23.防衛戦じゃあ!
「押さえろぉぉぉぉ!!!」
「ダメです!木材では容易に破壊されてしまいます!!」
「金属板を持ってこい!確か防衛強化のために用意していたはずだ!」
俺たちが急いで駆け付けたところ衛兵たちは大慌てをしている真っ最中だった。
あちこちからドカンドカンと音が鳴り響き、今にも魔物が脱走しようとしていることが分かる。衛兵たちもそれを頑張って抑え込もうとはしているようだが、さすがに手が足りていないようだな。もちろん、力も。
実験の結果色々と変化してしまっただけあって相当力もついているようだし、生半可な人間ではどうにもできないだろう。逆に、ここまでの間抑え込んでこれただけでもすごいことだ。
ならばこそ、俺たちがその努力と成果を無駄にするわけにはいかない。俺たちがそれまでの頑張りをしてよかったと思えるようにしてみせるんだ!
人間の努力は、勇者である俺が守って見せる!!!
「行くぞ。とりあえずある程度数が減るまでアンミは内部の魔物の混乱を優先してくれ!脱走をしようと考える数をできるだけ減らすんだ!シアニは倒せそうな相手の中から特に物理以外の攻撃が面倒そうな相手から優先して排除!チオシアは防衛の協力に回ってくれ!他は俺と一緒にデカブツの処理を優先していくぞ!!」」
「「「「了解しました」」」」
状況はある程度把握できたから、とりあえず必要だろう指示を出して俺たち魔物のいる建物内部へと侵入していく。衛兵たちがものすごくありがたそうな顔をしていたから、これだけでも十分来て良かったと思えるぞ。俺はしっかり、人類の希望をやれているみたいだからな!!
入ってすぐに歓迎してくれる魔物達のすべてを重戦士のクーロリードが受け止め、返す攻撃で数体をまとめてなぎ倒す。相手の魔物もかなりの膂力がありそうだが、クーロリードは一撃で沈めたな。どんな筋肉量をしているんだか。頼もしい限りだ。
もちろん俺も負けずに、
「硬さも問題にはならないか。俺の剣で充分切れる」
「勇者様の剣で斬れなかったらそれはもう終わりでは?」
魔物をバッサバッサと切り裂いているぞ。クーロリードに止められているところを攻撃すればいいだけだから簡単なお仕事だな。何も難しいことはない。
これで範囲攻撃の魔法やらブレスやらを使われたら今のようにうまくはいかないだろうが、賢者のアンミが幻影で厄介そうなやつを惑わしてくれているし楽に倒せそうなのは弓使いのシアニがい抜いてくれているから問題なし。
そして稀に突破しそうになってしまう魔物がいたとしても、
「キヒヒッ!残念。そこはトラップまみれだぜぇ」
斥候のチオシアが罠を仕掛けておいてくれる。最近ほとんどチオシアは斥候よりも罠使いと言う方面で活躍してるな。本当は斥候としてもかなりの腕前なんだが。本領を発揮させてやれなくて申し訳ない限りだ。
が、それはそれとして活躍してくれていることもまた事実。この完璧な布陣によって、俺たちは盤石な防衛体制を構築していた。これを続けていれば突破されることはないだろう。
と考えたのもつかの間。そう簡単にはやらせてもらえないようで、
「っ!?ゆ、勇者様!奥に人影が!」
「何?…………本当だな。だが、様子が明らかに違う。普通の人間ではなさそうだ」
衛兵の声に反応して目を向けてみれば、確かに衛兵の言うものがそこにはあった。
魔物だけでなく、施設からは人間の姿も見え始めたんだ。人体実験でもしていたのかと俺は顔をしかめるわけだが、よくよく観察してみれば何やら不自然なところがある。実験を受けた影響とかなのかは分からないが、普通の人間とは明らかに表情や目の光などが違うんだ。
さらにその人間はと言うと、近くからの魔物から攻撃を受けて、
「い、いかん!人が襲われて!」
「助けに行かなければ!!」
「お、おれが行きます!!」
