクストラクラス持ちが三人、マジック・カスタムフル活用、常識外のレベル上昇時のステータスアップ、それらの恩恵を受けているにも関わらず。


 無理もない、炎竜以外の三竜はやり込み要素。通常ボスのように、適正レベルで普通に戦えば倒せるなんて温い調整はなされていない。

 事実、この世界が現実になった今、氷竜に挑むなんてパーティはほぼ存在しない。理由は簡単だ。挑めば死ぬ。

 それでも俺たちなら勝てると思ったから、ここにいる。


「ルーナ、行くぞ」

「ん。任せて」


 奴が巻き散らした猛毒の霧が晴れると同時に突っ込む。

 さきほどから、何十回も攻撃を加えていた甲斐があり、ようやく腹の外殻に亀裂が入っていた。

 俺たちを追い越すように、フィルとティルの炎を纏った矢とティルの雷魔法が飛んでいき、奴の腹に当り、亀裂が大きくなる。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAA」


 やつの背中にあるトンネルのような突起が周囲の冷気を急激に吸い込み、口に大きく溜めた。蒼白いエネルギーの塊が口内に生まれる。

 連射型のブレスではなく、溜めを伴う極大のブレス。

 これを首を振りながら薙ぎ払うように放つ。撃たれてしまえば回避は不可能、セレネが受けたところで盾ごと凍り付かされる。

 溜めは長いが、威力も攻撃範囲も規格外。

 ……これを待っていた。


 足を止めて、詠唱を始める。

 俺が放つのは、中級雷撃魔法【雷嵐】カスタム。

 詠唱時間を犠牲にし、周囲の敵を薙ぎ払うほどの範囲を弾丸一発まで凝縮することで威力と射程を得た魔法。

 その名は……。


「【超電導弾】!」


 奴の極大ブレスの発射寸前にぎりぎり詠唱が間に合った。

 初めは一分近くかかった詠唱も魔力パラメーターの上昇により、かなり使いやすくなっている。


 攻撃を放ったのは俺だけじゃない。

 フィルとティルの矢と、フィルの初級雷撃呪文【雷矢】の連射が、奴の口を集中砲火した。

 口の中で、爆発が起こり、白い煙がぷすぷすともれ、氷盾竜アルドバリスが転倒した。

 いかに全身を氷の鎧と、固い外殻に覆われていても口の中は柔らかい。


 怯みに強い耐性を持っているし、極大ブレス発動中はさらに怯み耐性が上昇するが、スキル発動中に大ダメージを瞬間的に与えれば、こうなる。

 口内という弱点を晒す、極大ブレス発動中にしか狙えない。怯えずに、それをチャンスととらえる勇気があるからこそできたこと。

 そして、転倒してくれればパーティでの最大火力が使える。


「【魔力付与エンチャント:炎】」


 フィルの魔法で、セレネの盾が炎を纏う。

 壁役から解放されたセレネが、走り、踏み込み、その勢いを乗せながら、腰を回転させ全身の力を集約させ、必殺の一撃を放つ。


 盾の下部から、液状魔法金属がスパイクとなり顕現し奴の腹を穿とうと加速する。全身を使った突きと、射出の二重加速。

 そのインパクトの瞬間、俺の魔法も完成した。

 攻撃力を極限まで上げる攻撃力倍化魔法【パワーゲイン】カスタム。


「【神剛力】」

「【シールドバッシュ】!」


 外殻に守られて、クリティカルが出せない今、俺たちのパーティでの最大火力が放たれる。

 炎と俺の魔力に包まれたスパイクが、ひびが入った外殻にぶち当たる。

