第4話 練習の成果は完璧とは限らない
お読みいただきありがとうございます。
教育教材が流れている、そんなお部屋にステラという一歳の女の子がいる。私である。
どういうわけか、最近の教材は言葉遣い関連のものが増えてきている。なぜだろうね。多分俺のせいだね。
魔法の練習を始め、二か月ほど経った。時にカーペットに水をこぼしたり、時にカーペットに火をつけたりしたが流石にバレていないと信じたい。
それで、実力は伴ったのかというと、ハイ、と元気に声をあげれるほどに順調だった。理由は簡単で、なんとなく感覚を取り戻したからだ。
「強めの『ウィンド』、対象は自分の背後、辞書をなびかせろ」
背面に置いた辞書を想像して詠唱を唱えた直後(正確には幼児語で唱えた)、パラパラと勢いよくページがめくれていった。
「よし、悪くない」
体の極端な疲れもない。全ページを捲るのに一秒程度しかかからなかった。メイドの方はというと、なんか見られている気がするが流石にステラの体で隠しているので大丈夫と信じたい。そろそろ宝石の箱で試してみても良いだろう。
ベッドの上から棚の上にある宝石の箱を改めて確認して脳裏に焼き付けてから棚に近づいて――
「最大級に『ウィンド』、焦点は小さく、力は強く。俺の想像をもって……くちゅん」
肝心なところでくしゃみをしてしまったせいで、魔法が大きくずれてしまう。棚から遠く離れたカーテンが窓を開けていないはずなのに勢いよくなびく。
慌てて周りを見渡すと、アルカがそちらに目を向けようとしていた。やばいやばい。
「あるかー! おはなつみ、いく!!!」
必殺技、一歳児。
少し世界に違和感があれど、流石にアルカは私のことを優先してくれる。よし、作戦成功だ。
「?? うるさいですね、急に叫ぶなんて」
「もれそう!」
「なるほど、行きましょうか」
「つかれた、おんぶ」
「甘えるなんて久しぶりですね、まぁいいでしょう、はい、どうぞ」
おんぶをしてもらいつつ、宝石の方をチラ見する。先ほどまでの位置から確実にずれているのを確認し、心の中で小さくガッツポーズ。
「そういえばお嬢様はもう少し淑女らしくしてください」
「わかった! えっと、すくじょ、頑張る!」
「はあ、先が思いやられる」
そういえば、最近度々メイドや教材から耳にする言葉、「すくじょ?」ってなんだろうね。
――――――――
あらためて翌日、今度こそ宝石の箱チャレンジと行くことにした。
昨日はトイレに言った後、アルカに変に疑いの眼差しをかけられていたため、仕方なく教材をよくよく聞くことにしたのだ。
あらためて考えながら聞いていると、案外面白いということに気づいた。あと、淑女について理解した。
これからは少しくらいは聞いてやろうと思う。
まぁ、もちろんそれは明日から。今日は宝石を落とすことに専念するのだ。
ベッドの上から再度位置を確認する。ふむ、昨日以前の位置に戻されているな。
きっとアルカが違和感を覚えて戻したのだろう……怖っ!
しかし、それはそこまで問題ではない。昨日動かせることは確認した。昨日の分も動かせばいいだけだ。今日は鼻をかんだからくしゃみの心配もない。
メイドが目を離しているのを確認して、その間に俺は魔法を呟いた。
「高火力、小領域。箱よ動け。『ウィンド』」
急いでベッドに登り、箱の確認をする。1回やっただけなのに、結構動いている。これは結構調子が良さそうだ。
調子に乗った俺は、棚に不器用なスキップで近づき、もう一度魔法をぶつけてみる。
「『ウィンド』。風よ、いい感じに吹き荒れろ」
その時、ちりんちりん! と音がした。鈴の音だろうか?
まさかと思いメイドの方を見る。しっかりと目があった。ああなるほどなるほど……
まずい、これは罠だ!
おそらくだが、ずれている箱を怪しんだアルカが仕掛けた罠、箱の横に鈴を置いておいて、箱がずれた時に音が鳴るという簡単な仕掛けに違いない。
もちろんアルカは気づき、こちらに急いで近づいてくる。
どうすればいい?ここから言い訳できるか? というかそもそも箱を落としてからどうするつもりだったんだ俺は! 箱を取ることに夢中になってついつい忘れていた!
思考すれども試行すべき行動はまとまらず、考えだけが堂々巡りを繰り返す。こうなりゃヤケだ! 何がなんでも箱を落として宝石だけはとってやる。あとのことは一分後の俺が考える!
「『ウィンド!』。風、そんな箱なんてぶっ飛ばせ」
その直後。上を見ると、いくつもの鈴が吹き飛んだ。範囲を絞れていない証拠だが、そんなもの気にしてられるか! さあ、肝心の箱よ落ちてこい!
アルカの方を見ると、勿論驚愕の顔をしていた。おそらく棚の上の異常な光景を見て……
いや、よく見ると、彼女の視線は完全に俺のほうにあるような――
「お嬢様、上! 危ない!」
はて?
俺が上を向いたとたん、天井の灯が暗くなった。勿論、実際にそうなったわけではなく、箱がちょうど頭上に来たからだ。……いやちょっと待て、思ったより箱でかいな、あと本当に真上だな!
もちろん、世界の物は等しく上から下に落ちるわけで、その箱は見事ステラという幼女の頭に直撃した。
なお、三人称っぽく言っているが、すげー痛い。三人称にして俯瞰的に見ないと耐えられないくらいに痛い。
自分を呼ぶ声が遠くから聞こえた。いや、違うな。遠くなっているのは自分の意識だな。
あー、これはやばい。でも、ここまで来たんだ。あともう少し。
――遠のく意識の中で、どうにかして箱を開け、宝石を手に取った。キラキラと輝く宝石は、とても綺麗だった。もはや神々しさすら感じるほど――
――――よかった、最後にこれを見れ――――――
『いや人生開始直後に死にかけるの、やめてくんない?』
――――――――
どこかで神様の声が聞こえた直後、俺の意識は途絶えた。
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