142 疑問
「詳しい話を聞いて真っ先に疑問に思ったのが、もっと多くの生徒達が三会の秘密を知っていてもおかしくないかな、ってことなんですよ。特に卒業生とかから話が漏れないのかなって」
腕を組んだ結花はそう言って、うんうんと首を振る。
「そこから疑問が膨れて、知っていても暗黙的に話さないでいるのかなー? とか考えたんです……それでも納得できそうで出来なかったんです。だって人の噂って封鎖出来ないじゃないですか。そしたら、なんで破綻してないのかなって」
「破綻、ね。ツクヨミ学園新聞が色々頑張っているとかではないのか?」
理由を知っていて、あえてそう言ってみる。
「確かに学園内だけで情報がすべて完結しているなら、それでなんとかなるかもしれませんよ? でも世界は学園だけじゃないじゃないですか。まあ、疑問はそれだけではないんですけど……」
「それだけではない?」
「やってる事って結構おままごとですよね? そのせいか分からないんですけども、なんだか三会の会員がこの三会の役割に対して、そこまで本気じゃないように見える時があるんですよね。それも人によって顕著かなって」
実際その通りで、アネモーヌさんなんかは自由に研究しているだけにしか見えないし、生徒会や風紀会にもやる気が無い者はいる。聖女とか内心ではクソ面倒だなって思っているに違いない。
「やる気がある人と、無い人の差がはっきりしているというか。まーここは変わり者ばかりですからあんまりこれは関係ないかもしれませんけど」
じっと結花を見ると、結花は何かを察したのかジト目でこちらを見る。
「私は変わり者じゃないですよー?」
そう言うと結花の視線はななみへ。そして俺を見てまたもやななみへ。
確かに。結花もちょっと変わってると思うけれど、それ以上に。
「ななみはかなり変わってるからなあ」
「ご主人様は変わり者ですからね」
言葉は同時だった。そして顔を見合わせるのも同時だった。
「いやいや、何を言うんだななみ。ななみに比べたら俺なんて平凡すぎて存在すら消えうせそうだってのに」
「いえいえ、何を仰いますかご主人様。ご主人様に比べたらななみなど無色透明、認識すら出来ません」
俺とななみが言い合っていると、結花が苦笑しながら口を開いた。
「あのー五十歩百歩じゃないですかねぇ?」
視線は一瞬結花に行くも、すぐにななみへと戻る。すると彼女はパンと手を叩いた。
「ご主人様、違います。私達は普通だったんです。世界が間違っているのです。ですから私達以外が異常なのでございます」
「なるほど、確か…………に……いや、やっぱ無理があるわ」
世界は多数決で決まるからな。だから異端とされるのは俺らになりそうな気がする。
「まあ変わり者とかそんなことは良いんです! 本題に戻りましょうよ!」
「本題ねぇ……あれ、変わり者云々の発端は結花だったような?」
「さぁーて、私が気になるのは……」
次回予告が始まりそうなノリでそう言って、結花はななみを見つめる。ななみは自分の頬を両手で包むと、恥ずかしそうにイヤイヤと体を左右に振った。
「ななみのスリーサイズですね、大変申し訳ございません。ご主人様以外にお答えするつもりはございませんので」
「俺には答えるんだ……」
後でこっそり聞いてみよう。
「違いますよ、なんでそんなこと聞くんですか!?」
「ではご主人様のスリーサイズですね」
「気になりますけど、それも違いますっ!」
「何でななみは知ってるんだ……」
いつ計ったんだよ、結構恐怖なんだけど。てかなんで気になるんだそれ。
「っはぁーっ……まあ、冗談は置いておいてですね、私が知りたいのはななみさんの話したことです」
結花は大きなため息をつきながら、そう言った。
そして実を言えば俺も気になっていた。
「ななみさんが言う、この学園自体が異常ってどういうことですか?」
結花が疑問に思った三会の事は後ほど解を教えて貰えることだろう。会長達は確実に知っていなきゃおかしいし、行動を起こしている。もしかしたら先輩も既に知っているのかもしれない。
進行度合いによって変わってくるから、なんとも言えないが。
しかし、問題はななみの疑問である。
結花の問いに「詳しくはお答えするつもりはございません、ご主人様にもです」と返すのを見るに、何かしらの禁則事項に触れているのだろう。
それを聞いて分かることは、ななみが言いたかった事が俺の知るゲームの設定にない可能性があることである。
そもそもななみ自体がゲームでは選べない天使という種族だった。
ただこちらには情報が足りないし、情報を仕入れるにしてもどこで仕入れて良いのか分からない。一応、ななみに何らかの被害が行く覚悟で聞くことは出来るだろう。絶対にしたくない。
そしてもう一点気になることもある。
俺に話すだけでなく、結花にも話したことだ。
別に結花のいる今話さなくても良いであろうとは思う。結花はその言葉に疑問を持たないわけがないから。突っ込まれるのは読めていただろうし、現に今も詰め寄られている。
だとすればいったい意図はなんだろうか。単純に俺に問われたから答えただけだろうか?
いや、なんとなくだが、ななみはそんな事でわざわざ話すことをしないであろう。理由が気になる所だが、結花の前で詳しく聞いても意味はない。結花の追求を、斜め上回答と屁理屈でのらりくらりと躱す様を見てもそう思う。
思えば、先ほどからちょいちょいボケを挟んでいるのも、ここでの追求を躱すためなのだろう。
「さあ、ご主人様。そろそろお時間も良い頃合いです。帰ってななみを食べ……冗談です。夕食に致しましょう。あと明日のご予定をお聞かせ願えますか?」
先ほどの追求を躱しきったななみは、ジト目で見られながらも何事もなかったかのようにそう言う。
「ああ、ななみと一生忘れられない思い出を作る以外でお願いします。楽しみにしていてくださいね」
結花のジト目がこちらにも向いている。
「いや、そんな約束してないから」
明日何をするか、ね。
まずは目の前のことを早急に片付けなければならない。イベント解決のための準備は大体終わったとは言え、いくつかのピースは揃っていない。しかしイベントはゆっくりと進行している。
早くピースを集めきろう。すべてがハマらないと、円満解決は困難を極めるだろうし。
さて、そのピースを埋めながら自分の強化に繋げる。そしてそれを一番効果的にする為にしなければならないこと。それは。
「リュディとお出かけだな」