 そして……。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOON」


 氷盾竜アルドバリスが怒りの咆哮を上げる。

 腹部の外殻がはじけ飛び、赤々とした肉がむき出しになっていた。


「ん。やっとルーナの本領発揮」


 ルーナが神速を持って、俺たちを追い抜き突撃。

 当然、放つ技は一つ。


「【アサシンエッジ】!」


 クリティカル時のみ、全スキルで最高倍率のダメージを与えるスキル。

 邪魔な外殻のおかげで、ずっと使えなかったその技が真価を表す。

 クリティカル音と、奴の悲鳴が響く。

 次の瞬間、吹雪が吹き荒れて、近づいていた全員が吹き飛ばされる。


「ユーヤ、危なかった。氷耐性がないと大ダメージ受けてた」


 ルーナが半分凍りながら、セレネを見ると、セレネがルーナに【回復ヒール】かけた。


「そうだな。たぶん、【白銀兎の手袋】がなかったら凍り付いてただろう」


 そういう俺もルーナほどじゃないが、ダメージを負っていた。

 こっちは手持ちの回復ポーションでなんとかする。

 ヘイトに鈍い奴を引き付けるため、【ウォークライ】の重ね掛けが必要なせいで、セレネの魔力管理がシビアだ。

 吹雪が止む。

 すると信じられない光景が広がっていた。


「いよいよ、奴が本気になったな」


 あの、巨大なステゴサウルスのような体形に翼が生えて、奴が飛んでいた。

 もちろん、翼だけであの巨体を飛ばすのは不可能。

 吹雪で全身を包み、魔力で飛行している。


「ふふん、むしろやりやすいよ。弱点のお腹が丸見えだもん」


 ティルが矢を放つ。

 しかし、その矢はあらぬ方向に跳んでいく。


「ティル、どう見てもあの吹雪で矢がそれるに決まっているじゃないですか」

「あっ、ズルだズル! てか、あれ乱気流で矢の変化が、私の目でも見えないし、氷とか雪とか混じってるから、弾かれるよ!」


 氷盾竜アルドバリスの発狂時のモーションだ。

 氷の鎧と外殻を失った奴は、ああして空を飛び近接攻撃を避けつつ、氷混じりの吹雪を纏って遠距離攻撃を反らす。

 氷盾竜、もっとも防御力に長けた三竜。盾の名は伊達じゃない。

 さらには……。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 叫びと共に、開幕時に使った地下からのつらら攻撃。

 それも、開幕より本数が多い。


「せっかく、だいぶ折れて動きやすくなってきたのに。やってくれるわね」

「軽口を言っている暇はないぞ。奴の攻撃がくる」


 宙を舞いながら、氷のブレスを連射してくる。

 こちらが攻撃できないことをいいことに、やりたい放題だ。

 俺たちは必死になって、空から降り注ぐ冷気を纏った氷塊を躱し続ける。


「うええええん、ずるいよ。空から一方的にとかぁ」

「ん。卑怯」

「ユーヤ、こういう場合どうするべきですか?」

「二つあるな」


 奴がブレスを切り替えた。

 氷の塊を吐くのではなく、首を振りながら吹雪を吐き続ける掃討型に。

 俺たちは、散開してなんとか躱す。

 範囲攻撃な上に、妙に攻撃が残る。加えて周囲の気温が急激に下がっていき、すでに気温は氷点下を下回った。キツネで寒さに強いルーナと冷気に対する完全耐性を持つフィル以外はどんどんこちらの動きが鈍る。

