第27−2話 お菓子休憩でおかしな魔力
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そもそも、この屋敷中にいるかが非常に怪しいから、最善を尽くしたところで期待はできない。まあでも、やるだけやってみるのも面白いだろう。一人だからなんでもやりたい放題だ。
「そもそも、かっこいい男ということしか分かっていないのが難点ですね。せめて体格でも聞いておけばよかった」
そう思いつつ、廊下に出る。捜索魔術と言っても色々とあり、人の特徴、魔法を使う人間ならば体に取り込んでしまった魔力を利用することで詳しく辿る魔術や、場所の記憶を辿る魔術も存在する。今回は人の情報が決定的に欠けているので、後者の魔術を使用しよう。
この屋敷の構造は見たかぎりでは把握している。一度通った場所の地図を頭で作成するように体に染みついてしまっている。今まで通ってきた中で、とくに重要そうな廊下までささっと移動する。おそらく、どこかに隠れるとしても、ここを通るのが筋だろう。
「まあ無難に行きましょうか。『過去の捜索、空間範囲は自分の周り、時間範囲は本日中。対象は……なんか特徴的な人』」
魔術を使った途端、自分の中に、付近の記憶が流れ込む。正確には、ものの動きがわかる程度だが。
その中で普通の人っぽくない動きを探せばいい。主役というのだし、わざわざ逃げているくらいだから、もしも、普通じゃない動きになるはずだ……という勝手なバイアスを押し付けつつ。
果たして、その予想は見事に的中することになる。
とんでもない魔力を持ち歩く人間を感知したのだ。
本来、魔力というものは空間に依存し、人間が体に取り込んでしまう魔力は微々たるものである。ただ普段から魔法を使い歩く人間となると話は別。いったん体に取り込んでそれを変換することがしばしばあるから、体に常に大量に魔力をストックしていることがよくある。
この魔力量は常人がたどり着ける領域をはるかに上回っている。おそらくこれは人外クラスだ。
私はアホみたいに分かりやすい魔力を追って廊下を進み、そのまま庭へと出る。天気は少し曇ってきており、太陽こそ出ていないものの、やはり蒸し蒸しと暑いことに変わりない。
大きな庭には、花壇や銅像、ベンチや大きな木がある。魔力の進んでいく先はというと、その木の方向であるが、そんなところに人がいるわけもなく。
しかしやっぱり魔力はそこに続いているので、木に近づきつつ木の様子を伺う。すると、カサカサと上から音がしたような気がした。
まさか木の上にいるのだろうか。そう思って上を向くも、誰もいるようには見えないが……確かにそこにいる。
「おーい、そこに誰かいますの?」
「……」
さて、どうしましょう……木を揺らしてみましょうか。うーん、こんな大きな木、流石に私の力じゃ動かせませんわ。まだ筋力増加魔法は試していませんし。あれ、体の負担が大きいんですもの、子どもの体でしたら確実にどこかぶっ壊しますわ。
上を眺めつつ、うーんと悩むこと数分。しまいには登ってしまおうかと、呑気に考えていた時だった。
上の存在が消え去った。
そこにあった魔力が消えた。
「!?」
完全に油断していた私は、反応に少し遅れ、そこから数コンマ秒遅れて状況をあらから理解した。
それは移動したのだ。木の上にあった何かは移動した。どこに? 分かっている。分かっているけど、分からなかった。
「お前、なにもんだ?」
後ろから声をかけられる。さっきまで上にいたはずの男の声。早く移動したとか、そういうレベルではない。もはや、瞬間移動、というよりワープに近い。
走馬灯が見える。殺意こそ感じないものの、圧倒的な強者を前にした際の死をも連想させる恐怖。
溢れんばかりの記憶が流れる。三歳、二歳、一歳、零歳、それよりももっともっと前の記憶が流れて……
ああ、思い出した。こんなやつ、いたわ。
こいつの名前は、ユリス。
大丈夫、こいつは勇者だ。
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