第39−4話 もう一度その力を使って
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「なあ、ドラゴン」
『……』
ドラゴンがここまで動かないのは少し不自然で、おそらくこれはドラゴンが意図的に動かないようにしているのだと察せられる。口を見ると、必死で制御して開かないようにするため筋肉が強張っている。その大きな牙で俺を傷つけないためだろうか。
「お前は一体何を?」
『……』
剣を落とした。
だって、このドラゴンは俺を攻撃しない。俺が攻撃範囲にいる今でさえ、じっと何かを堪えている。
その中で俺がドラゴンに攻撃するのは、およそ正義とは程遠い。
「もしかして、動きを制御しているの? 攻撃しないように。人を怪我させないように?」
『……』
瞬きをしたその瞬間、俺は、私を取り戻す。
グランの姿をしていた私は、剣を落としステラへと姿を戻した。
視界は低く、先ほどのような魔力の導線路も見えない。
口の中の血の味は無くなって、退屈となった口が今日のお菓子はなんだろうと考えている。
その姿は、なんら力のない子どもであり、力に振り回されることのない女児であり、毎日を優雅に満喫するお嬢様であり、そしてまさしく今の私だ。
私は、小さくなった歩幅で一歩ずつ近づいていく。
「誰かに操られているのかしら?」
あと少しの距離を、小さな歩幅でテクテクと。
一歩一歩、拙く、そして着実に近づいていき、ようやくドラゴンの息遣いが聞こえるほど目の前まで歩み寄る。
短い手を伸ばした。
これまでみたいに殴りかかるような勢いをこめず、そっと触れるように。
「聞かせてくださいませ」
『……タスケテ』
ドラゴンは、私の心にそう告げた。
「ええ」
その言葉を聞いて、私は一つの結論に辿り着いた。
ドラゴンは、グランを探していたのだ。
かつて自分を窮地に追いやった、それほどの実力者を。
どうしてか。
それは、決して復讐ではなかった。
求めていたんだ。
確実に自分の支配を解けるそんな人間を。
決して人は傷つけまいと、ドラゴンは行動を支配されながらも驚異的な力でどうにか抗っていたんだ。
メメに関しては、メメの体が小さかったから起こった事故であり、決して本意ではなかったんだ。
「不慣れだけどうまくいくかしら……。『アウェイク、対象は私の手の先、今日見た夢は悪い夢』」
魔術には、大抵その逆魔術が存在する。洗脳魔術にも、それを解くための魔術があって、それにより解放を試みる。
しかし、ドラゴンに掛かるほどの洗脳魔法は、そう易々と解けるはずもない。
「……そううまくはいきませんか」
『ガ!』
「!?」
とは言っても効果がまったくなかったわけでもなさそうだ。その証拠にドラゴンが少し反応を示し手みせた。
ならば、ここで畳み掛けるのみ。
洗脳魔術は、本来の自己の上に術者の思念を上書きする魔術だ。ならば、その魔術の効果が薄れたタイミングで本来の自分の記憶をまた上に持ってくればいい。
「ドラゴンさん。思い出しなさい、あの日見たその景色を。大丈夫、もうすぐ朝が来て、きっと悪夢から目を覚ましますから」
ドラゴンに手を当てたまま、優しく励ますように声をかける。
その声は、ドラゴンへと届き、しかしそれはドラゴンの洗脳をとく決定打にはなり得ない。
ならばだ。
これでもだめだというのなら。
かつて自分を殺そうとしたグランに、それでも過ちを犯さないように助けを求めてくれたドラゴンに、私ができる免罪はなんだろう。
それはきっと、私の命をかけることだ。
私はドラゴンに今一度向き合って、そしてドラゴンに抱きついた。
『!』
『おいステラ、死ぬ気か!? いくら僕の世界だからって、僕は精神の安全まで保証できないぞ』
「あら、死ぬ気なんて毛頭ありませんわ。もっとも、それはドラゴンさん次第ですが」
私はドラゴンに優しく語りかける。
「私は今、なんの魔法も体術も使っていない。この瞬間にあなたが少しでも暴れたのなら私は死ぬ。でも大丈夫、あなたは強い。さっきだって、支配に抗うことで街の人を守って見せた」
ドラゴンは本来争うことが許されない洗脳魔法をどうにかねじ伏せた。おそらくは人のために。
ならば、もう一度その力を使ってはくれないだろうか。今度は支配から解放されるため。そして今度は――
「今度は、私を守ってくださいませ」
『……ガ……グアァァァ!!!!!』
ドラゴンが大きく叫んだ。
それはあの日のように、強く逞しく。
その瞬間、私の意識は途絶えた。
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今回、物語の都合上、言葉遣いには細心の注意をはらっておりますが、間違っていたら誤字報告をお願いします。




