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25.寄生されちゃった

弓使いのシアニはストレスをため込んでいるものの、とりあえず寄生虫の殲滅速度が急激に上昇したことは間違いない。明らかに今までより魔物を倒して寄生虫が出てくるという頻度が減ったし、魔物の統制的な面の能力も低下している。

寄生虫がいたからこそ強力で来ていたのだろうが、それがなくなれば魔物同士で争ったりもするわけだ。それが自然な姿だからな。


これのお陰でこっちはかなり楽になった。まだまだ寄生虫への警戒は必要だがクーロリードなんかもずっと張りつめている必要はなくなったし、多少隙ができたとしても寄生虫が飛び込んでくるということはなくなった。

もう少し頑張ればまた俺も前に出て寄生虫を気にせず戦えるのではないかなんて言う期待もしてしまう。

もちろん、まだまだ敵側の魔物は補充が出てきているしそんなことをでくるのは当分先だとは思うがな。


「うおぉぉおぉ!!!!やれるぞぉぉぉ!!!」

「これが勇者様の力!なんてすばらしいんだ!!」

「俺たちが肩を並べて戦う機会を得られたことはまさに奇跡!この戦い、勝てるぞぉぉぉぉ!!!!!」


色々まだ課題はあるが明らかにこちらがだいぶ有利になってきているため一緒に戦っている衛兵たちのテンションは爆あがり。もう勝利を確信しているといった様子だ。

俺から言わせてもらえばこういう時が1番危なかったりするんだが、とはいえそれを口に出すつもりもない。それは勇者の役割ではないからな。

どちらかと言えば、


「気を引き締めて最後まで行くぞ!!着実にたおしていくぞ!」


「はい!勇者様!!!」

「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」


多少たしなめはするが、より盛り上げて希望を与えるのが勇者の役目。そして、警戒は俺や仲間たちがやればいい。

実際この盛り上がりのお陰で攻撃は勢いを増しているし、今のところ悪い影響は出ていない。

攻撃の正確性が著しく低下しているわけでもなさそうだから、放置していていいだろう。このまま油断して前にさえ出なければ何ら問題はない。


そう。問題はなかったはずなんだが、それはそのまま順調に進めばの話。もちろんこの戦いも順調に進むわけではない。


「お、おい!あれ!」

「この間行方不明になっていたお嬢ちゃんじゃないか!?」

「な、なんであいつが!?」


また新しく人影が見えた。

とは言ってもこれまで何人か出てきたし全員寄生虫に寄生されてしまったものだったんだが、ここで問題が起きた。

他のやつらももちろん衛兵の中で知っている人間はいたし涙を流すことになった衛兵も多かったんだが、今回はただの知り合いだというわけで終われなかったらしい。

衛兵の1人が突然駆けだして、


「俺が、俺が助けてやるから!!」


「おい!待て!やめろ!!」


制止の言葉を振り切り、そのままその寄生されているだろう人間の方へと向かって行ってしまった。さすがにそれには俺も反応できず、抑え込む動きも間に合わない。

当然そのまま単身でその魔物の集まったなかに飛び出せばロクな事態にはならず、


「やらせて、たまる…………ガハッ!?」


「あぁ。言わんこっちゃない」


その寄生されているだろう人間のもとへ到着した瞬間、それを狙っていた魔物の攻撃を受けて吹き飛ばされた。しかも、かなりの大けがだ。そんな存在、当然ながらもう餌にしかならないだろう。

寄生されているのが大切な相手だったことは予想できるが、だからと言ってこうして近寄ることは明らかに意味がないだろう。どうしてそれを考える前に、ここで近づいてところでどうにもならないことに気づく前に走り出してしまったのか。