「いや、お前たち、待て!!」
すぐにその襲われそうになっている人間を助けに行こうとする衛兵たち。相当のリスクを冒さなければやれないそれを実行しようとする衛兵たちには、民を守らなければならないという確固たる意志と正義の心が感じられた。相当覚悟は決まっているようだな。
だが、俺は無理矢理止める。もちろん、言葉で制止するだけでなく体でその行く手を阻んだ。
衛兵たちからは抗議の視線が向けられるわけだが、俺が何か言うよりも先にその止めた理由がはっきりと確認できて、
「っ!?傷が爆発した!?」
「な、なにが起こっているんだ!?」
「あの魔物の力か!?」
魔物の攻撃受けて傷ができてしまった人間。その人間は直後、その傷口を爆発させた。
しかも衛兵たちには見えなかったようだが、
「やっぱりか……あの人間、寄生虫に寄生されていたぞ!おそらく他の人間も同じようになっているはずだから不用意に近づくな!」
「なっ!?」
「本当なのですか、勇者様!!」
その可能性を考えて予想していたからこそ俺にははっきりと見えた。その傷口が爆発すると同時に飛び出していく寄生虫の姿が。
人へと攻撃した魔物へと今度は寄生を開始した寄生虫の姿が。
しかし、これは面倒なことになったな。あるとは考えていたが、ここからは寄生虫がいることも考慮して戦って行かないといけないらしい。昨日のように相手にまだ発見されていない状態でなおかつたいして強くもない集団であれば炎で焼くなりしてどうにかできtなんだが、今回はそれで解決できるようなものでもないんだ。敵の魔物は実験の成果によって相当強化されているみたいだからな。炎で焼き尽くせるほどやわな相手ではない。
逆にその場合寄生虫に規制されることすらないほどの強さを持っているのではないかとすら考えてしまうわけだが、
「あの魔物、全く寄生虫を拒んでいるようですね。どちらかと言うと、積極的に受け入れようとしているように見えてしまうのですが」
「そうか?そういわれると確かにそう見えなくもない気が…………もしかして寄生虫、阻まれにくい特性も持ってるのか?それはだいぶ厄介だな」
寄生虫が魔物に受け入れられやすい特性を持っているのであれば、どれだけ強い魔物でも阻もうとすらしないため意味がない。俺たちは結局、どんな魔物であっても寄生虫の存在を恐れながら戦わなければいけなくなるわけだ。
「かなり厳しいな。場所も敵も最悪に近いぞ」
当然と言えば当然なのだが、寄生虫の存在によって俺たち前衛職は迂闊に魔物へ接近もできなくなってしまった。クーロリードに魔物を受け止めてもらうのも、かなり広くて分厚い金属板などでできるだけ資格がないようにしながらやってもらうことになってしまっている。もちろんそれで防ぐことはできるがその後の攻撃はできないため、数を減らすペースがだいぶ落ちてしまった。
俺の寄生虫の話を聞いて多少は対策を立てようとしていたのか衛兵たちが火炎瓶などを投げて火の手を上げさせてはいるが、これで全てを焼くというのも無理がある話だ。それに、もしできるのだとしても近くには住宅地もあるため燃え移ってしまうリスクを考えればやりたくはないだろう。
そしてこうなってくると本格的に、
「俺にできることがないな」
勇者なはずの俺がいらない子となってしまう。
重戦士のクーロリードは敵の攻撃を受け止めるために働いているし、聖女のアクアは仲間の傷を癒したり、あえて敵の傷をいやすことで寄生虫が出てくることを防いだり寄生虫を回復した筋肉に埋めてつぶしたり。賢者のアンミは幻影で敵を惑わし、弓使いのシアニは遠くから着実に敵をい抜き、斥候のチオシアはそれでも抜けてきた魔物のために罠を張る手伝いをしている。
俺だけが、特に仕事がないんだ。
勇者って、こんなにさみしい立場だっただろうか。