 フィルが見かねて、【フレアベール】の炎で包んでくれるが、魔力量には限界があり、何度も使える手ではない。

 これはまずい、直撃をもらわなくてもそのうち動けなくなる。


「ユーヤ兄さん、対策があるなら早く言ってよ! 凍えちゃうよ」

「一つ、このまま躱し続ける。見ての通り、奴は翼じゃなく魔力で無理やり飛んでる。いずれ、魔力切れで奴を包む吹雪は消えて、大地に落ちる」

「いずれって、どれぐらい」

「あれ、竜種だからな。二時間ぐらいか」

「って、絶対無理だよ! そのまえに凍え死ぬか、直撃もらって全滅する!」


 ……このつららだらけの動きにくいフィールドでブレスを躱し続ける。それも、氷点下以下になってもまだまだ下がっていく気温の中。

 これで二時間はたしかにきついな。


「ユーヤおじ様、その二は」

「叩き落す。さっきブレスを潰したときと一緒だ。一瞬で特大のダメージを与えればいい。スキル発動中は、それでスタンする。あの飛行もスキルだから、同じことができる」

「ユーヤ兄さん、攻撃が当てれないから困っているんじゃん」


 それはやり方次第だ。

 あいつが纏う吹雪をぶち抜いて、致命の一撃を与える方法がある。

 ……それができるとしたら俺だけだ。


「しょうがない。やってみるか」


 今度は、つららの雨が上から降ってきた。

 剣でそれらを弾く。セレネは盾で受け、フィルは矢で直撃コースのものを撃ち落とす。

 つららの雨を躱すことも、切り払うこともできない、ルーナとティルが被弾した。

 あの攻撃は、今の二人では対応できない。

 これを多用されるとまずい。急ごう。


「フィル、ティル、矢で階段を作ってくれ!」

「わかりました」

「ユーヤ兄さん、矢なんて階段になるの!?」

「そのステータスの【矢生成】で作った矢なら、そうそう折れない!」


 ステータスに比例する威力と強度を持つ矢だ。

 成人男性一人ぐらい、軽く支えられる。

 というか、そうじゃなければ【白銀兎】を狩るときに、フィルにあんな無茶をさせてない。


 フィルとティルが壁に次々に矢を突き刺していき、即席の螺旋階段が出来上がった。


「セレネ、奴を壁の近くまで引き寄せろ!」

「わかったわ。【ウォークライ】!」


 セレネがヘイトを稼ぎつつ、壁まで走り、壁へ向かって奴がゆっくりと移動する。

 さあ、行こう。

 フィルとティルが壁に作ってくれた矢の階段を駆け上がり、高く跳び、剣を構える。


 矢程度の質量なら吹雪で吹き飛ばせても、この質量なら吹き飛ばせはしない。

 むき出しになった腹に、【爆熱神掌】を叩き込めれば、奴を叩き落せる。

 だが……。

 セレネに気をとられていたはずの氷盾竜アルドバリスが、せまりくる脅威である俺に視線を変える。

 そして、速射型のブレスを放った。

 これも、本来は初見殺しの技。

 竜種のブレスには必ず溜めがある。

 その思い込みをついた、瞬間発動かつ、高威力の一撃だ。ブレスの隙を突こうと行動する冒険者を嵌めるノーモーションブレス。

 想定はしていたが、使用率は低く、迎撃に使われることはまれ。そう考えての突撃だったが、甘かった。


「ちっ!」


 だが空中で躱すことはできず、氷の塊が着弾、かろうじて剣で流したが、弾きとばされ、奴に届くことなく墜落する。

 失敗した。

 そう思ったとき、俺の頭上をきつね尻尾をたなびかせながら、ルーナが跳んでいった。


「こっちだって、二連射!」


 ルーナの奴、俺のあとに跳んでいたのか。

 俺が撃ち落とされたのを見てからじゃ間に合わないタイミングだ。強力なノーモーションブレスを放つ代償である長い硬直で奴は動けず、ルーナをぎょっとした目で見ている。

 ルーナは空中で見事な突きを放つ。


「【アサシンエッジ】!」


 クリティカル音が鳴り響く。

 フィルの炎は、ルーナの刃にまだ残っている。

 さらに、奴の腹の肉は外殻と違い、炎属性に極めて弱い。それにより【災禍の業火刀】のアビリティ【業火】が発揮し、炎による追加ダメージが発生する。


 それらは奴をスタンさせるのに十分な威力だ。

 スタンしたことで発動中のスキルはすべて消え、吹雪が消失し、墜落する。

 大地が揺れた。


「ん。あとは任せた」


 奴が纏う吹雪を至近距離で浴びて凍り付いたルーナが、落ちていく。


「でかしたルーナ!」

「ええ、あとは任せて」

「夕飯、一番多くお肉をとっていいよ」

「ええ、今日は好物を作ってあげます」


 残った全員で、総攻撃を仕掛ける。

 俺の燃える掌が、セレネのスパイクが、フィルとティルの矢が外殻が砕かれ、むき出しになった腹に次々と着弾する。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 奴の悲鳴ととともに、暴れるが、このチャンスを逃さない。

