29,畳みかけろ
「ふん!この盾すら貫けんとは、四天王もたかが知れたものだな!!」
「へぇ?言ってくれるじゃん」
全ての魔法は、クーロリードが持っていた金属板によって防がれた。それを上に掲げて屋根のようにすることで全ての俺たちに降り注ぎそうだった魔法は防がれたんだ。さすがはクーロリード!頼りになるな!!
しかし、クーロリードの言う通り少し拍子抜けでもある。四天王と言うからどんな凶悪な魔法を使ってくるのかと思えば、まさかただの金属の板すら破壊できない程度のものだったとは。
魔族はクーロリードのあおりに頬を引く突かせているが、そこまで煽っても今の段階ではそこまで危機感を抱けない。
「なら、これでどうかな!!」
「ぬぅ!?」
「くっ!大丈夫か、クーロリード!?」
「問題ない。これくらい、まだまだ余裕だ!」
だが魔族も侮ってはいけない。煽られて腹が立ったのか、特にクーロリードに効くような魔法を使ってきた。
それこそが、重力系の魔法。俺たちは強い力で地面に押さえつけられ、特に金属板を支えていたクーロリードに強い負荷がかかる。
「さすがは魔族じゃな。高度な魔法をこうもたやすく操るか」
「手ごわい相手だな」
賢者のアンミもうなるほど、その魔族の魔法の技術は高いらしい。そう考えると、本当にさっきの魔法は小手調べもいいところだったみたいだな。やはり魔族。油断はしてはいけない。
ただ、油断をしないだけでは足りないな。それだけではあの魔族を倒せない。
今は余裕ぶって小出しで魔法を使っているだけだが、このまま相手が宙に浮かんだ状態で魔法をいくつも使われると一方的に攻撃されるということになってしまう。その場合、俺たちにどこまで対処できるかは未知数だ。それこそ今の重力操作と他の魔法を組み合わされてしまえば、かなりの精度で俺たちに攻撃は当たるだろうからな。
時間をかければ不利になるのは俺たちだ。ならば、まだ侮って本気を出していない今のうちに畳かけることが理想だ。
「アンミ。平衡感覚を失わせることは可能か?無理矢理墜落させたい」
「ふむ。分かったのじゃ。やってみるとしよう」
このままクーロリードに魔族の意識が向いている間に、他が準備をする。相変わらずクーロリードに煽られたことを気にしているのかじわじわ追い込むように魔法を当ててきているんだが、
「ふふふっ!どうしたのかな?そんな風に耐えているだけじゃボクには勝てないよ?」
「そこまで必死になるほどの攻撃でもないというだけだ。雑魚を相手にしていたらきりがないだろう?」
「へぇ?まだそんな強がりが言えるんだ。良いよ。付き合ってげるよ!!」
まだまだどうにかなりそうな雰囲気はある。というか、このまま数分耐えられるんじゃないかとすら思うほどだ。魔族の煽り耐性が低いのか、それともそれだけ余裕があるということなのか。何にしろ、こちらとしては好都合。
シッカリと準備はさせてもらって、
「では、行くとしようかのう。『センスレス』」
「っ!?これは!?」
まず最初に動くのはやはり賢者のアンミ。幻覚を使ってもらって、魔族の平衡感覚を失わせた。これだけでだいぶ効いたようで、浮遊がおぼつかなくなりふらふらとし始める。今すぐにでも墜落してしまいそうな様子だ。
そこからさらに確実に地面に落とすため、
「しっかりと毒は塗ってある。しっかり味わいやがれ、キヒヒヒッ!!」
「…………落ちろ」
毒のたっぷり塗られた矢を、弓使いのシアニがつがえる。
しかも、その毒はただの毒じゃない。様々な状態異常を同時に引き起こす非常に凶悪な物。それこそ俺の場合受けただけで即座に命を落としてしまうようなそんな代物だ。
だが、相手は腐っても魔族。そこまでの効果は出ない。しかしそれでも間違いなくかなりの効果は出せていて、今度こそ完全に地に体がついた。やっと俺たちの土俵に降ろすことができたわけだ。
「ひねりつぶしてくれ!!」
