19.統率がとれている?
パーティーメンバーが全員かなりのけがをしていた翌日。あそこまでのけがをするなんていったい何があったのかと戦々恐々としていたわけだが、結局その理由は分からないまま。
ただ、全く分からないわけではなく、
「な、なぁ。聞いたか?あの『黒豹』が血まみれの状態で見つかったって」
「聞いた。しかも、『薔薇騎士』もらしいぞ。俺、あの人のファンだったんだけどなぁ」
「おいおい。犯罪者のファンになってんじゃねぇよ…………確かにきれいだったけどな。ただ俺は『女王アリ』の方が好きだったが」
「う、うわぁ。お前の趣味なかなか終わってるな。ただ、その『女王アリ』もかなりひどい状態で発見されてなかったか?一気に重大犯罪者が処分されたよな」
聞こえてくる人々の声。そこから俺はこの周辺にいる犯罪者が大勢ケガをした状態で発見されたことを知った。
こうなれば俺だって気づくんだ。この頼れるパーティーメンバーたちが、どうしてあそこまでケガをしていたのかと言うこともな。こんなところのとはいえ、重大犯罪者を何人も相手していればケガをすることも仕方がないだろう。
逆に俺としては、良くあのくらいのケガで済んだものだと思うくらいだ。おそらくそういう連中の中には、聖女のアクアの回復では対応できないような毒とか使ってくる場合もあるだろうし。
そういうことを考えれば、何か武器に変な効果を込められていた可能性もあったわけだし回復を即座に選択しなかったことも納得できる。
本人たちからは何も聞いていないから確定したわけではないが、俺の考えはかなり事実に近いものなのではないだろうか。
「まさかあんなところで邪魔が入るとは思わんかったのぅ」
「全くです。あのまま行けば私の勝利は間違いなかったというのに」
「ほぅ?よくそんなことが言えたものだ。俺はもう少しでお前の首なんて取れたんだがな…………あの雑魚どもは本当に邪魔だった」
「…………群れるだけで強くない雑魚ばかり」
「キヒッ!それはあいつらに言ってんのか、それともこっちに言ってんのか」
俺が話を聞いていないからそうしたことは口にしないし、仲間たちも特に何も言わない。だからそうした犯罪者を倒したのは誰かと言うことはハッキリわかっていないわけだが、視線などの集まり方とその視線に含まれる感情を考えると俺たちがやったと確信している人間が多そうだな。どこか感謝や尊敬すら感じる視線もあるような気がする。
俺としては、勇者パーティーとしてアピール力も必要だしこういう時にやったことは素直にやったと誇ってもいいと思うんだけどな。俺の仲間はなんと奥ゆかしい奴らばかりなのか。
感動できる部分ではあるが、いつまでもそうして村人の話へと耳を傾けているわけにもいかない。
それなりの速度で歩行もしていたからすでに居住区画の端に近づいてしまっていて、ここから先に進むともう外に出てしまうことになる。もちろん、魔物も大量にいるような場所になっているぞ。
「それじゃあ、機能説明したように何体か魔物の情報は効いたから共有しておくぞ。特定の個体に非常に困っているという話ではないらしいからすべてを討伐するつもりはないし、5体くらい会えたらちょうどいいくらいの想定をしている」
「ふむ。そういうことなら、一通り集めた情報の中にある生息地域を回ってみるという考えで良いかの?」
「ああ。おそらくそれで問題ないはずだ。生息域だからって、ずっとそこにいるとも限らないからな。遭遇する確率もほどほどだろう」
少し通常よりも力がる魔物を間引いて行けば十分と言うのが俺の考えだ。1体非常に強い個体がいる場合は兎も角、数体がパワーバランスをある程度保っている状態だというのであれば削りすぎるのも良くないからな。最悪、上が完全に居なくなってしまうことで抑えが聞かなくなり急に強い個体が台頭してくる可能性だって出てきてしまうんだ。そうなると非常に面倒くさい。
