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27.複数寄生

寄生された衛兵が完全に乗っ取られたのか、もう味方としては動いてくれなくなってしまった。しかし、だからと言って状況が急激に悪化するわけではない。確かに奥まで攻め込んでくれる人材がいなくなってしまうことは大きな問題だが、だからと言ってこの敵に回られたことで俺たちが負けるということにはならないんだ。

何せ、目の前のやつはもう理性が残っていないんだから。

先ほどまでその手にあったはずの剣もなくなっているし、まともに戦うことも難しいだろう。他の寄生虫にやられた人間と同じように、簡単に倒せるはずだ。


「お前たち。あれを、その手で終わらせてやる覚悟はあるか?」


「「「「…………はい!」」」」

「やります!やってやります!!」

「あいつが1人で道を切り開いてくれたんです!ここでやらなきゃ、仲間じゃない!!」

「ここで人間の敵になってしまうことは、あいつの望んだことじゃないでしょう」


衛兵にとどめを刺すかと問いかけると頷かれた。

ただ、何やらものすごい解釈の仕方をしているんだよな。いつの間にかあいつが俺たちのために1人先陣を切って敵を駆除しに行ったということになっているぞ?ただ大切な人間が心配で勝手に駆けだしただけだというのに。なんでこんな美談に勝手に脳内変換しているんだ?こいつら、しっかり現場を見ていたはずだろ?

あまりにもひどい捻じ曲げた解釈に俺は頭を抱えたくなるが、それをこらえて指示を出す。

寄生された衛兵に、最後を迎えさせてやる指示を。

丁度アンミが寄生虫に幻覚を見せて暴走させているところで衛兵たちの攻撃が降り注ぎ、


「…………ガアアアアアァァァァァ!!!!!」


「うげっ。なんか変なスイッチ入れちまったか?」


寄生された衛兵は、予想外なことに方向を上げた。その身に大量の攻撃を受けたにも関わらず、そんなもの通用しないとばかりに叫んだんだ。

俺はもう寄生虫に寄生された段階で弱っていくものだと思っていたんだが、この様子を見ていると意外とそうでもなさそうだよな。もしかして、一時的に能力を無理矢理向上させる特性とかあったりするんだろうか。


とりあえず何にしろまだまだ倒れることはなさそうで、


「む?まだ爆発が起こっておる…………あの衛兵、どうやら体内にまだ寄生虫を数匹ため込んでいるようじゃな」


「何?そうなのか?それが強化の理由か?」


「さてのぅ。しかし、かなり特殊な状態なことは間違いないじゃろうな。警戒せねばならんじゃろう」


賢者のアンミの見立てによれば、衛兵の体には寄生虫がまだ残っているらしい。1匹はつぶしたはずだというのにそれなのだから、体内に複数の個体を同時に住まわせているということ。これは間違いなく異常だ。


そもそも寄生虫は今まで魔物に1匹しか住み着いていなかったことを考えると仲間が寄生しているかどうかは分かるようになっているはずだし、それと共に餌を食いあわないようになっているはず。人間なんて大量の寄生虫が住み着いてしまえばすぐに息絶えてしまって寄生する意味がなくなるだろうから、ここまでの数が寄生しているというのは寄生虫の今までの習性や役割を考えるとおかしいわけだ。


それでも寄生虫が複数体いるということは、


「最初から人間には複数の個体が住み着けるように設定されていた、と言う可能性はあるか?」


「ないとは言い切れんのぅ。ここまでの様子を見る限り魔物にそういった様子は見られんし」


人間相手の時だけ特殊な状態となる可能性。人間が相手だから大量に寄生することができた可能性。

これに関しては資料にも書かれていなかったからハッキリとそうだとは言えないわけだが、そうなのではないかと言う推測はできる。それなりに状況証拠が集まってきているからな。

そうなると、


「お前たち!最初から気をつける必要があったが、もっと気をつけろ!人間が寄生された場合、かなりこっちにとって不利になるぞ!!」


この呼びかけは必須。衛兵たちに注意をしておかないと、似たようなことになる人間がさらに追加されかねないからな。それをされると、敵の実力が未知数である以上かなり不利になる未来だって考えられる。現在分かっているだけでもかなりの攻撃を受けて耐えられる力を持っているんだから、その壁として使える存在が数体でも出てくれば相当手間取ること間違いなしだ。


加えて、当たり前だが寄生された人間の力は防御面だけのものではないだろう。早速こっちに向かって突撃するようなそぶりを見せていて、


「ガアアアアァァァァァ!!!!」


「ぬぅん!!」


地面をけり、猛スピードで突進を仕掛けてきた。それを向かえうつのはうちの頼れる盾役、重戦士のクーロリードだ。気合と共に少しだけ持っている金属の板を前に突き出し、突進を受け止める。

ゴォォンッ!という硬い音と共に空気が震え、


「耐えられはするが、盾の方に問題が出そうだな」


「嘘だろ!?それ、他の魔物を受け止めた時にはたいして影響がなかったっていうのに」


クーロリードが一旦の戦いは制した。突進を受け止め、寄生された衛兵を跳ね返したんだ。衛兵の方はそれによってかなり肩のあたりがつぶれているが、見る見るうちに再生していく。それなりの数の寄生虫も押しつぶせたようだが、まだまだ戦うことができるという様子だ。


逆に、問題があるのはクーロリードの方。クーロリード自身はまだまだ耐えることができるようだが、持っている金属板の方に限界が来そうになっているんだ。実際金属板の一部が今までになかったほどに歪んでいるし、あと何度か受け止めれば崩壊してしまうだろう。


「代わりを持ってきてくれ!!」


「か、かしこまりました!お前たち、行くぞ!!」

「「「「ハッ!!!」」」」


すぐに衛兵に指示を出して持ってきてもらうことにはしたが、それでもすぐに到着はさせられないだろう。今のままでは金属板が破壊されてしまう方が早い。


だが、まだこちらには打つ手がないわけではなく、


「アンミ、幻影で時間を稼いでくれ!」


「うむ。できる限りのことはするのじゃ」


アンミの幻覚でどうにか時間を稼いでもらう。さすがに数が多いため寄生虫に幻覚を見せるという手法は難しくなってしまうが、逆に寄生された衛兵の方に幻覚を見せておけばその内部にいるやつらは皆騙せるわけだ。

だから、そこまで幻覚で時間を稼ぐことも難しくないはずで、


「ふむ。ダメじゃな。全く効果がないわけではないが、どうやら幻覚をかけられているということに気づいておるようじゃ」


「おいおい。それはもう打つ手なしじゃねぇか」


俺は頭を抱える。

何をすればそんな高性能な人間を作り出せるんだろうな?研究資料を見た限りそこまで急激な能力向上を引き起こすような要素はない気がするんだが。複数体いるからって、ここまで強くなる物か?


ただ、今のところ幻覚をかけられているとは認識していても、何を現実かまでは把握しきれていないように見える。かなりふらふらしていてどこに俺たちがいるのかも分かっていない様子だからな。だから、時間稼ぎ自体には多少成功したと言ってもいいだろう。

更にここに、


「……燃やす」


「おお!シアニ、助かる。再生能力があるとはいえ定期的にけがをさせ続ければさすがにこっちにも向かって来づらいか」


弓使いのシアニが、火をつけた矢を放っている。これのお陰で体を貫くだけでなく全身に火をつけてやけどを負わせることもできる。

やけどさせた場合、純粋なできたばかりの傷とは違って再生させるのも少し複雑になるだろうからな。

これでもう少し時間を稼げるし、寄生虫の数も減らせるだろう。

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