第32話 私の秘密
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「ステラ様、何を言っているんですか?」
「もう一度、魔法を使うわ。『真冬の真水、対象はアイラ、冷たい冷たい水を』」
私の責任で、私が落とし前をつけなくてはならない。
私の魔法でどうにかなるのだとしたら、魔法が使えることがバレてしまうことなんて些細な問題にすらならない。今はそんな問題ではないのだ。
空を舞う水が一点に集まっていく。一粒二粒、粒から玉に。
玉から球に少しずつその水の球体は大きさを増して、アイラの体の上に大きな水の塊が浮かび上がる。ある程度溜まった時、その水は風船が弾けるように割れて、アイラにはまた水が浴びせられる。
一刻も早く、そしてなるだけ冷えた水を。
心なしか、彼女の表情が和らいだ。でも足りない。顔は赤いままで辛い表情であることに変わりはない。まだ危機的な状況であることに変わりはないのだ。
「確かにこれは水……まさか本当に?」
「ええ。『窓辺に見る冬空』。そもそも面倒だったんですよ、あなたに魔法を隠すの」
彼女の周りに冷却魔法を放つ。彼女の体温を少しでも冷やさなければならない。熱射病は毒とは違う。体を冷やして彼女の体の機能が正常化するのを待つしかないのだ。
「いつから……そしてどこまでの魔法を?」
「それはまた今度詳しく。アルカ、今は手を貸して」
アルカが言っていた通り、今はその言葉を交わす時間すら惜しい。異常化したアイラの体の機能を、無理やりにでも活性化させないといけない。
私はアルカの手をとった。今からの治癒魔法の一つをするためには、アルカの力が、大人の力が必要だ。私だけじゃできないのだ。
「『痛み分け、左手から右手、あと私にも。アーニャの自己治癒力強化』」
アルカの体力をアイラと自分に分け与える。
私にはこの数分間魔法を生成するだけの気力を、そして彼女には自己治癒力の大幅な強化を。アイラには本来一日分の睡眠で得られる人間の治癒力をこの短時間にすべて注ぎ込むのだ。
今のアイラは生命活動が著しく弱まっている。だからこうやって無理やりにでも治癒力を高めざるを得ない。でなければ、おそらく間に合わない。
アルカの体力でこれを補うため、当然アルカには大きく負荷をかけるが、所詮四歳児である私の体力を注ぐと今度は私が危険に晒されるのだ。申し訳ないが、しかしこれは致し方ない。
そうして魔術を使うことにより、アイラが少しだけ落ち着いたのを感じる。まだ体は火照っているけれど、乱れた息が少しマシになったのがわかる。私はそれを確認し、治癒魔術を一度止めた。
「ねえアルカ。私が考えうる限りは尽くしたし、これが今できる限界。これから私は何をすればいい?」
私は、アルカに指示を仰ぐ。アルカは、突然の状況に対しても冷静に検討していたようだ。
「そうですね、では冷却する魔法は継続していただけますか? 私は彼女の服を脱がせます、そして定期的に水を。あとは飲み水と……」
そうしてしばらく私は、彼女の指示に従いつつ魔法を奮った。
――――――――
「緊急事態はなんとか逃れられそうです」
「そう、じゃあいったんすべての魔法を止めるわね」
しばらく経ってアイラの顔色もだいぶんとましになった。息も、ある程度正しく刻めており、寝息のように穏やかだ。
アルカによると、とりあえず危機は脱したらしい。しばらく並列的に魔法を使った甲斐があった。
「アイラ様を連れて看護室まで向かいましょう」
「そうね、それがいいわ」
本当に無事でよかった。取り返しのつかないことにならなくて、本当によかった。
「魔法の件に関してはその時に伺います」
「ええ、きちんとお話しするわ」
ここまで堂々と魔法を出したのだ。説明なしではすまない。
本来は才能ある選ばれし貴族が正しく学んだ末に身に付くようになるとされる魔法を、そのような才能なんてあるはずのない、ラメル家の四歳児であるステラが使ったというのだ。どこで学んだか、何をできるのか、どうやって身につけたのか、詳しく聞かれるに違いない。
そしてもちろん、本を読むうちにできるようになったという嘘をつく予定だ。転生したとは言えない。それはあまりにも禁忌すぎる。
「では、向かいましょう」
「その前にアルカ、一ついいかしら」
「なんでしょうか」
今のうちに適当に言い訳を考えておこう。そう、今のうち、意識があるうちに……
とはいうものの、そんな余裕は残念ながらなさそうだった。
「どうか、私も連れて行ってくれな……」
「ステラ様!?」
先ほど度重なる魔法に高位な治癒魔術。私もそろそろ時間だろう。
私は、倒れるように眠りについた。
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