17.人の事を考えられる優しい仲間
「勇者様!これも持ってってくれ!」
「これもどうぞぉ!」
「勇者様!こちらもお持ちください!きっと役立ちますよぉ!」
「おお!ありがとう!おかげで頑張れる!!…………ただ、無理はしないでくれよ?お前たちを苦しませたら、勇者失格だからな!」
「勇者様。なんてお優しい」
「さすが勇者様だぁ」
「俺、勇者様みたいになりたい!!」
前回の絶妙に俺たちがいることを喜べない人々がいた村から一転。今いる場所で、俺たちは盛大な歓迎を受けていた。
ここは賢者のアンミが調べて長期保存に使える食物などがあるからと言う理由で経由地店に入れた場所なんだが、買い物すると皆おまけをつけてくれたり近くの店の人もプレゼントをくれたりするんだ。おかげでかなり困っているな。嬉しい悲鳴が出そうだ。
ただ、俺たちがどれだけそんな荷物をもらっても、
「クーロリード。大丈夫か?かなり多いが」
「問題ない。この程度でどうにかなるほどやわな鍛え方はしていない」
「そ、そうか。無理はしないでくれよ?」
重戦士のクーロリードがほとんどの荷物を受け持ちそれを抱えたまま歩いている。本当に、ビックリするほどの怪力と安定感だ。ここまで運んできた普段使いの物などの荷物もあるし、どう考えたって重いと思うんだけどな。素直に感心するぞ。
そうしてクーロリードのお圧倒的な力のお陰でどうにか貰い物もさばいて行ける俺たち。
そうして前回の村などとは比べ物にならないほどの歓迎を受けた俺たちは少しの疲労と共に宿までたどり着き、
「「「「チッ!!!」」」」
それはそれは盛大な、いつも以上の舌打ちが部屋には響くこととなった。皆人に囲まれ過ぎてかなりストレスが溜まっていたようである。
これは休ませておいた方がよさそうだな。
ここは人間嫌いだけで集まっていた方が仲間との共感や安心感も生まれより良い休息ができるだろうし、俺は少し席を外させてもらうとしよう。
俺は逆に愚痴を聞かされてる方が困るからな。
ということで、
「じゃあ、お前たちは部屋でゆっくりしておいてくれ。俺は少し外で困りごとがないか確認したりとかまとめ役への挨拶とかしておくから」
「では、一緒に行くとしようかのぅ」
「お供いたします」
「…………準備万端」
いや、ついてこようとしてんじゃねぇよおおおぉぉぉぉぉ!!!!
お前ら、余計にストレスをために行ってどうするんだよ!馬鹿か?馬鹿なのか?この後帰ってきた時に今以上の舌打ちをすることになるだけなんだぞ?ついて来るにしてももうちょっと心の安静を取り戻してからにしろよたわけ共ぉぉぉ!!!!
