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26.熱くなりすぎて

内部で寄生虫が入り込んで強化された衛兵が暴れているからなのか、急激にやってくる魔物の数は減ってきた。おかげでかなり俺たちも進むことができて、すでに出入り口の付近と言うところまで来ている。

このまま進んでモンスターを殲滅していけば完璧だ…………となれば良いんだが、それが理想ではあるものの非常に難しい。

まず、この建物の内部へと入っていくとなると当然進む場所が狭くなってしまう。これは1番前を進んでくれる重戦士のクーロリードが楽になるということではあるんだが、それと共にそれ以外の攻撃が通りにくくなるということにもなるんだ。

クーロリードは現在非常に巨大な金属の板を盾として使っており。それは正直通路などを通るにはいっぱいいっぱいな大きさとなってしまっている。このままでは、守ってもらっている味方が余計なことをしそうな魔物へと攻撃するということが少し難しくなってしまうわけだ。


「シアニとアンミは問題なさそうか?」


「……この程度なら」

「魔法にはよるが、現状の幻影を主体とするやり方ならあまり難しくはないのぅ」


俺の頼もしいパーティーメンバーであれば、その程度の事は気にならない。金属板と壁の間の隙間を使ったり、そもそも隙間を通さなくても問題なかったりとするわけだ。それができるほどの高い技量を持っているからどうにかなる。


だが、問題は衛兵たちだ。こいつらはこの周辺で治安維持に努めていたりするわけだが、それでも実力は中途半端。途中で自分の知り合いがいるからと飛び出してしまう者が出るくらいには甘い組織なわけだ。そういう連中に、俺の仲間と同じことを求めるのは無理があるだろう。いくら何でも、時たまにできる隙間を通して攻撃してくれと言うのは難しい話。

そもそも、衛兵は全員が全員遠距離を得意としているわけでもなさそうだからな。主に投石で現在は対応しているやつも多いし、比べるのも酷だろう。

ただだとすると衛兵をどうするかが問題になってくるわけだ。まず1つの問題点としては、


「ここまで来れたぞぉぉ!!!」

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

「俺たちは勇者様と共に戦えているんだ!!」


士気が高い。めちゃくちゃ高い。それこそ、ここで俺がストップをかけても止まってはくれないだろうというほどだ。

ここまで急激に巻き返せて理由の1つもまたこの熱量があったから。この熱があったおかげで、魔物の殲滅速度も上がったんだ。だから、ここまでは悪いもではなかったわけだ。

とは言っても、扱い方を間違えるとここから害になってしまうのも事実。


時間があるならもう少し話をしてこいつらにしっかり理解をさせて誘導したいところではあるんだが、残念ながらそこまでしているほどの余裕はない。押し戻せてはいても、確実に勝てるという状況でもないからな。だが、止めないわけにもいかない。

難しい問題だな。

ここは少し、他のやつの知恵を借りてみるとしよう。


「アンミ、何か策はあるか?」


「策と言うほどのものではないが、幻影を見せておくのはどうじゃ?」


賢者のアンミに相談してみたところ、そこから出てきたのはアンミが衛兵たちに幻影を見せるという案。悪くはない案だと思う。もし問い詰められても、そういう能力を持つ魔物がいたと言えばそれでごまかせるからな。どうして解除しなかったのかと聞かれても解除手段がなかったとだけ言えばいいわけだし。


ただ、個人的にはその手法にはリスクがあるしできれば最終手段にしておきたい気持ちもある。

と言うことでもう少し他の案も聞いてみようかと思ったところで、俺のイマジナリーアンミがささやいてきた。

そう。俺の中のアンミは、


『ならば、止めずに突っ込ませればいいじゃろ。衛兵が数人命を落とせばさすがに熱もなくなり恐怖へと変わるはずじゃ』


なんてことを言ってくる。

言いそう。現実の方の本人も滅茶苦茶言いそうだ。多分、周囲にいる衛兵に気を使って(?)口には出さないだろうが、幻聴なり何なりを利用してそう伝えてくるはずだ。あいつなら絶対やる。あと、アンミ以外のメンバーに相談しても絶対言う。間違いないな。

そんな意見が出てくると考えると、これ以上相談したらダメか。過激な意見が出て来て俺が苦しむことになりかねない。

ならば、


「クーロリード、後退できるか?これ以上戦線を押し上げるのは危険だ。もう少し引いて叩きたい」


「む?もちろんできるが、いいのか?」


「ああ。どうせ突っ込むのなら、もう少し余裕のある状態でやりたい。2分後に頼む。チオシアは、それまでに仕掛けられるだけ罠を頼んだ」


「キヒッ!了解だぜぇ」


まず俺がやらせることは、クーロリードを引かせること。こいつが1番前にいるから、ここを下げれば全体が下がることになる。当然その中には衛兵も含まれるわけだ。

衛兵だけに留まれと命令してもダメだっただろうが、こうして俺たちが下がるとなると衛兵もさけられない。特に、壁となるクーロリードが下がってくるとそれを避けて残るということもやりづらいからな。


これの効果と言うのは意外とバカにならず、


「な、なんで後退を?」

「もしかして、何かマズいのか?」

「俺たち、勝ってるんだよな?」


心を動かすには、まず行動から。それは今にだって当てはまるんだ。

ずっと進んでばかりいた衛兵たちは、そのために勢いを出していた。だからこそ逆に後退させることで、不安を感じさせるわけだ。さっきまでより少しだけ冷静になったように見える。

更にここから、


「アンミ。少しだけ寄生虫の方のリソースを奥にいる魔物をこちらへ引き寄せるという方に使ってもらうことはできるか?」


「もりろんじゃ」


敵を呼び寄せてもらう。これによって、こちらが逆に押されているのかもしれないと錯覚を引き起こす。

だが、実際にはその事態は本当にただの錯覚にしかならない。アンミに魔法を使ってもらって魔物を呼び寄せただけで、特に押し負けたというわけではないんだ。どちらかと言うと今回の場合、無理矢理罠にかけたように考えることができるくらいだ。

なにせ、チオシアに短時間でとはいえできる限りの罠を作ってもらったからな。先ほどまでと違って確実に罠が作動するようになっているし、明らかにさっきまでよりも減少速度が高い。


「このままなら突入できるようになるのも時間の問題か」


「間違いなく、ある程度までは魔物の数を減らせておるじゃろうな」


これならば多少衛兵が一緒についてくることがあってもマシになるかもしれないと希望が見えた気がした。ある程度までは苦戦せずに進むことができるだろうからな。

だが、それは見方によってはいい意味で、そして別の見方をすれば悪い意味で裏切られて、


「おい!あいつが、戻って来たぞ!!」

「本当だ!終わった、のか?」

「勝ったんじゃないか!?」


俺たちの前に、見覚えのある人物が現れた。

それこそが、寄生されてしまった衛兵。奥まで突入していったはずの衛兵だ。それが今度はこちらに向かって近づいてきていた。

衛兵たちはそれを奥の処理が全て終わったからだと考えたようだが、


「違う!あいつの様子を見てみろ!もう、理性が残っていない!完全に寄生虫に支配されているんだ!」


「なっ!?そんな!」


先ほどとは違う、虚ろな瞳。それはまさに、寄生虫の影響が出て完全に思考が回らなくなってしまったような姿だった。さすがにそう都合よく味方で居続けてくれるわけではないということらしい。

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