21.またですか
寄生虫が飛び出す能力を持っていることが分かったため、俺たちはかなり慎重を期して対応に当たらざるを得なくなった。自分から抜け出すような力を持っているなら、その辺のこと切れている魔物の体から急に飛び出してくる可能性だって考えられるわけだからな。正直かなり恐ろしいぞ。
ただ、弓使いのシアニや重戦士のクーロリードに観てもらっている限り全身を焼かれている魔物から寄生虫が飛び出すというケースは今のところ確認されていないらしい。シアニにとびかかろうとしていた虫のことを考えれば危なくなった際に寄生主の体を爆発させて自分は逃げるなんて言うくらいのことはやってくると思ったんだがどうやらそういうわけでもないらしい。
不思議な話だが、もしかすると条件があるのかもしれないよな。
「気は抜けないが、燃やしている限りはそこまでひどいことになる可能性はないか」
「考えにくくはあるのぅ。自分で飛び出してくる能力はそこまで高くないとなれば、もし魔物の肉体から抜け出しておってもこちらまで急にとびかかってくると言うことは難しいはずじゃからな。もちろん、わしらが足元をよく観察しておいてゆっくりと近づいて来る寄生虫を見逃すことがなければ、の話じゃが」
懸念はあるが、それでも張りつめていなければならなし程警戒が必要なわけでもない。シアニとクーロリードには炎に囲まれている魔物達を監視してもらいつつ、俺たちは足元に寄生虫が潜んでいないか注意深く観察する。
それを続けていれば、勝手に魔物の数は減っていく。
「全部仕留め切れているかのチェックとかやらなきゃいけないんだろうけど、それも俺たちがやらないといけないのか?」
「別に他のものに任せってしまってもいいと思うんじゃがのぅ。確認くらい力のない者達でもできるじゃろ」
「それはそうだが、寄生虫がいたら力のない人間ではどうしようもできないだろう」
「…………何人か寄生されても、それさえ処分できれば問題ない」
「キヒッ!同感だ」
「問題大ありだ。犠牲が出るのを許容してるんじゃねぇよ」
倒し終えても面倒なことは続く。倒し終えてもまだからの中に寄生虫が生き残っている可能性がないわけでは人だし、チェックが大変なんだ。しかもそのチェックは俺たち以外にできる事でもないと思うし、かなり時間を取られることになる。
昨日聞いた時点では楽な仕事だと思っていたのに、ここまで大変なことになるのは予想外だ。正直今すぐに観てみぬふりをして帰りたい気分だ。
「上位種は倒した訳ですし、仕事はしたと言うことで良いのでは?」
「そうじゃなぁ。上位種は倒したし寄生虫も発見した。寄生虫が使う中に強い魔物はいなくなったわけだし、充分な成果として示せるじゃろう。わざわざ儂らがやらんでも」
「そこに時間をかけるよりも他の魔物を討伐したほうがいいのではないか?寄生主となる魔物が減れば寄生虫だって繁殖しにくくなるだろう」
パーティーメンバーはどちらかと言うと放っておいて寄生虫が繁殖してひどいことになることを望んでいるみたいだから反対しているけどな…………もしかしなくても面倒くさいからと言う理由が今回は大きい気がするのは気のせいだろうか?滅茶苦茶気持ちはわかるんだけどな。
ただ、ここは俺が無理矢理押切って確認作業はさせてもらう。
結果として、かなり時間はかかるもののまだギリギリ生き残っていたりした寄生虫を数匹見つけ出して処分することに成功。動けなくなっていたから俺たちが念入りにつぶしてやる必要があったのかは分からないが、それでも今後の事を考えればやらないよりもやった方が良かったはずだ。少しでも、1匹でも多く寄生虫は減らした方が良いはずなんだからな!
そしてその後倒した魔物や寄生虫の事を急いで報告しに戻った結果、
「なんと!?そんな危険な存在が!?」
「い、今すぐ対応を相談してきます!!」
「できればお話を聞かせていただきたいのでご同行お願いできますか!」
「ああ。分かったから落ち着いてくれ。今回の件は俺もかなり危険視してるからな。マズいことになる前に収束させたい」
早速衛兵たちが大慌て。対応の協議やら対策の検討などであちこち大騒ぎとなった。
それによって住民にもそれの情報が流れたのか、あちこちがかなり騒がしくなり始める。ただ俺たちは住民に何か聞かれるよりも前にまとめ役と話をした方が良いだろうと考えて進もうとしたのだが、
「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ん~?危ないな。何のつもりだ?」
目がガンギマった奴が現れた。この目は、復讐心に火がついているやつの目だな。かなり強い恨みとかがないとできない目だぞ。
そして当然そんな目をしているだけではなく、攻撃もしてきた。短剣で腹部を突き刺そうとしてきやがったんだが、さすがにそこは俺の勇者パワーで回避させてもらったぞ!(ただ警戒してたから簡単によけられただけ)。
もちろんこれは人気のないところでやるものではなく公衆の面前でやってきたものだから、
「キャアアアァァァァァ!!!!????」
「あ、あいつ、何をやっているんだ!」
「誰か止めろ!勇者様をお守りするんだ!!」
一般人が大騒ぎしている。ただでさえ寄生虫の話で騒いでたのにこの話でも騒いでいるものだから遠くの方は情報が錯綜して大変なことになってそうだな。もしかしたら、俺が寄生虫に乗っとられて暴れているなんて言う話になっている可能性すらあるぞ。
ただそうなっていたとしても今はそれに対応している暇はない。
まずは目の前のこいつをどうにかしなければ。
「なんでわざわざ俺に攻撃を?勇者に勝てると思っているのか?」
「うるさいうるさいうるさいるさい!お前のせいだ!お前のせいでこうなったんだ!!」
「こうなったって、どうなったんだよ。何の事を言っているんだ?」
「お前が見つけなければ見つからなかったのに!邪魔しやがってぇぇぇ!!!」
何の話かはいまだに掴めないが、俺が何かを見つけてしまったことが問題らしい。ただ、言っていることに関しては頭が痛いけどな。見つけなければ見つからない、とかそりゃそうだろって話だぞ。
ただここまでの叫びを聞く限り、こいつは追い込まれている様子が見て取れるものの自信なんかは全く感じられない。
となると、魔族関連ではない可能性が高いか。魔族が絡んでいるなら、この間の村人のように俺には傷つけることができないとかほざくだろうからな。
「事情はよく分からないが、さすがに暴れまわられても面倒だ。おとなしくしてもらうぞ…………お前ら。とどめは刺すなよ」
「「「「………了解しました」」」」
念のためパーティーメンバーに忠告したんだが、ものすごく嫌そうな返事が返ってきた。不承不承って感じだな。そこまでして手加減をすることが嫌なのか。
こいつから情報を抜き出すことは今回の場合大切だと思うんだけどなぁ。相変わらず人間嫌いをこじらせすぎてて頭が痛いな。
ただ、承諾してくれたのならそれでいい。不満があったとしても、とりあえず今は目の前の相手を無力化することが先決。
チオシアが背後に回り込んで眠り薬のような何かを首へと突き刺せば、
「…………落ちた、か」
「キヒッ!楽な仕事だぜ」
その意識はすぐに落ちた。意外と簡単だったな。さすがに睡眠薬に対抗できるような手段は持っていなかったか。
バジリスクはそれより強い薬を使われても耐えてたんだぞ?
「そこの衛兵。こいつを回収してもらっても良いか?」




