16.次はないように
「勇者様。ありがとうございました………」
スライムを弱体化させてぶっ飛ばし、ついでに魔族とつながっていた村人を処分した翌日。
村人に手を出してしまった以上あまり居心地も良くないということで早朝に去らせてもらうことにした。幸い昨日は宴などを開くことは控えさせた関係上かなり早く眠れたから、この朝早い出発に苦しむことはない。
俺はどこか思うところがありそうな村長に頭を下げられ、村から出ていく。
そして、
「勇者様ぁぁぁ!!!!」
「また来てくださぁぁぁぁい!!!!!」
「応援してまぁぁす!!!」
「絶対魔王を倒してきてくださいねぇぇ!!!!」
その後かけられる、大勢の村人たちの明るい声。村長のものとは違い、特に思うところなんてなさそうな声だ。
昨日もそうだったが、やはり村人の俺たちに対する反応は2つに分かれているんだ。村長のように感謝の気持ちと村人に手を出された耐えがたい想いを持っている村人もいれば、感謝しかしていないような村人もいる。
「複雑な人間関係の村だったな」
「そうじゃのぅ…………ちなみに気づいておるかもしれんが、おそらく村長やほかの村人数人も魔族とつながっておったぞ」
「あぁ~……やっぱりそうか」
村から出てしばらく歩いていたところ、賢者のアンミから核心的な事実が告げられた。俺も予想はしていたんだが、確証は持てていなかった。しかし、アンミが言うんだから間違いはないだろう。
そんなに内通者がいるなら、襲ってくる村人が1人だけだったことを喜ぶべきなんだろうか?
俺はどう思えばいいのか分からないんだが、アンミはアンミで考えることがあるようで、
「内通者はできるだけ消した方が良いのではないか?」
いや、それはお前が始末をしたいだけだろうが!人間をできるだけ排除したいって気持ちが見え見えだぞ!?
確かに内通者を排除と言う理屈は分かるんだが、アンミを含めた俺のパーティーメンバーが言うと絶対にそれだけが理由じゃないことが容易に予想できるんだよなぁ。
もちろん、その下心があるからと言って意見を否定する理由にはならない。実際に行っている理屈が通っていることも確かだからな。
ただ、
「あんまりやりたくはないな。その場合、明確な根拠が必要だろ?でないと、村人たちは本当に俺たちが片づけた奴らが内通者だったのか疑うはずだ。最悪の場合、俺たちが好き勝手暴れているだけなんていう話が回りかねない。それに、内通者を全員把握できていない可能性がある以上関係のない村人が人質に取られる可能性だってあるんだぞ?」
「ならば、村ごと滅ぼしてしまえばよいではないか。それなりの数の内通者がおるようじゃったし、丸ごと潰せば全部解決するじゃろ?」
「どう考えても問題だらけだろうが。特に、あそこの村が完全につぶれると魔族が拠点として利用しかねないんだぞ?近くに潜んでいる可能性があるっていうのに、使いやすい拠点まで与えるわけにはいかないだろ」
「ふぅむ。それもそうかのぅ?ならば、潰す時にすべて焼き尽くしてしまえばどうじゃ?」
「その炎、管理しきれるのか?近くの森とかに火が燃え広がったら最悪だぞ?」
無理矢理内通者を排除するということはあまりにもリスクが高すぎる。特に、村長も内通している場合村長と言う人間がどれ程村人たちに信頼されているのかによってもその後が変わってくるんだよな。村長の信頼がある場合、俺たちがいくら村長が内通者だと主張したところで納得はしてもらえないだろう。
…………俺に武器を向けた村人の事を考えると、必ずしも村長だからと言って信頼されているかと問われると微妙なところはあるが。あいつ、村長の事を滅茶苦茶嫌ってそうだったし。
「とりあえず今はあの村の内通者に関しては放置しておこう」
「勇者様がそれでいいのなら従うのじゃ」
言いたいことはあるようだが、それを飲み込んでアンミは納得してくれたらしい。人を排除できないからかかなり残念そうな顔はしているけどな。
しかし、本当に今回はひどい流れが続きすぎだろ!実験の結果とんでもない化け物に人が変えられていたり、それに人が関わっていたり。しかも魔族の内通者がいたかと思えば人間関係が最悪。もうかなり救いようのない人間の汚い部分が見えてきたぞ?今回でさらにパーティーメンバーの人間に対する評価は下がってしまったような気がする。なんでこうも悪い事ばっかり起きるんだよ!ここで手を組んで仲良しこよししないと本当に滅んでしまうんだぞ!?
