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30.遊びの終わり

腕を1本奪ったまでは良いものの、そこから先がなかなか難しいことになっている。賢者のアンミが幻覚を使い方向感覚を失わせ、さらにまだ毒の影響も残っているため飛行に関しては妨害できているんだが、それ以上のことが難しいんだ。

向こうは贅沢に魔力を使って大量の魔法を俺たちに放ってきていて、近づくことがまず難しい。

しかも、周囲に自動迎撃用の魔法か何かを使っているようで、弓使いのシアニが矢を放ってみても全てそれで防がれてしまう。


「これじゃあジリ貧だな」

「キヒッ!もう少し毒が効くかと思ったんだがなぁ。まさかあの程度で収まっているとは。さすがは魔族、と言ったところかぁ?」

「盾で防ぐにも限界があるな。消耗が激しすぎる」


今のところ魔法はすべて盾で防ぐことができている。だが、その盾の耐久値がゴリゴリ削られている状況なわけだ。向こうの魔法の使い方から考えるとまだまだ魔力が底をつく気配はないし、向こうの魔法が打ち止めになる前に盾が全て壊れてしまうだろう。

となるとやはり、どこかで反転攻勢に出なければいけない。


ただ、何をするにしても通用するかどうかが怪しいんだよな。

シアニの弓矢はすべて防がれているし、アンミの魔法に頼ろうにもそれをすると向こうの飛行の妨害が途切れてしまう。そうなると魔法は当てられたとしてもその後の決定打を放つ前に空へと逃げられてしまう可能性があるわけだ。

何をするにしても魔族の今の完璧と言えるかもしれない防御体制を崩す手を考える必要があるわけで、


「仕方ない。ここは、壊れた建物の方に何か残されていないか見に行くぞ」


「それでどうにかなるかのぅ…………とはいっても、それくらいしか逆転の一手を掴む方法がなさそうなことも確かじゃが」

「合図を出してくれれば、俺が突進して無理矢理道を開くと見せかけて対応を遅らせることはできるぞ」


「よし。それなら、合図を出すからそのタイミングでクーロリードの移動に合わせて俺たちもがれきへ接近だ」


その一手のきっかけを探すために、俺たちはがれきの山へと近づいた。


元々は研究施設だったそれだがもうほとんど原型はなく、実験対象だっただろう全ての魔物や動物などは消し飛んでいる。

ただ、だからと言って何もないとも思えないわけだ。いくらものすごい爆発だったとは言っても、がれきの山が残っているんだからそれ以外にも何か残っていたとしてもおかしくはない。


「ふぅん?がれきを盾にする気?そんなものでボクの魔法を防げるとは思わないでほしいかなぁ!!」


幸いなことに魔族は俺たちの狙いに気づいていない。ただがれきを盾にして盾の消耗を抑えようとしていると勘違いしてくれているようだ。とはいえあのがれきの山から使えそうなものを探すなんて言う運頼みな方法を実践しようとしているなんて考えにくいことだし、そういう結論にたどり着くこともおかしいことではないんだけどな。

だが、今回はその相手のある意味での常識が役に立ってくれたんだ。


詰まれたがれきなどを拭き飛ばして魔法が飛んでくる中、それのお陰である程度埋まっている物を掘り返すことも同時に行なわれて、


「っ!これは、実験試料にもあったねずみのしっぽだな」


「使えるんですか?」


「どうだろうな?ちぎると淡く発光するなんて言うことは書いてあるが」


「野営の時などに便利そうですね。ただ、今は明かりなんて必要ないんですけど」


たまに見つかる物も、俺の知識に無い物だったりあったとしてもたいして使えないものだったり。何とも言えないラインナップとなってしまっていた。


だが、それでもかまわない。

今大事なことは、その出てくるペースがかなり高い物であるということ。今すぐに出てこなくたって、この研究施設にあるものの中には必ず効果的なものがあるはずだ。だからこそ、できるだけ次々と見つけていけるのならばそれでいいんだ。