 竜種には学習能力がある、ふたたび空に逃げられたら同じ手で叩き落すのは不可能だ。

 氷盾竜アルドバリスが立ち上がり、スパイク付きの巨大な尻尾で薙ぎ払いを行う。

 セレネが盾で受けようとする。


「セレネ、受けるな!」


 叫び、セレネの前にでて剣を鞘に納める。

 あの尻尾は非常に柔軟性がある。盾で受けると、盾を支点にして、鞭のようにうねり盾の後ろにいるものを直撃し、スパイクで串刺しにする。スパイクには強力な麻痺毒付き。

 ……氷盾竜アルドバリスの攻撃はほぼすべてが絶妙に嫌らしい。


 だが、その柔軟性がある尻尾には弱点がある。

 柔軟性と鞭のようなしなりを持たせるため、尻尾から生えているスパイク以外は柔らかく、外殻にも包まれてもいない。

 ゆえに極限の威力を持つ斬撃ならば……。


「【神剛力】」


 せまりくる、うなる尻尾を睨む。

 時間が引き延ばされる感覚、一瞬が永遠になるような気がする。

 白い扉を開く。

 ステータスの力の根源、それを極限まで引き出す。

 最速の踏み込み、鞘の刀に手を添える。

 これから放つのはスキルじゃない。


 何年もの鍛錬に身に着けた純然たる技術。

 技術の集大成、ただの最速の居合切り。

 目を見開き、尻尾でもっとも弱い部分を最速の刃で、切り裂く。

 スパイクのついた尻尾が宙に舞い、血しぶきが舞う。


 ……まだ、これで終わりじゃない。

 そのまま腹下に潜り込み、斬り上げて肉に刃を押し入れ、そのまま柄を強く握り駆け抜ける、大量の血が噴き出る。

 氷盾竜アルドバリスは振り向いて、背中に回った俺を忌々し気に睨み、渾身のブレスを放とうと口内に力を集中する。


「いいのか、敵は俺だけじゃない」


 クリティカル音と、爆音。

 ルーナの【アサシンエッジ】とセレネの【シールドバッシュ】の音だ。加えて矢が突き刺さる音が奴の後方から響き渡った。

 俺はとどめを刺すために、駆け抜けたわけじゃない。

 注意を向けるためだ。とどめはルーナたちに任せた。


「GAAA、GYA、GYA、GYA」


 青い粒子になって奴は消えていき、消えながらも最後にブレスを放ち、そのブレスが空中でほどけていき、命中するまえに拡散した。

 氷盾竜アルドバリス、おまえは強かった。

 だが、運が悪いことにすべての攻撃を知られ対策をされていた。初見であれば、きっと負けていただろう。


 白い扉を閉じる。

 同時に凄まじい疲労感で膝をつく。

 そんな俺に、ルーナが駆け寄って飛びついてくる。

 それを見たティルも同じようにした。

 ……二人とも冷たい。仕方ない温めてやるか。


「ユーヤ、氷の竜、倒した!」

「やっぱり、私たちは最強だね!」

「そうだな、なんとか倒せた」


 やっぱり、三竜は強い。

 何度かやばい局面もあった。

 だが、最高の仲間たちがなんとかしてくれた。とくに奴を叩き落そうとして俺が失敗したあとのルーナのフォローは大きい。


「暖かな力が湧いてくるわ」

「また、称号を得ましたね」


 三竜特有のボーナス。

 これを得るためにここに着た。


「いよいよ、三竜も残るは風竜だけだ」


 残りは風の竜。

 厄介な敵だが、きっと俺たちなら勝てるだろう。

 クリタルスは十分楽しんだ。

 ニ、三日経てばクリタルスを出発し、次はエルフの里に行こう。

 そして雷竜の奴に挑むのだ。

面白いと思っていただければ画面下部の評価をしていただけると幸いです


先日発売されたMノベルス様の単行本一巻もよろしくお願いします!

絶好調なようで二巻の発売、コミカライズが決定しました!

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Mノベルス様から7/30に四巻が発売されます!
四巻はセレネがメインに大活躍の、騎士の国編! セレネがより好きになる書き下ろしがあります
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