なんて考えていた俺もまた、愚かだったのかもしれない。

そんな駆け出して行った衛兵の考えていたことや、それが餌になることはどうだっていいのだ。

それよりも考えるべきだったことは、


「お、おい!あいつ、寄生されたぞ」


「ほ、本当だ!しかもなんか変じゃないか!?」


衛兵が寄生される可能性。そして、その寄生によって起きてしまう厄介なことだった。

人間が寄生された場合は今まで見てきた限り虚ろな目をして特に何もせず魔物の餌になるだけと言った感じだったのだが、それは寄生されてからかなりの時間が経った者たちばかりだった。

では、寄生された直後の個体も同じかというとそんなことはないようで、


「俺ガ、助ケル!助ケルンダァァァァ!!!!!」


先ほどよりどこか人間らしさを失った、どこか怪物へのなりかけなのではないかとすら疑ってしまうような様子で叫び始めた。そしてその言葉を聞く限り、まだ理性が残っていることが分かる。

寄生された衛兵はその残った理性によるものなのかは分からないが再度駆け出し、先ほどまで向かっていた先と同じである寄生された人間のもとへと向かった。

どういう相手なのかはっきりとは分からないが、愛する人間とかなら同じ状況になれたわけだしおそろっちということで悪くないだろう。


ただ正直に言ってその行動や雰囲気は明らかに別物であり、


「っ!?魔物を一撃で!?…しかも、もう傷が治ってないか?」


「そうですね。私が何かしたというわけでもないというのに傷が治っています。相当高い再生能力を持ったということでしょうか」


アクアが回復したわけでもないよ言うのに、傷は完全に癒えていた。体に着いた血や破けた服や装備がその傷の面影を感じさせるだけだ。

他の魔物を見た限りそんな様子はなかったのだが、高い再生能力を持つことに成功たことが分かる。

これが人間だからなのかあの衛兵だからなのかは分からないが、驚異的な能力であることは間違いない。


加えてまだ理性をある程度残しているため武器を使うことも可能で、自身の剣を片手に衛兵は魔物へと切りかかっていく。

その速度もまた、尋常ではなかった。

寄生虫に規制されたことによって強化されたのかは分からないが、その速度は圧倒的。先ほどまで必死に走っていた時と比べても明らかに早いそれに、俺は驚愕せざるを得ない。

もしかするとあの衛兵は、圧倒的な回復能力によりアクアと同じ様な戦い方でなおかつアクア以上の身体能力を使うことができるのかもしれないんだから。

アクアの強化版とか、どう考えても恐ろしい相手だろう。


「今はまだ魔物にそれが向かってくれているからいいんだが…………できるだけ刺激はしないようにしておくか」


いつそれがこちらに向かって攻撃をしてくるのか分かったものではない。

今のところその驚異的な身体能力の寄生された衛兵は魔物の相手をしているため放っておいても問題ないんだが、寄生虫がいる関係上いつ敵に回ってもおかしくない。

とりあえずできるだけ刺激をしないよう、そいつのいるところには攻撃をしないように全体へと指示した。


幸いなことにある程度放っておくとそいつは敵が出てきている実験施設か何かがあるのだろう奥へ奥へと進み始めて、こちらもあまり考える必要がなくなってくる。

目を離してしまうことは危険な気もするが、うかつに追いかけてもいられないしこのままかなり維持が楽になった戦線を押し上げていくことが最善だろう。


「同じ寄生された人間を守りながらの突入か。不思議な感覚だな」


「ですね。何を考えているのか、そしてまずどれほど思考をできているのかが分かりませんから」


「俺としては徐々に思考ができなくなっていく可能性を押したいが…………次に見かけた時からは要警戒だな」」


聖女のアクアと寄生された衛兵の話をしつつ、ジワジワと押し上げることに成功している戦線の様子を眺める。

相変わらず重戦士のクーロリードがデカい壁と言っていいようなものを持って大暴れしているし、賢者のアンミが寄生虫をあぶりだして弓使いのシアニがい抜いている。

斥候のチオシア設置してくれた罠を使うことはもうなさそうだが、まだ回収はさせなくていいだろう。油断ができるというわけでもないからな。


「このまま順調にいくと良いんだが……」

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