第34話 魔法を使えるように
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夕方になってパーティも終わり、私たちは家に帰ってきた。ちなみに夜にはダンスパーティがあったらしいが、私は子どもなのでそれにはもちろん参加していない。
家に帰っても緊張感は解れない。むしろ、私は今すごく心構えをしていた。
「ではステラ様、詳しく教えていただきましょうか」
すなわち、私は魔法を使える言い訳をしないといけない。しかも、私はそこそこ高位の魔法を使ったのだ。それを追求されては困ってしまう。
「ええ……しないとだめ?」
「私の立場に立ってください。意味もわからず魔法が使える子どもとか怖くないですか?」
「うーん、たしかに」
「別に怒っている訳ではないんですよ」
確かにそうだ。世界に魔法という存在が認知されつつあるとはいえ、やはり怖いことに変わりはない。そもそも魔法なんて、その気になればやりたい放題だからな。
「私、魔法の本とか読むじゃない?」
「ええ、読んでますね。あの辞書みたいな本」
「それで覚えたのよ」
「……?」
「それで覚えたのよ?」
「…………??」
うーん、だめですか?
「流石に嘘ですよね」
だめですかー。
いやまあ実際嘘なんだけどさ。どうすりゃいいんですの? これ以上まともな言い訳がありませんわよ。流石に転生者っていうわけにはいきませんし。
「私も一度読んだことがあるんです」
「ほぅ」
「ステラ様は覚えていらっしゃらないかと思いますが、ステラ様が一歳の頃にちょっとした事件がありまして。それでその後始末ということで一度読みました」
「そ、そうなのね……あれね…………」
彼女のいう事件はおそらく、いや絶対に私の一歳の誕生日にもらった宝石落下ステラ直撃事件だろう。後始末を取らされたのかと思うと、少し申し訳ない。
「それで、あなたが読んだことと私に何の関係が?」
「……分かりませんでした。何一つ、わからなかったんです。魔法について、神様とか魔力とか、よくわからないことばかりで」
ああ、アルカよ。そりゃハズレの本だ。おそらくだが、古典魔術学の哲学分野に関する本でも手にとってしまったのだろう。あれを読んでも残念ながら魔法はわからない。そもそもあれは、だいぶんと知識が古い。
「これでも相当優秀な私が読んでもさっぱり分からなかった魔法なんです。ステラ様といえど、本を読むだけで魔法が使えるなんてあり得ない」
「その自覚はやはりありましたのね」
「まあ、この若さで専属メイドですからね」
「ごもっともですわ」
アルカって案外傲慢なところあるよな。まあそんなところも私は嫌いじゃない。そんなアルカだからこそ私は遠慮なく迷惑をかけられるってもんだ。いかん、もう迷惑はかけないと決めたのに。
「まあ、お嬢様である私ステラとしていわせていただくと、それは才能の違いじゃないかしら?」
「やはりそういうも――」
「といって鼻を高くしたいところだけど、別にそういうわけじゃないわ。そもそも私は才能がすべてだとは思ってはいませんもの」
よくお母様には、私が才能の塊だと褒められることがある。まあ、側から見るとそうなのだけれど、私は才能がすべてだという意見には否定的であるため、その言葉に関してはあまり良く思っていないわけで。
「それはどういうことでしょうか」
「つまりね、別にそんな魔法は難しくないの」
みんなが言うほど、魔法は難しくない。正しく努力さえすれば、誰だって身につけられる。器用不器用、上達速度の差異こそあれど、魔法に貧富の差はない。
「貴族でも何でもない私であっても魔法を使うことは可能ですか?」
「ええ、できるでしょうね。あなたほど優秀ならすぐにでも」
おそらくアルカならば、すぐに上級魔術相当の魔法が使えるようになれるだろう。
「……ええっと、本気で魔法を使いたいのかしら?」
「半分くらいは本気ですね」
どうやら、アルカの目を見る限り、本当に魔法を使えるようになりたいらしい。別にそんないいことがあるわけでもないのに。
「別に、魔法が使えたからって日々の執務は楽になりませんわよ」
「まぁ、それについてはあまり求めていません。ただ――」
魔法なんて役に立たない。あんな危険な代物、戦いのため、誰かを傷つけるためのものでしかないのに。
それでも彼女は魔法を望む。それはなぜ。
「もしあの時、魔法がなかったら、アイラ様の命は危険にさらされていた」
「勘違いしないでいただきたいのだけど、魔法があれば命が救われるわけではありませんのよ」
魔法でも寿命は伸びないし、魔法でも人は生き返らない。魔法はそんな、特別なものじゃない。
「ですが今日に限っていえば、アイラ様が軽傷で済んだのは、間違いなくステラ様の魔法のおかげでしょう? これはあなたがどう否定しようとも、紛れもなく否定しようがない真実です」
それでも、アルカが言うこともまた正しい。今日、私の魔法は確かにアイラの命を救ったのだ。
あぁ、そうか。
私は魔法で彼女を救えたのか。やっと私は――
そう思うと、今夜は少しいい夢が見られそうな、そんな気持ちになった。
「今日あの瞬間、魔法を使えることは、私にとって、すなわち主君に仕えるメイドにとって、有意義であると判断しました。もし差し支えなければ、私に魔法を教えていただけないでしょうか」
もしアルカが魔法を使えるようになればどうだろうか。多分、今とあんまり変わらないだろうけど、もしかすると少しはいいことがあるかもしれない。いや、きっといいことがあるのだろう。
「いいわよ。アドバイスくらいでよろしければ」
「ありがとうございます」
この日、アルカという、私の秘密の一端を知り、そしてのちに魔法も使えるメイドがひとり生まれることになった。
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