「無理しなくていいんだぞ?さすがに長距離歩いてきた後だし疲れただろ?」
「俺は大丈夫だ。体力で負けるつもりはない」
「私も構いません。ある程度までの疲労であれば魔法でいくらでも回復できますから。最悪、足を切って治せば全部解決しますし」
「キヒッ!1番身軽にやらせてもらってるから問題ねぇよ」
どうにかこいつらを残しておこうと思ったんだが、誰1人として残る気はないらしい。本当に、どういうつもりなんだこいつらは。俺を1人で行動させてくれよ。
もしかして、俺が内通者にまた攻撃されることを警戒していたりするのか?前からずっとついては来ていたが、今回はそういう理由もあるのかもしれない。絶対建前だとは思うが、道中もそういうことを話していたみたいだったからな。
となると、断りきることは難しいかぁ。ただここで今行くとその後が大変そうだし、一旦大人しく待つことにするか。こいつらの愚痴を聞き流しながらリラックスして待つとしよう。俺、いつか無の境地に到達できるんじゃないだろうか。
と、思っていたのだが、
「俺は大丈夫だが、アンミは危ないんじゃないか?あまり体力はないようだし、休んでおけばいいだろう」
「ほぅ?この程度で儂が応えるとでも?おかしな話じゃな。それよりも、アクアの方が心配じゃな。足を切るなんて言う最悪を想定しなければならないような状態であるのなら行かぬ方が良いじゃろう。そんなところで無駄にリソースを削る必要もあるまいて」
「いえいえ。あくまでもそれほどの覚悟で勇者様について行くというただの物の例えですので。冗談を本気に取らないでください。それに、私よりもチオシアの方が…………」
なんかお互いの妨害が始まった。皆自分は疲れていないと言い張ると同時に、他のやつは疲れているからやめた方が良いかもしれないとか言い出すんだ。最終的に順番が回ってきたシアニがクーロリードの疲労を言及しなきゃいけなくてだいぶ大変そうだったな。どう考えてもクーロリードは1番疲れてなさそうだし。あれだけの大荷物を余裕そうに抱えられるんだが、さすがに荒を探すのは難しいだろうなぁ。
シアニ、よく頑張ったと思うぞ。
しかし、こいつら本当に仲間内だけでは絆があるよな。
まさか皆それぞれを心配する気持ちがあるとは予想外だった。人間嫌いでも人間嫌い通しでこれだけ仲良くなれるんだから、本当は嫌な人間ばかりではないということに気づいてほしい物なんだが。
きっとこの先、こいつらには同じように心配できる人間が増えていってくれるはずだ。
「いやいや。わしは大丈夫じゃからそれよりも…………(なんじゃこいつら。おとなしく儂に譲れば良い物を。これだから己の分と言うものをわきまえん者どもは)」
「いえいえ。私は何も問題ありませんよ。やはりここは…………(邪魔ですね。処分しましょうか?勇者様の隣に並べるのは私だけなんですよ?それ以外など必要ないことくらい馬鹿でもわかるでしょう?)」
「いや。俺に問題などない。それで言うならば…………(愚か者たちめ。いつからお前たちが勇者様にふさわしくなった?もう少し勇者魔の役に立てるようになってからそういうことは言うんだな)」
…………ただ、仲良きことは良きことなわけだが、いくらなんでも長すぎないか?愚痴を聞いているよりは何倍もましだが、譲り合いの時間が長すぎだろ。逆に仲が悪いんじゃないかと思うほどだぞ?全員で行くことにすればいいだろうに。
「…………長く休めそうだな」
ここまで安全な場所で休めるのなんて久しぶりだ。ゆっくりさせてもらうことにしよう。どうせまだまだこの仲間たちの話は続くんだろうし、ちょっと寝てみてもいいかもしれない。
こいつらは疲れてないって言ってるが、俺はちょっと歩き疲れたのかもしれない。少しまぶたが重く………。
「眠られたか」
「おや。本当ですね。いつまでも眺めていたい寝顔です」
「…………起きてても寝てても完璧」
「しかし、それはそうとお前たち、何のつもりじゃ?よくもぬけぬけとあんなことを勇者様に言えた物じゃな」
「キヒッ!それはこっちのセリフだぜぇ。頭脳担当とか言っておいて、いまだに魔族の場所をお特定できてないじゃないか。使えない頭を使おうとしてんじゃねぇ」
「それを言ってしまえば、チオシアもアンミも役に立てていないだろう。この間の村の夜の事をもう忘れたのか?勇者様があれだけ苦労しておられたというのに2人だけ眠りこけおって。良い身分だな」
「そういうことを言うのでしたら、クーロリードも他の皆さんも………」
「…………ふぅん?やるか?」
「構いませんよ。表に出てください」
「表に出たら勇者様に迷惑がかかるだろう。どこから人目を避けられるところにすべきだ…………これだから考えの足りない奴は」
「…………あれ?あいつらどこ行った?」