そこそこ強い魔物が数体いるというより、バジリスクやこの間のスライムみたいなものがいる方がよっぽど危険だからな。
ということで、念入りに殲滅をするというわけではなく軽く間引く程度のつもりで片づけていく。そういうつもりで俺の聞いた情報を仲間たちにも共有した。
だから軽い物で終わるはずだったんだが、
「なぁ。あそこにいるのって、俺の見間違え出なければ強い個体だよな?」
「そうですね。上位主です」
「Cランク相当だろうな」
「しかも、結構数がいないか?」
「そうじゃな。種類も豊富そうじゃ」
「…………時間がかかりそう」
俺たちが足を運んでみたところ、そこで見たのはかなりの種類の魔物の上位主たち、つまり俺が聞いていた魔物達が集まっている様子だった。
加えて、それだけの種類と数が集まっているのにもかかわらず、どこにも争うような気配がない。
魔物なんて言うくくりにされていても違う生物であるし、本来魔物同士必ずしも協力的と言うわけではない。どちらかと言えば魔物同士手を取り合うことの方が稀で、争うことが圧倒的に多いんだ。どちらかが食われ、どちらかが食らうまでその戦いは終わらないものだ。
だというのに争う様子が全くなく集まってる今の状況は、明らかにおかしい。
ただそれはおかしい事ではあってもあり得ないことではない。
いくつか考えられるとすれば、
「考えたくはないが、あれをすべてまとめられる上位主の魔物がいる、とかいう線が考えられるよな」
「もしくはすべてを操る寄生虫とかの類がいたりとかなぁ~。キヒヒッ!!」
楽な仕事だと思っていたはずだっていうのに、なんだか面倒な匂いがしてきたぞぉ。
とはいえ、そんな危険な状態勇者として見過ごすわけにもいかないよな。放っておいたら人間に被害が出かねない。それこそ被害が出るだけならまだいいが、寄生虫とかのタイプだった場合人間が寄生されて周辺の人類はすべて寄生虫の制御下に……なんて未来も怒ってしまう可能性だってある。放置するなんてありえない。
「最初からかなりヘビーな内容になりそうだが、仕事を始めるぞ」
「かしこまりました。まずはどうされますか?」
「ふむ。勇者様の意見が求められておるところで悪いんじゃが、提案じゃ。わしの幻覚をまず使ってみて、向こうがどの程度統率が取れているのか確認してみるのは同化のぅ?寄生虫タイプであるならば誰の視界を信じればいいのかわからなくなり混乱するはずだし、逆に何か1体統率を取る個体がおるのならばそれの指揮の元混乱を起こさずにある程度とりみだすだけでおさまるはずじゃ」
「なるほど。採用」
俺は短く答えて、賢者のアンミの提案を受け入れることにした。俺も何か考えていたわけではないし、こうして意見を出してくれたのならそれに乗っかることは何も悪い事じゃないだろう。それに、アンミの方が良い作戦を思いついてくれることが多いからな…………倫理観のない提案をすることも多いのは玉に瑕だが。
とりあえず俺が受け入れたことによってアンミは魔法を発動させるわけで、周囲に幻覚が現れ始める。
とは言っても俺たちに視える幻覚はすべてではなく、特定の個体にしか見えない幻覚なんかも多用しているようだ。
数体の魔物はしきりに自分の目の前に腕を振っているし、周囲をしきりに見回しているものもいる。明らかに反応が違うな。
「…………ふむ。混乱は収まらんのぅ」
「だな。となると慎重な個体がボスなのか、それとも寄生虫かの2択くらいに絞っても良いか」
「そうじゃな。他の可能性も考えられんことはないが、今はそれでいいじゃろう」
寄生虫タイプとなると、人間も操られかねない危険なパターンだ。絶対に殲滅させることが確定だな。
周辺の逃げ道をふさいで、できるだけ多く潰すことに使用。
「準備を始めるぞ。アンミは幻覚を使って魔物が逃げないようにしておいてくれ」
「任されたわい」




