36 戦闘後
目が覚めたときに目の前に居たのはリュディだった。彼女は心配しているような、呆れているような、それでいて少し怒っているような……なんとも言えない珍妙な顔をしていた。
「見慣れない天井だ」
一度でいいから言ってみたかった台詞を言ってみる。
「起きた? 大丈夫?」
「おう、大丈夫だ。それにスマン。心配かけたみたいだな」
「心配ね……それよりも驚いたわ。なにせ貴方の生命線でもあるストールを外したかと思ったら、ボッコボコにされてるんだもの。あなた無意識にストールで防御しようとしてたでしょ。それに筋力強化も悪くて動きも鈍かったわ」
仰るとおり、敗因はストールがないせいである。心眼スキル効果もあって相手の剣技は驚く程見えたし、体もしっかり反応できていた。しかし、とっさに第三の手で防御しようとしていた為、相手からすれば無防備すぎる俺が居たはずだ。
「ただのカカシだったろうなぁ」
「私は貴方がガードしていただろうことは分かっていたわ。ストールがあれば。実際はただのカカシだったけどね」
思わず苦笑する。瀧音幸助はゲームのマジエロでは、意識失うまで酷い負けかたはしないはずだ。
「その後どうなった?」
「あまりにも酷い負けかただったから、皆は非常に心配していたわ。特に里菜さんのうろたえぶりは凄まじかったわね」
いやぁもしかしてその後のイベント進まなかったのか? だったら俺が負けた意味が無いんだが?
「ええと、その後の模擬戦大丈夫だったのか? 特にカトリナなんか」
「あの後里菜ちゃんは伊織君と対戦したんだけど、伊織君が勝ったわ。動きが鈍かったから貴方の試合を引きずったのでしょうね」
一応マジエロの物語通りすすんだか。しかし、罪悪感がひどい。せめて意識があれば罪悪感も薄れたのだろう。それに伊織に負け悔しそうな表情で言う台詞「こ、これで勝ったなんて思わないでよねっ!」を聞けたんだが。
「ああ、そういえば貴方が起きたら謝って欲しいって言われてたわ。必要ないでしょ、と言っておいたケド」
確かに必要ないな。つかあそこまでボロクソにやられて、アナタ弱かった、手加減しなくてゴメンなんて謝られたら心折れそう。
「まあ確かに必要ないな」
と俺が言うとなぜかリュディはじっと俺を見る。
「ねえ、なんで幸助はストールを外したの?」
と、答えにくい質問をしてくる。うまくお茶を濁せれば幸いなのだが。
「んーいやぁ、実は最近スキルを覚えてな……。それが回避系のもので。それを使ってみようと思ったのと、最近ストールに頼りすぎてるから、それなしでもある程度の戦闘力をつけたいなと思ってな」
とっさにしては上手い言い訳が出たな。しかし、彼女はフーンと言いながらジト目だ。明らかに訝しんでる。こういうときは話を変えるに限る。
「そ、そういえば今何時だ?」
「ええ、午後授業が始まって少ししたぐらいよ」
なるほど、だからここにリュディ一人しか居ないわけで……という事はだ。
「スマン、午後授業サボらせたみたいだな」
と言うとリュディは肩をすくめる。
「まあ、別にいいわ。今日ははつみさんの講義に行く予定だったから、後で直接教えてもらえれば良いし。はつみさんに幸助の様子見てくるっていったら、快く送り出してくれたしね。授業も出席したことにしてくれるそうだわ」
おい、それでいいのかよ? まあ学園の一番上が身内な時点で、何とでもなるのかもしれんが。
「なんかすまないな」
「まったくだとおもうわ。さて、……わたくしに手間を取らせ時間を割かせ心配させたのだから何かあってもよろしいのではなくて?」
ニヤリと笑いながら、お嬢様口調でそんな事をいう。確かに時間を割かせたのは事実だ。
「よっしゃ。なら今からラーメンでもおごろうか。ラーメン屋の情報誌買ってきたから、どっかに行きたかったんだよな」
何かあったときに、リュディの機嫌を取ろうと買っておいたが、まさかこんなに早く使うことになるとは思ってなかったぜ。
「……今日はあっさりがいいわ」
「はいはい。じゃあ行こうか……」
と、ベッドから降り、立とうと思ったところで何かを踏んづけバランスを崩す。そのままベッドに倒れ込んだ。
「幸助!? 大丈夫!?」
「いやつまずいただけだ。……それにしても本当に心配してくれたんだな?」
と心配そうに顔をのぞき込んでくる。やけに心配そうな彼女を見て思わずそんな言葉が口から出た。ゲーム内の瀧音幸助は、彼女にとって羽虫以下だからな。
てか、なんでこんなところにペンが落ちてるんだ?
「ばかっ……あたりまえでしょ? じゃぁ……行きましょうか」
午後授業を受ける生徒を尻目に、俺達はラーメン屋に向った。ただリュディは未だに恥ずかしいのかなんなのか分からないが、帽子とサングラスをしており、いかにも怪しい人だった。
隣に俺居るから勘弁して欲しいんだけど。





