第23話 構ってあげようと構ってくる自称お姉様
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ドヤ顔をして、なぜか私を知っていて、何かとつっかかってくる、そんな少女。
彼女の名前はアイラという。
年は八歳、家系はなんと本日の開催者ピスタ家だそうだ。
「ステラ、アイラおねえさまって呼んでくれてもいいわよ」
「アイラ様、よろしくお願いします」
「おねえさまなのよ!」
そんなアイラだが、どうやら今日は何がなんでもお姉さんを務めたいらしい。私をその気にさせようと、彼女はほっぺを懸命に膨らませ、怒りっぽい表情を演出する。あーこわいこわい。
「ノルンは言ってくれるわよね」
「アイラお姉ちゃん……」
「流石ノルンね! おねえちゃんがほめて差し上げますわ、ヨシヨシ」
そしてその行動に、どうやらそこにいたノルンが巻き込まれた、というのがことの経緯だ。ノルンはすっかり体を縮こまらせて、アイラに従っている。やーいまじで怖がってやんの。
ともあれ、確かに周りを見渡しても年上のお方ばかりなので、ちゃんと姉になれるノルンや私に構ってもらおうと構ってくるのは自然な流れだろう。
「しかし、アイラ様――」「おねえさま!」
「しかしア――」「おねえさま!」
「……あなたの周りにあなたのメイドやらはいませんのね、アイラ様」
「きょうは一人だっていわれたの! でも大丈夫よ、私はおねえさまですもの。……おねえさまですもん!」
地団駄を踏みながら訴える彼女の言い分を聞いて、なんとなく簡単なあらすじを理解する。
端的にいうと、大人がみんな忙しいのだろう。
とはいえ、メイド、配膳係、その他関係者は部屋にたくさんいるから、子どもを一人で行動させても問題ない、と判断したわけだ。
実際、八歳が一人で行動することは、そこまで不自然なことではない。
場所によっては、幼稚園児くらいの子どもが大人と対等に渡り歩くなんてザラにある。
しかし貴族社会において、子どもが一人で行動することはかなり珍しいことだ。
私には常にメイドのアルカがそばにいるし、ノルンには常にカルトラがいる。彼女にだって普段はメイドがいるに違いなく、それがいないのは些か不安であろう。
だから、私たちのような同じ世代がいるのを見て安心したのだと思う。
そして、安心すると同時に、自身にお姉ちゃんというロールを割り振ることで、自信をつけることにした。
子どもらしく、それでいて合理的な考え方だ。
「まぁ…………じゃあお姉さま、今日はよろしくお願いします」
そういう経緯なら、まぁ、適当に構ってもらってやるのも悪くない。
「……!!」
私がお姉さんと口にした瞬間、彼女は目を見開いて満悦の笑みを浮かべた。
想像以上に喜ぶものだから、何か徳を積んだのかと錯覚してしまうが、ただお姉さん扱いしただけである。ここまで喜ばれると逆に恥ずかしい。
彼女はホクホクとした表情を数秒浮かべたあと、浮いた心を取り戻すべく、首を横にぶるぶると振って、頼もしい(と本人は思っているドヤ)顔で私たちに目を向けてきた。
「ええ、任せなさい。今日はお姉さんの私が、ばっちりえすこーと、しますわ!」
一体、どんなエスコートをしていただけるのか。楽しませていただこうではないか。
――――――――
つまらん。
つまらん。
変な間の取り方をしてしまう程度にはつまらん。戦闘の訓練として部屋の全方向の人の動きを頭の中で把握し、さらに予測してしまう程度にはつまらん。
顔が広いアイラが大人から挨拶されて、その度にアイラがお姉さんとして率先して話をして、私はアイラに紹介されたタイミングで知らないその大人にペコペコする。
ちなみに私は、本当にここにいる人間を誰も知らないものだから、子どもらしく人見知りのふりをして乗り切っている。あらアルカ、どうしてそんな訝しんで見ているのかしら?
せめてお菓子をたくさん食べられたのならいいのだが、アイラが一生懸命にお話ししている横で、お菓子を持ってきてモサモサと食べるわけにもいかず。もう別行動したいなぁ。
「ステラ、疲れていません? 少しお顔がくもってますわね」
つまらなさが顔に出てしまっていたのだろうか。移動の途中にアイラから心配して声をかけてくれた。
こう見えて、アイラは結構気にしてくれているので、申し訳ない気持ちになる。私が疲れ切っているように見えてしまったのだろう。安心してくださいませ、ただ退屈なだけですわ。
「お姉様が私たちの分までお話ししてくださるので、私は元気ですわ」
「それは良いこと。ですが、元気でしたら笑顔でいなくっちゃだめですわ。私たちの美顔が台無しですわよ」
そう言って、彼女は私の方を向き笑ってみせた。確かに可愛いのだが、歩いている時は前を見なさい。さもないと人にぶつかりますわよ。
まぁ、もっとも、私が周りの人の動きはすべて視ているので問題はありま……
……いや、何かがおかしい。誰だ、そして、なんだ?
私は今、部屋の全方向の人の動きを視ていた。だからアイラがどのように動こうと、私のそれっぽいサポートで対応可能なはずだったが、それは一般論である。
一般論では解決できない動きがある。何かが変だ。
「アイラ様、危ないので前を見てくださいませ」
「あー、おねえさまって言って!」
「いや、今は少しお待ちを」
この部屋のどこからか、妙な違和感があるのだ。
周りを見渡し、問題源の特定に努めようとするが、低身長とドレスで動きが読みにくいことでなかなか感知できず、少し時間が経った。
……あっ! 見つけた!!
少しして、ようやく一人、私の行動予想に大きく反する動きをしている人物に気がついた。
配膳係の女性のようだ。昔ならもっと早く気づけただろうに、随分と鈍くなってしまった。情けない。
慌てて彼女に焦点を当てる。彼女はたくさんのワイングラスをプレートに乗せて、フラフラしながら運んでいた。
「えぇっと、右で左で右で……あわわわ」
ワイングラスのバランスのせいか、それとも彼女のせいか、もしくは私のせいか。
ともかくその女性は私の予測から大きくずれ続けてる。瞬きのうちに予想と逆の動きをするなんて、前代未聞で異常である。
問題は、それが少なくとも意図的な動きではないところ。これはおそらく素の行動で、だからこそすごく不安なのだ。
彼女はどんどん近づいてきて、ついに私たちのすぐそばまでやってくる。私たちには気づいていない様子だが、どうかこのまま通り過ぎてくれれば……
「あら、ステラ。この方がどうかしたのかしら!?」
ばか、今そんな声を荒げたら……
「あっ、アイラ様!?」
ほら、言わんこっちゃない。彼女がびっくりして、バランスを崩してしまった。
そう、最悪だというべきか、案の定というべきか。
彼女が私たちのすぐ横に来たタイミングで、彼女は急にバランスを崩したのだ。
当然、持っていたワイングラスは宙を舞い……
……って、まじかよ!?
「危ない!!」
そう、私が予想していたよりも、はるかに悪い状況だ。
その宙を舞ったワイングラスの先に、アイラがいるなんて。
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