15.処分します
「くそっ!なんでだよ!早く助けに来いよ!俺がなんでこんな目に合わなきゃいけねぇんだよ!!」
「キヒッ!うるせぇな。捨て駒の癖によぉ」
「す、捨て駒!?そんなわけがないだろ!俺は役に立つんだ!捨て駒になんてなるはずがない!!」
俺に武器を向けてきた村人は、激しい痛みに襲われ混乱している様子。どうやら、チオシアに傷をつけられたことが信じられないみたいだな。魔族に守ってもらえると思っていたようだし、守ってもらえるどころかその姿を現してすらいないことが信じられないんだろう。
俺も現状を考えるとチオシアと同じく捨て駒にされたとしか思えないんだが、さすがに本人としてはそんなことは思いたくないのだろう。否定しようとかなり騒いでいる。
ただ、残念ながらいくら騒いだところで魔族は助けになんて来ない。
チオシアが次に短剣を振るとまた大きな傷ができ、村人にさらなる痛みを与える。
「い、痛い!や、やめろぉ!俺にこんなことをしてただで済むと思ってるのかぁ!!」
「キヒッ!思ってるからやってんだよ。それより、くだらない事ばかり言ってるとさらに傷が増えるぞ?魔族の情報を流せば少しくらい傷を治してやってもいいかも知れないが?…………どうする?キヒヒヒヒッ!」
「ヒ、ヒィ!?や、やめろぉ!…………分かった!話す!話すから!もうやめてくれ!!」
まさかの拷問に近いことするという明らかに勇者パーティーとしてはやっちゃいけないことを公衆の面前でやってのけたチオシアだが、正直助かると言えば助かる。魔族の情報は欲しい物だからな。
近くに潜んでいるのならいつ接触するかも分からないし、戦うことになった時のためにも情報はあればあるだけいい。あればあるほど、勝つ可能性も生き残る可能性も上がるんだから。
村人はチオシアに傷を2つ付けられただけであっさり陥落してしまったんだが、そこから出てくる魔族の情報は意外と悪くないものとなっている。
例えば、
「あ、あいつは、見えない刃を作ることができるんだ!だから、最強なんだよ!!」
こんなこととか。
視えない刃と言ってもいろんなパターンがあるが、とりあえず不可視の攻撃に警戒する必要があると分かっただけでも大きい。知らないとそれで1人くらいパーティーメンバーに欠員が出てもおかしくはないからな。
他にも魔族の体格とか肉体の力とか使える魔法とか、そうしたことを聞いていった結果、
「それなりに情報は集まったな」
「キヒッ!厄介そうな敵だぜぇ」
「な、なぁ!良いだろ?もう俺は知ってること全部話したぞ!早く傷を治してくれ!!」
俺たちはかなり多くの重要そうな情報を得ることができた、村人は約束通り傷を治してほしいと懇願し始める。勇者パーティーとしては他の人間の目がある場所で嘘をつく訳にもいかないし、治してやる必要はあるだろう。
これだけ魔族の情報をくれたわけだし、それくらいの対価は払ってやってもいいよな。
ただ、
「では、少し治してあげますね」
「お、おおっ!やっとか!遅いんだよ!もっと早く治せよ!痛かっただろうが!…………というか、全部治りきってないぞ!ちゃんと治せよ!!!」
「キヒッ!最初から全部治すとは言ってないんだがな。それに、これからいなくなる人間にそんなリソースを割くのは持ったないないだろ?」
「へ?」
「次に生まれ治してきたら、最初から魔族にでもなったらどうだぁ?」
約束通り聖女のアクアが少しだけ傷を治してやった後、チオシアが容赦なくその首をはねる。さすがに人の目があるからか、あまり苦しませないように一振りで終わらせたな。
珍しく見ることができた慈悲、と言ってもいいのではないだろうか。
「あ、あぁ。ほ、本当に殺してしまわれたのですか……」
「キヒッ!当たり前だぁ。魔族とつながりのある人間なんて生かしておくわけにはいかないだろぉ?」
「しかし、まだ情報を抜き取れたかもしれませんし!」
「ほぅ?じゃあ、あんたが拷問でもやってみるのか?どうやってそこから出てくる情報が嘘ではないか判断する?情報を引き出せても、それが全嘘なら意味なんてないんだぞ?」
「うっ、そ、それは………」
村長はやはりまだ命を奪っていしまったことが受け入れられないようだ。そこまでする必要が本当にあったのだろうかって言いたいんだろうな。ただ、俺が何か言う前にチオシアに黙らされてしまっているが。
さすがに俺も、魔族とつながっている人間は無視しておけないんだよなぁ。最悪、村ごと人質にとって俺を脅してきたりする可能性もあったわけだし。それをされると俺の心が痛むと同時に、名声にも傷がついて他の場所で協力を得にくくもなってしまう。長期的な視点から考えて、デメリットになる要素はできるだけ早めに消しておかなきゃいけないんだ。俺が人類のために戦うためにもな!!
ただ代わりに、
「そんな、あいつが…………」
「ずっと一緒に生きていくんだと思ってたのにな」
「いくらなんでもこれは………いや、でも、魔族とつながってたなら仕方がないのか?」
この村での俺たちに対する評価は少し低下してしまう。これは致し方ない事だな。いくら魔族とつながっていると分かったとはいえ、一緒に過ごしてきた仲間(?)の死を見て、手を下した俺たちの事を素直に受け入れられないなんて当たり前のことだ。
幾らそれが自分たちにとって、そして人類にとって必要であると分かり切ったことだとしても、知り合いや友人、まして家族なのであればその命を奪われることは苦しいし悲しい事だろう。
俺だってそれは理解しているから、恨みくらい甘んじて受け入れよう。
「………勇者様!ありがとうごじます!」
「俺、あいつの事昔から怪しいと思ってたんです!」
「私、あいつから嫌がらせを受けてて。まさか、魔族の手先だなんて思いませんでした!倒してくれてありがとうございます!!」
…………受け入れようと思ったんだが、何だこれは!?俺、なんで感謝されてるんだ!?もちろん村長は違うし全員ではないものの、かなりの村人から感謝の言葉を述べられているんだが?
そこまであの村人が嫌われていたとは。びっくりだな。
ただ、こうして感謝されても1人としてチオシアの方には感謝の言葉をかけに行かないところは気になるところだ。恐らく村人に手を下した張本人がチオシアだからと言う理由だけではないだろう。
絶対、さっきまでの様子を見てチオシアがヤバい奴だって理解したんだろうな。強いし魔族の手先を倒したことは間違いないんだが、明らかに言動がマズすぎる。チオシア、色々と損をするところが多すぎるよな~。やっぱりもう少し普段の振る舞いとか教えておくべきか?
やっぱりグループで人気が偏ると不和のもとになりかねないからな!
「さて。面倒な奴らは勇者様が引き受けてくれているし、俺は罠の回収でもするか」
「私も手伝います……残っている罠はどういうものなんですか?」
「猛毒と、前の村で見つけたまだ息のあった魔物だな。溶かされている間アクアに回復させ続ければ命が尽きる前にスライムの核まで届くんじゃないかと思ってな」
「なるほど。ただそれなら、やはり人間を飲み込ませた方が良かったのでは?持ち運べるような魔物より、人間の方が図体が大きい分溶かされて命を奪われるまでの時間も長くなるでしょう?」
「いや、人間は使えないから無しだ。あいつら、痛いと暴れまわるだけで攻撃なんてあんまりしないからな」




