58 LLL近衛騎士隊(ファンクラブ)の嫉妬
学園長室を出た後も、疑問は頭の中をグルグル回っていた。
「おい」
俺は自販機一番右上にあった無糖コーヒーのボタンを押すと、ツクヨミトラベラーをかざし、魔力を込める。そして1秒と経たずに課金が終了し、自販機から飲み物が落ちてきた。うむ、現金はまだまだ余裕がある。むしろ私のお小遣いおおすぎぃ……。
「おいっ!」
開けたコーヒーを見て、俺はふと思う。瀧音幸助になっても、癖は抜けないな、と。社会人の時から、何かしらの悩み事があると、カフェイン右手に気分転換を……。
「お前だ、瀧音幸助!」
ん、と声のした方を振り返る。そこにいたのは緑色の髪を横に流し、おでこを空気にさらす男子学生だった。
「どうかしたか?」
彼の顔と、制服の着崩しかたを見るに、モブキャラクターであろう。タイピンを見る限りでは同学年である。
「リュディヴィーヌ様は迷惑しておられる」
彼はいきなりどうしたのだろうか。睨みつけながらそう言われるも、唐突すぎてあっけにとられるしかないのだが。
「一体何の事だ?」
「存在自体だ。つきまとうのはやめた方が良い」
多分、LLLのメンバーなのだろう。
今週に入ってから、こういった輩がとても増えた。直接言ってくるのは彼が初めてだが。
「クラスメート以上の付き合いは無いと思うんだが……」
と言っておくが、もちろん嘘です★
同棲してます! なんて口には出せない。俺が逆の立場だったら羨まし過ぎて嘔吐するかも知れない。
「よく一緒にいるではないか。リュディヴィーヌ様はお優しい方だ。口に出しておらんが、面倒だと思っておられる」
思わず顔をしかめる。
リュディだったらイヤなことははっきりイヤだと言うと思うが……いや、学園のお嬢様リュディは確かに言わないかもしれない。俺からすればボロ出まくりなのだが、なぜか猫かぶりが成功してるんだよなぁ。
「そうですか、善処します」
何に善処するんだろう? 言ってから考えるが、よく分からなかった。
「そうだな。お前とよく一緒にいる聖伊織にも伝えておけ。 ランフランコ・ニェッキがそう言っていたと」
そう言って彼は踵を返す。態度、歩き方、靴などから判断すれば、彼は多分貴族であろう。それにしても。
「あんなこと面と向って言う人いるんだなぁ」
存在自体が迷惑だなんて、それに匹敵する言葉をエロゲ以外では言われたことないぞ? とはいえ面と向って言われてないだけで、実は言われていた可能性はあるし、エロゲではご褒美の可能性がある。
明日から休日だから伊織に会えないんだよな、まあそれはメールで伝えれば良いか。いや、伝えなくても良いような件でもある気がするな。
……いや、一応伝えておこう。ゲーム主人公が嫉妬を受けるシーンはあっただろうか? あったな。ファンクラブがあるヒロインらとつきあい始めれば、そのファンクラブから凄まじい嫉妬を受けてた、なんて文章が10行行かない程度有ったはず。
もしこの世界でファンクラブ持ちのヒロインとつきあい始めたら、嫉妬は非常にやばそうだ。ゲームのようにファンクラブ持ち3ヒロインと付き合ったら、そいつは学園に来られなくなるんじゃなかろうか。
「……そういえばアイツの名前、なんだっけ? 芋虫にいそうな名前だったよな……いやイタリアの料理にありそうな名前だったような?」
この世界の俺はまだ若いはずなんだが、もう物忘れが……いやそんな事は無いと思いたい。
まあ、彼に関してはもう会わないだろうし、気にするだけ無駄か。伊織にはちょっとぶっ飛んだ人がいた程度に伝えておこう。