人間、まだまだやれるだろ!昔は魔王討伐のためにもっと人類は一丸となっていたなんて資料も残っているんだからな!人間やろうと思えばやれるんだし、やれよ!
「…………次の場所では変なことが起きないことを祈るばかりだ」
「さてのぅ。こうも終わりが見えてくると、あきらめて好き放題してしまう愚か者が出てくるのも仕方のない事じゃからのぅ」
アンミは何か言っているが、俺は諦めない!俺は人類を守るんだ!キラキラ輝く心を持った素晴らしい人間たちを守って見せるんだ!!
ヒソヒソ
「それで、あの村はどうなんじゃ?」
「…………崩壊も時間の問題」
「キヒッ!勇者様への態度の差で村人たちに亀裂ができてたからな。魔族の内通者が他にいるだろうって疑うやつもいるだろうし…………発覚も時間問題だろう。もちろん、それで起きた争いで村が崩壊するのもなぁ」
「崩壊で言えば、チオシアは火薬を渡していなかったか?あれはどういうつもりなんだ?」
「キヒッ!あれか?もちろん争いを激しくするって意味もあるが、それ以上に勇者様が懸念してたことが起きないようにするって意味もあるなぁ」
「あの爆発で家屋なども吹き飛ばして、魔族が拠点に使えないようにするわけですか。上手くいくと良いですけどね」
「ん?お前たち、何かあったか?」
「いえ。特に問題はございません。先ほどの村でのようなことがないよう、いかにして勇者様をお守りするか案を出し合っていたのです」
「うむ。あの時に勇者様が傷ついてしまったのはわしらのミスじゃからな。対策をせねばならん」
「そ、そうなのか?けがをしたのは俺だから俺の責任だと思うんだが…………とりあえず、ありがとな。その心遣いには感謝するぜ」
いや~ヒソヒソ何を話しているのかと思えば、そんなことだったとは!なんて俺は良い仲間を持ったんだろうな。けがをしたことは俺が気を抜いてたからだっていうのに、どう防止すればいいか考えてくれていたなんて驚きだ。
…………な~んて、思えるわけないだろうがぁぁぁ!!!絶対嘘だよな?そんな言葉信じられるわけないだろ!嘘にしてももう少しましなことを言えって話だぞ?
どうせ、俺の暗殺計画とか話し合っていたんだろうな。あいつらが集まって俺に聞こえないように話すなんて、絶対にろくな事じゃない。
今後はパーティーメンバーだけじゃなく村の人間にも気をつけないといけないなんて、嫌な話だな。
そんな風に思っていたところ、突如としいて遠くからドォォォンッ!という爆発音が響いて来る。かなりの音量と共にかなり周囲の木々も揺れたな。
「何だ?今のは、爆発だよな?」
「ああ。そうだな。きっと、さっきの村に残しておいた火薬を使ったんだろう。スライムがまた来たときのためにって渡しておいたんだ。キヒヒッ!」
「ああ。そうなのか。俺もそこまでは考えてなかったのに。わざわざありがとな」
まさか斥候のチオシアがそこまで考えてくれていたなんて。
絶対こいつ、態度と口調さえ改められたらもっと人気出るだろ。こんな優しい奴が人気を出さないはずがない!




