37 先輩への相談
「ふむ、ストール以外に何を持つか、か」
水守先輩は汗で濡れた髪を払うと、手ぬぐいを取りながらふーむふむ言ってる。
紫苑色の稽古着を纏った先輩は、肩まで伸びた髪をポニーテールにしており、すらりとしたうなじをさらしていた。白くみずみずしいそのうなじは、まるで何かしらの魔法を放っているかのように蠱惑的で、どうしても視線をそらせない。そらそうと思ってもそらせない。ふれたい。
「非常に難しい問題だな……」
「非常に難しい問題です」
何でこんなに綺麗なのに水守先輩のファンクラブはないんだろう。学園内のいろんな人物に聞いたところ、存在は発見できなかった。代わりに現在あるファンクラブは三つ。
生徒会長の親衛隊MMMと現聖女の聖騎士隊SSS。そして新たに発足されたリュディの近衛騎士隊LLL。
いっその事、俺が作ってしまおうか。先例にならってYYYなんてどうだろうか。会員番号0番とかあこがれる。
「選ぶ武器によっては長所を伸ばすことも出来るし、短所を消す事もできるな」
「……実は武器だけでなく、盾を持つのもありかな、なんても考えているんです」
変な妄想をしていたせいで反応が遅れてしまった。
「そうか、自分は盾で身を守ることに注力し、第三の手と第四の手で攻撃する。場合によっては第三の手と第四の手を守りに、まさに鉄壁だな」
ゲームでは弓とかの遠距離武器が装備できないこともあり、一番人気は盾四個持ちの壁役だったしな。しかし今回はゲームではない。装備制限なんて存在しない。自分の弱いところを補うために、弓を持つのも良いだろう。
「私の意見としては、実際に使ってみて使いやすい武器を選ぶことをオススメする」
「やはりそうですか……」
「私の場合は刀術、薙刀術そして少しの弓術を修めているが、幼少期はこれら以外にも色々な物をやらされたよ。一番私の性に合っていたのが薙刀で、一番強かった。モチベーション維持やらでも向き不向きは重要だと思う」
「となると……様々な武器を経験しておいた方が良いって事ですね」
そういうと先輩は頷く。
「そうだな、私はそう思う。ただ経験したら、早めに使用武器を絞った方が良いかもしれない。全てを中途半端に習得してしまうのはもったいない」
器用貧乏より特化が良い、か。確かにその通りだよな。
「となると……まずはやってみますか。しかし、そうなれば何の武器から試していけば良いんだろう?」
オーソドックスに剣か。和風に刀か。リーチを生かした槍か。メイス、斧、弓。
「刀や薙刀であれば私が少し見よう、もっと習いたくなったら道場へ来るといい。そうだな、刀や薙刀は素晴らしい武器でな……他の武器に比べて切れ味は格段に良くてな……魔力のエンチャントもしやすくとてもオススメの武器だ。それにだ、刀は盾を持てなくなるため、小手による防御や回避が必要になるのだが、心眼を覚えており第三の手と第四の手が使える瀧音なら弱点をカバーしつつ刀本来の強さを遺憾なく発揮できると私は思っているのだが……どうだろう!?」
どうだろう!? と手を取って言われても……先輩の刀押しが凄い。まあ、どうせなら先輩やクラリスさんの使える武器からにしようと思っていたから、別にいいんだけど。
「そうですね……刀から試してみようかな?」
「ふふ、いつかそういうと思っていて準備をしていたんだっ!」
そう言ってどこからか木刀を取り出す雪音先輩。と言うか本当にどこから取り出したのだろう?
それにしても嬉しそうな先輩は本当にカワイイよなぁ。今は断らなければならないのが非常に惜しい。
「あの、準備までして貰って非常に嬉しいのですが……今日はこの後学校なので」
先輩はああ、分かってるとばかりに頷く。
「そうだな、では放課後から、と行きたいところだが風紀会があるからな……明日の朝からでどうだろう?」
明日の朝ならばもちろん構わない。
「よろしくお願いします」
と俺がそういうと先輩は何かを思いだしたかのように手を打ち付けた。
「そういえば……以前言っていたことだが、本当に叶いそうだぞ?」
「ええっと何の話でしたっけ?」
YYY発足の話かな? だとしたらちょっと待てよ。水守雪音ファンクラブを作るにあたって、俺の許可を得ていないよな? それは許されざる愚行だ。会員ナンバー0もしくは1番を譲るなら許してやっても構わない。まあ、そんな話なわけないよな。
「ダンジョン講習の件だ。同じパーティを組むコトになりそうだ。もちろんリュディもだ」
へぇ、と頷く。
「毬乃さんがやってくれたんですか?」
「そもそもグループ分けは学園長も一緒になって行うらしくてな。混ぜておいたわ、と言われたよ」
毬乃さんGJ。これで先輩と同じパーティでダンジョンを潜れる。他に加わるパーティメンバーによっては、初回十層も夢ではないな。
「瀧音は……すごく嬉しそうだな?」
「そりゃそうですよ、先輩と一緒ですからね!」
と言うと先輩は笑みを浮かべて頬をかく。
「瀧音は、その、そう言ったことを普通に……いや何でも無い。そろそろ学校へ行こう」
そう言って踵を返した。確かに一度家に戻ってシャワーを浴びる事を考えれば、時間はぎりぎりだ。





