11.内通者がいる?
「…………ということになります。あの村の惨状は、こうして生まれてしまったのです」
「なるほどな。かなり状況がつかめてきた。語ってもらえたこと、感謝する」
約2時間程度。俺は村長の話をぶっ通しで聞かされることになった。
しかも、なかなかハードで重めの内容なやつをな。特に村長の周辺で起きた事柄に関しては具体的でものすごくドロドロしたことが非常に分かりやすく伝わって来たぞ。
とりあえずそういう村長の身近な部分などの小さい要素は排除して簡潔にまとめえておこう。
まず、実験を行なったのは帝国であることは間違いないらしい。周囲から少し浮いていて邪険にされているような、立場が最低変の村を実験場所には選んだそうだ。最初はその周辺で魔物の改造をしているだけだったが、人類が劣勢になっていくことで次第に大きな結果をもとめられるようになり焦った結果人にまで手を出してしまったそうだ。
ただ、それらの実験体は厳重に管理されていたし万が一外に出ることがあれば即座に排除のための部隊が動いたらしい。ここが帝国領の間は。
残念ながら帝国がこの土地から手を放してしまったため実験施設は放置され、たとえ脱走する個体が現れても何も対策は講じられなかった。もちろん、魔物はやはり性能がとがりすぎていてすぐに自滅したし大きく被害が広がるということはなかったそうだが。
そこまで聞くとあの状況にも納得はできるんだが、
「色々と疑問は残るな。放置されてからそれなりに時間が経っているはずだろう?なぜまだ生き続けることができているんだ?食料なんてないはずだし」
「それはそうですが、共食いをしていた可能性が考えられます」
「あの性能でか?共食いをするにしてもほとんど自滅するだろう」
「それは…………確かに不自然ですね。餌を供給するシステムが作られていたとしても、ここまでそれが稼働し続けているというのは明らかにおかしい。しかしほとんどの人間、それこそ私たちなどには実験施設の正確な場所などは伝えられていないのです。そもそもこの周辺にあの村を周辺を安全に行動できる人間などいませんし。怪しい人影も見たことはありませんから、誰かが餌を供給し続けたという線は考えにくいように思うのですが」
「それが魔族でも、か?」
「っ!?…………その可能性は捨てきれません。しかしやはり、魔族がどうやってその可能性を知ったのかは」
魔族ならばこの周辺でも問題なく活動できるし、人に発見されずに行動することも可能。あいつら、本当に人間とのスペックの差が大きいからな。人類が敗北することも納得できるくらいには強いしいろいろできるんだ。
だがやはり村長が言うようにどこから情報を得てきたのかと言うことは気になるわけだが、
「おそらく内通者がどこかにいるんじゃろう。儂らの行動も読まれていたようじゃし、人類側の各所に内通者がいるとしても何らおかしな話ではないわい」
ここまで黙っていた賢者のアンミが自身の考えを口にした。
アンミが言うように実験体の解放タイミングが俺たちの通るタイミングと合致していたし、内通者とまではいわずとも情報が筒抜けになっていた可能性が高いことは間違いない。そしてもし内通者がいたから俺たちの行動がバレたというのであれば、他にも大量の内通者がいて魔族がそれを活用しているなんてことは十分にあり得る。
人類は追い詰められているし、魔族から命を保証してもらうために情報を流すやつが出てくることなんていうことは考えられるんだよな。それを魔族が守ってくれる可能性が限りなく0に近いとしても、だ。
生き残れるかもしれないのならそれに賭けたくなるものが人と言うものだろう。俺たちという希望を知ることはできたけど、目の前で戦ったわけではないから正確な強さも分からなかっただろうしな。
「内通者か。それが十分考えられてしまうところが嫌なところだな」
「ですなぁ。管理能力不足でしかないのですが、私の方でも村の皆が全員信用できるかと問われますと自信は持てませんし」
何とも暗い雰囲気となってしまう。
それと同時に思うことは1つだ。これに関しては話を聞いている時からずっとそうだったんだが、
人類、本当にマズいぞ!?今のところかなり愚かな部分が出てきてしまってるぞ!?村長は話に集中してて気づいてなかったみたいだが、パーティーメンバー全員話が長いことにイライラすると同時に人類への敵意がさらに向上してしまうような表情の変化があったからな!?
立場が弱い村があることも、国がそこを救うどころか実験場として危険なことに使うことも、ひっ迫すると結果を求めてくるところも、それで同じ人間に手を出してしまうところも、だいたい全部人類への好感度を下げる要素にしかなってないからな!?俺、少しでも人類への嫌悪感を減らせたらいいなと思って話を聞いたのに、完全に逆効果だったじゃねぇか!
パーティーメンバーの裏切る確率が上昇しただけな気しかしないぞ!?
人類に救いはないのだろうか…………。
「とりあえず事情は分かった。しかしそうなってくると…………俺たちへのさらなる追撃を警戒する必要があるってことか?」
その可能性にも気づいてしまった。
もし俺たちの移動ルートがバレているのだとしたら、先回りしてさらに俺たちをつぶしに来ようとしてくるかもしれない。魔族側がどこまで把握しているのかは分からないが、この村にも内通者が潜んでいるのだとしたらこの村へと攻撃を仕掛けてくる可能性も考えられるんだよな。
もしそれがないとしても、道中の村で、村ごと俺たちを始末しようとしてきたりとか。
なんて思っていたんだが、道中で襲われるかどうかは別として、
「実はこの村の周囲に凶悪な魔物が住み着いてしまっておりまして。魔族もさすがにこの村の周囲では活動しないかと思われるんですよね」
「おっ、そうなのか。それは…………それは倒した方が良いのか?」
凶悪な魔物の存在。それを聞くと、勇者としては討伐したくはなる。今までそういう仕事もたくさんしてきたからな。勇者の仕事の一環みたいなものだ。
ただ、これまでの話を聞くと今回の場合はそれが一概に良い選択だとも思えないんだ。何せ、それのお陰で魔族からの村に対するちょっかいがかけられにくくなってるわけだから。
さすがに魔族が本気でやりたいと思うならそういう厄介な魔物を無理矢理にでも突破して攻撃はしてくると思うが、現状人類を追い込んでる魔族がそこまでしてこっちをつぶしたいと考えるとは思えないんだよな。
だから、魔物がいることが逆にこの村を魔族の攻撃から回避されているという風にも考えられるわけだ。
そんなある意味守り神的な存在である魔物を倒してしまって良い物かと言うのは、少し考えなければいけないことだよな。
「お気遣いいただきありがとうございます。ただ、もし勇者様さえよろしければ討伐の方ぜひともお願いしたく」
「ん?良いのか?実験施設の事を考えると近くに魔族の手が伸びていることは間違いないと思うぞ?」
「そうだとしてもです。最近、どうやら魔物が人の味というものを覚えてしまっているようでして。だんだんと村の近くで目撃されることが増えているのです。それに伴い、被害者の数も増えてしまっている状況でして」
「そうなのか。魔族からは守ってくれても、結局村が壊滅するんじゃ意味ないよな」
村長は現状から考えると討伐した方が良いという意見らしい。
ただ、完全に倒してしまうとやはり不安を俺は感じてしまうため、
「なら、一度痛めつけてこの村に手を出したくなくなるようにする、と言うのはどうだ?」