そしてそのまま耐えること数分。ついに俺たちは逆転の一手となりそうなものを見つけて、


「よシアニ、今だ!」


「…………いきます」


シアニがそれを矢に括りつけ、放つ。それは当然ながら魔族の体に当たる前にその周囲に展開されていた迎撃用の魔法に撃ち落される。だが、それでもかまわない。どちらかと言えば、それでいいのだ。

なぜなら、


「っ!?なにこれ!?臭っ!?」


漂う激臭。それに思わずと言った様子で魔族は鼻をつまみ嫌がるという反応を見せてしまう。

だが、それこそが俺たちの作りたかったもの。一瞬でしかないものの、逆転のチャンスだ。

すぐさまここで臭い対策を万全にしておいた(ただの鼻栓)俺が接近し、無理矢理一太刀浴びせる。


「今回はその首を切り落とすつもりだったんだけどな」


「へぇ?お兄さん、調子に乗ってんじゃない?…………って、臭っ!」


ここで大事なのは、キズは多少でも全く以て構わないからとりあえず煽っておくこと。これだけで魔族は煽り耐性が低そうだしすぐに言い返してくれるから、そのタイミングでまた臭いにおいを吸ってくれて動きを止められる。

さすがにここから俺が追撃をかけると完璧に対応されてしまうだろうが、


「キヒッ!苦しみながら息絶えるんだなぁ」


「っ!?いつの間に!?」


ここで動くのは、今まであまり活躍が見えにくかった斥候のチオシア。罠ばかり仕掛けていたが、ここで初めて斥候らしい、というか、どちらかと言うと暗殺者みたいな動きを成功させるわけだ。

深い傷をつけることは難しいと判断したのか急所は狙わず後ろに回り込んで背中に力いっぱい短剣を刺すだけにしたようだが、それでも十分。その短剣にはたっぷりと毒がまた塗られていて、


「その油断、命とりだぞ?」


「っ!?チィッ!!」


ここに来てやっと、魔族の面倒くさそうな顔を見ることができた。チオシアに一瞬気を取られたところで俺が追撃をかけ、さらに傷を増やした。

そうしてできた新しい合計3つの傷が気になるのか回避した後も体の様子を何度か確認しつつこちらを警戒した様子で見てくる。


だが、それは全く以て問題ない。

なぜならここまでの攻撃は確かに仕留めることを目指したものではあったが、それと同時に、


「足元注意だぜぇ。キヒヒッ!!」


「なっ!?罠!?」


ガクンッと魔族のふんでいた地面の一部が下がり、その行動を封じる。この罠は魔族対策で作ったものではなく少し前まで戦っていた魔物対策のためのものだったんだが、こいつにも使えるだろうということで誘導したわけだ。

もちろんこの罠はただ足を取るだけのものではなく、仕掛けもしっかりとしてある。


「うげぇ!?溶けてる!?」


「キヒヒッ!そいつはスライムすら嫌がるような強酸だ。魔族でも耐えられるものではないぜぇ」


その穴に仕掛けてあったのは、スライムの時にも使った強い酸だ。人間なら骨すら残らず溶けてしまうものらしいが、魔族だけあって硬い(という問題なのか分からないが)みたいで。多少皮膚がただれる程度で済んでしまっている。

ただ、そこそこうまくいったことは間違いない。3回の攻撃とこの酸による被害を合計すれば、腕を飛ばすのと同じくらいのダメージにはなっているはず。つまり、実質両腕切り落としたようなものだ。警戒されたうえでこれをできたのだから、かなりの成果のはず。もう少し頑張れば、倒してしまうことだってできるはずだ!


なんてことを思った俺だったんだが、


「さすがに遊び過ぎたみたいだね。もう少しギアを上げようか」


「っ!?何じゃの魔力は!?」


魔族が雰囲気を変え、アンミが驚き叫ぶ。直後、俺たちは何をされたかもよく分からないまま吹き飛ばされた。


「グハッ!?」

「明らかに先ほどまでとは段違いだぞ!?」

「本当に今までのものが遊びだったとでもいうのか!?」


圧倒的なその攻撃に、俺たちは呆然とするしかない。

先ほどまでの魔法とは、明らかに質が違う。この攻撃を、俺たちが防ぎきることができるとは到底思えなかった。防ぎようのない攻撃を使う相手に、勝てるものだろうか。

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