第45−2話 予定された密会
お読みいただきありがとうございます。
実はこの幕間の間、長いです。
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「何がおかしいかというと、まず前提条件が変です。最前線で戦うあなたならわかるかと思いますが、この前提条件に色々と違和感がありますねえ」
「ネールさんもそう思いますか」
「今の私は学者の端くれです。前提のおかしさはもっとも危惧すべき点ですからね」
「学者らしいことも言うんですね。まともに実験器具も扱えなさそうなのに」
「ひどいですね。一応月毎の実験器具代は他の研究者の三倍程度に収めてますよ」
「収まってないじゃないですか……」
あの日あの時、神は人類に害を及ぼす存在だったのか? 具体的に国は何をみた? あの貴族たちの言うことは正しかったのか?
何より、最前線で戦っている人間がそれを知らないのはあまりにも不自然だ。
「ごほん。不可解な点、二つ目」
「強引ですね、相変わらず」
「……グラン先輩の遺体と衣服が見つかっていません」
「本当に強引だぁ」
そう、グランの遺体は見つかっていない。
武器は海辺、装備は山部で見つかったとされている。そもそもそれ自体が不自然なのだが、服と遺体はどこからも見つからなかったのである。
「本当に死んだ以外で考えられる点としては、国外に逃亡してまったく別人として余生を過ごしているかですね」
「それはないはずです。あの人は、国を見捨てる人ではなかった。たった一人でも、皆を守るため命をかける、そんな人だったはずですねえ」
「そうは言っても俺はあの人のことあんまり知りませんからね」
彼らとグランの関わりがとても密接だったかというと、そんなわけではない。共に任務に出た回数はそこまで多くないし、年齢も少し離れていたために、すべてを語り合えるほどの人間ではなかったのだ。
「かといって、あの人がそう簡単に死ぬとは思えない。あなたはそう思いませんかねえ」
「それはそうですけど」
ユリスはコーヒーに移る自分の姿を見ながらふと考える。
ユリスにとってグランは憧れで、彼はその姿を目指して今を生きている。
勤勉で勇敢で蛮勇で、それでいて優しい、グランみたいな人間になろうとしている。
しかし、それはユリスが勝手に見た幻想に過ぎないのではないか。自分の理想を勝手に押し付けただけではないかと、自分の姿を見ながらふと思ったのだった。
ネールも街ゆく人の一人を見て考えた。
街に咲く花の周りに群がる蝶を見て、ふと思い描いたのだ。
あの日、私の行動次第ではグランさんはまだ生きていたのではないか、と。
「――ル先輩?」
「失礼、うっかり蝶々と遊ぶ子どもに見惚れていました」
ネールは、少しグランのことを懐かしみ過ぎていたらしく、ユリスの声でようやく我に帰った。気分直しに飲んでいた紅茶はいつの間にか冷めてしまっている。ぼおっとしすぎだろう。
「はあ。もうこれ以上警察の世話にならないでいただけますか」
「私、警察の人と仲良いので大丈夫ですよ」
「こいつの給料全部、その警察の人たちに行けばいいのに」
「ユリス、ほんと言うようになったですねえ。今度組み手でもしますか?」
「いやマジで遠慮しておきます。だって近接で雷撃魔術使われたら勝ち目ありませんし」
「人間にはすこぶる有効ですからねえ。おかげさまで、私の今月の犯罪検挙人数、一般人で一位らしいですからねえ」
「分かった。学者やめて警察官になって子ども守れ。そのほうがあんたに向いてる」
「それもありでしたねえ」
ネールは、ふとそのような姿を考えてみる。街の平和を守る、そんな自分の姿を。確かにそれは自然な姿のようにも思えた。自分の能力を活かせるという点でもいい策のように思えた。
しかし、彼女にとって、学者というのは最善の選択の一つであったことに違いはない。
学者というのは、底しれぬ探究心を持つ彼女にとってはむしろ天職ともいえた。
だからネールは、その選択を後悔していない。
そもそも学者でありながら、彼女は信仰深い宗教家でもあるのだ。神様を信じる彼女にとって、人生におけるすべての選択、そしてそれにより引き起こされることは運命であり、仕方のないことなのだ。
だから、人生におけるどの選択も後悔していないのである。
「あ、でも。そういえば犯罪者は警察になれないので無理ですね」
「むりでしたかあ。世の中は世知辛いですね」
「だいたいあんたのせいだがな?」
「まあ、そういう運命だったまでです」
これは運命だから、致し方のないことだ。
そう思い込むことで、ある程度の理不尽ならば、受け入れられる。だから彼女は後悔していない。
そう。彼女はこれまでの人生をまったく後悔していない。
ある一つ、いや、ある一人のことを除いて――
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続きます。