ここで最初に動くのは、やはりここまで苦しめられてきたクーロリード。これまでの恨みを晴らすように思いきり手に持つ金属板を魔族にたたきつけた。かなりの重量のそれはクーロリードの圧倒的なパワーで加速され直撃し、重い音と共に魔族を地面との間で挟み込む。通常の人間ならぺちゃんこにつぶれているだろうな。
だが、ここで油断する俺ではない。
その金属板の下敷きになっている魔族へ更に追撃を仕掛ける。俺の剣はだてに伝説の剣ではないから、金属板くらい楽に切り裂くことが可能で、
「その首、もらい受ける!!」
金属板ごと魔族の体を切る。押し付けられて動けなくなっている魔族を切り裂き、その命を確実に終わらせるんだ。
と、してみたのだが、
「…………いったいな~。今のはなかなか効いたよ」
「っ!?ここまでやって右腕だけか」
俺たちがここまでやって、できたことはその腕を1本斬り飛ばすことだけ。本当は全身を真っ二つにしてやるつもりだったんだが、どうやら回避されてしまったらしい。金属板に押さえつけられている状態でも回避できるってことは、その筋力もものすごい高さってことなんだろうな。
だが、絶望はない。
かなり一方的にやってこれだけの結果しか得られなかったんだとしても、逆に考えればここまでの事はできるってことなんだ。つまり、もう少し頑張ればその首を切り落とすことだってできるはず。俺の剣が当たりさえすれば、倒せるってことだ!
「四天王と言うからどれほどかと思ったが、案外大したことないじゃないか」
「へぇ?お兄さんまでそんなこと言うんだ…………せっかく苦しまずに終わらせてあげようと思ったけど、気が変わったよ」
俺も敵の視野をできるだけ狭めるため、そして仲間を鼓舞するために軽口をたたいてみれば、魔族は凶悪そうな笑みを浮かべる。だいぶギアを上げてきそうな雰囲気だ。
争いはさらにここから激しくなっていくだろう。
だがそこに丁度良く、
「勇者様!これを!!」
「おおっ!助かる!!」
衛兵が新しい金属板を持ってきてくれた。これで新しいクーロリードの使える盾が追加されたわけだ。一応普段使っている物もあるから、しばらくは盾を破壊されても替えが効くな。
ただ、そこまでは良かったんだが、
「邪魔だね。消えて」
「っ!お前たち、逃げろ!!」
衛兵たちが魔族に目を付けられてしまった。俺たちとの戦いに入ってこられると邪魔だと感じたのか、排除するために魔法を放ってくる。
どうにか俺はそのいくつかを剣で切り裂くが、さすがにすべてを防ぎきることは不可能。
衛兵たちに魔法が飛んでいって、
「グハァッ!?」
「う、うわあああぁぁぁぁ!!!????」
「大丈夫か!?しっかりしろ!!」
数人が大きさはまちまちだがケガをしてしまう。俺たちは今、けが人という重荷を後ろに控えさせてしまった状態になってしまったんだ。
これはそのままにするとマズい。
すぐにアクアに頼んでケガを治してもらって、
「お前たち、逃げてくれ!それと、周辺住民の避難も!自称だが四天王らしい!」
「わ、分かりました」
「勇者様、どうかご武運を!!」
「お願いいたします!!」
衛兵たちは逃がす。その逃げる背中にさらに何かしてくるのかと思っていたが魔族は特に何もせず、いやらしい笑みを浮かべるだけ。
そしてかなり背中が小さくなったところで、
「ふぅん?よかったの?あんな使いやすそうな肉壁をなくしちゃって」
なんだか俺のパーティーメンバーみたいなことを言ってきた。
いや、分かっているぞ。これは別に敵のセリフとしては何も悪い物ではないって。魔族のセリフとしては非常にあうものだってことは分かってるんだ。
だがあまりにも、普段のパーティーメンバーの言動と酷似しすぎているんだよな。なんで勇者パーティーの発言が魔族とそっくりなんだよぉ。
「…………そんなものなくても、お前を倒すことは簡単だってことだ!!」
「へぇ?口先だけは立派な勇者様だねぇ」




