第53話 ため息とプリンを飲み込んで
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「はぁぁぁ」
「どうしたの、ステラちゃん、幸せが逃げちゃうよ」
大きくため息をつき、メメにそれを指摘される。しかし、これは仮定と結果が逆だ。ため息をすると幸せが逃げるんじゃなくて、幸せに逃げられたやつが仕方なくため息をするのである。
「……はぁぁぁぁぁ」
と、意味のない愚痴を心の中で漏らすのにも飽きたので、もう一度暇つぶしにため息をつきましてっと。
「どしたのステラちゃん?」
「疲れましたわ」
「そっかぁ、おつかれー」
入学してからしばらくの日にちが経った。学校の制度にもある程度慣れて、学校が日常と化してきた、そんな今日この頃である。
今日はメメと昼食を頂くことにしており、私たちは料理をトレーに置いて机に座ったところだ。
ちなみに、メメと学校で昼食を食べるのはこれが初である。学校生活はしばらくすぎたのに、色々あって、なかなかこの機会に恵まれなかったのである。
この学校の学食は無料のバイキング形式である。昔は神に祈りを捧げて皆で同じ食事を食べていたそうだが、それはもはや過去の産物である。産業の発達が進む現在、昔ほど熱心な宗教家はあまりいない。
今時の食事といえば、好きなものを好きなだけ食べると言うスタイルだ。もちろん健康には気をつけるよう、重々指導は受けている。
というわけで、今日のお昼ご飯はこれ。トレーの上に並べられたたくさんの……
「プリンですわ!」
健康なんてそっちのけである。バレたりしたら個別指導待ったなし。
なあに、栄養なんていう見えないものは、どこかで帳尻を合わせればいいのだ。むしろ大事なのは心の健康だ。今日のわたしは周りに人がいないことをいいことに、甘いものをいっぱい食べて疲れをいっぱい癒すのだ。
「一度やってみたかったのよ、これ!」
「ステラちゃん、欲張りさんだね!」
「みんなに見られたら、どう思われるやら」
「ほんとすごいよね、ステラちゃん。いつも周りに誰かがいるね。学校の人気者だ!」
「あれは人気って言いますかなんといいますか……」
さて、肝心の学校生活、もとい私のお嬢様計画はというと、一応順調に進んでいる。周りのみんなは私を由緒正しいお嬢様だと信じて疑わないし、授業だって大真面目に受ける天才かつ秀才だと思われているに違いない。
その代償が、今日に至るまでメメと昼食が食べられなかったといった現象なわけだが……
「……はーー。考えるとついため息が」
「あわわわ。ステラちゃんの幸福、拾っておくねー」
――――――――
メメは空中の何かをフォークで食べながら私に話しかける。そこに幸福があれば私にも一口分けてほしいですわね。
「ところでステラちゃん。今日さ、お昼ご飯一緒に食べたいていったんだけどね、ステラちゃんの周りのみんなに悪かったのかな?」
「いいえ。今日は誘ってくれてありがとう。あなたといるのは他の誰といるよりも楽しいわ」
「ほんとのほんと!?」
「ええ本当」
「わーい」
学校生活の調子はいいが、メメとご飯に行く機会すら得られない日々。その原因は私が常にメメ以外との行動を強いられているからである。
お淑やかで文武両道なお嬢様である私は、常にみんなの人気者の立場を担っている。
だから、学校に入ったその瞬間から、教室を移動したり、ご飯を食べたり、授業が終わってからも、私の周りには誰かがいて、お話をしてくるのである。
囲まれてしまえば無理矢理押しのけて逃げるわけにもいかないので、お嬢様をひたすら演じるしかない。ボロを出さないように、丁寧に言葉を選んで話し続ける、これはそんな簡単なことじゃない。
「私のクラスにもねえ、ステラちゃんの噂は広がってるよ。完璧なお嬢様、お淑やかなステラ姫って!」
「うまく情報操作が進んでいるようで何よりです」
「操作?」「お忘れあそばせ」
姫というのは少し侮辱が入っている気がしなくもないが、純粋無垢のお嬢様の私はそういう悪意はわかりませーんわー。
うん、何はともあれ、クラスを跨いで良い印象が伝わっているのは良い傾向だ。
本学は一学年に二十人のクラスが五つあり、二年ごとにクラス替えがある。多少人数が多いため、クラス替えごとに知らない人間が多くなりがちなのだが、クラスを跨いでいい噂があると、その辺りでお嬢様を再び印象付けさせる必要がなくなって楽だと思う。
「でもさ、おもしろいね」
「何がですの?」
「みんな、ステラちゃんのこと、ぜんぜん知らないんだね」
「ええ、まったく」
そう、メメの言う通り。みんなは私のお嬢様らしい面しか知らない。私が演じるステラしか知らないのである。お嬢様ではない私を学校で知るのはメメだけだ。
「ステラちゃん、いつも機嫌が悪そうなお顔しているのにね」
「その通りなのですが、あなたも私に関する知識をアップデートをしてもらえると助かりますわ……」
車に酔う私が私だといわれると、それはいささか怪しいのだが、今のお嬢様を演じる私は間違いなく私ではない私だ。いずれ私が成長してこれが私になる日は来るかもしれないが、今はまだ、違う。
だからといって、私の弱い心で簡単にやめていいものでもない。今は私がお嬢様であるため、今後の印象付けのための我慢の時なのだ。
「そう、我慢ですわよ、メメさん」
「うん、我慢だねステラちゃん。プリンは我慢に入らないの?」
「今日はチートデーですの」
当然だが普段はプリンも我慢している。
こんなにたくさんのプリンを取るのはお嬢様らしからぬ言動だからね。
今日は授業の終わり際にうまく失踪することで、ここまでやってきたのだ。そう簡単に使えない禁じ手を使ったのである。今日は普段できないプリン大量食べに挑戦すると決めたのだ。
「では早速、プリンを食べることにして……」
「「あー! ステラ様、こんなところにいらしたのね」」
「あらっ (げげっ)」
心の中の言葉を丁寧に濾過し、未来からご機嫌を前借りして態度を改め、とっさにお嬢様を工作する。
危ない危ない。
私の常人ならぬ反応速度をもってしてぎりぎりの切り替えだった。その証拠に、メメは普段と異なる私をみて、まだポカンとしているようだ。
「皆様方、どうしてこんなところに?」
「だって、ステラ様がいなくなると困るもの」
「そう、それは大変ねえ?」
しかし、別に事態を回避しきったわけではない。これからいつも通りの苦悩タイムが始まるのだ。
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