第19話 決めましたわ
お読みいただきありがとうございます。
どうやら、今話は一応節目になりますね。
「あら、可愛いお方、見学者ですか?」
「わたくし、ステラといいますの。見学にきましたわ」
スタスタと教室に入っていき、改めて周りを見渡す。
勉強会に出席しているのはおおよそクラスの四分の一程度だろうか。勉強会は任意ではなく、学校が特別に休日にも勉強を教えるという趣旨のものだ。
「来てもらったところ悪いのだけれども、ここは真面目な人たちがお勉強をしている場所なのよ」
普通なら空気の読めないこんな少女は冷たい目で見られるものだが、私はただの四歳児。場の空気とか、そんなことを気づける年齢ではない。
だから多少の強引さは許される。
私の見た目というものを最大限に利用して彼女に話していくことにした。
「お姉さんもここで勉強しているの?」
「当たり前でしょう? ナナさんと違って、まじめにやっておりますのよ」
「なるほど、お姉さん、きっとまじめで賢いんですね!」
まずは彼女の言葉にのって、彼女に油断させてから、毒を添えて話す。お上品に話すときのお決まりですわ。
「きっとおねえさんも免除生なんですよね、とっても賢い人がなれるって聞いていますもの」
彼女が特別免除生でないことを私は知っている。ナナの頑張りを否定する彼女が特別免除生であるはずはない。
すなわちこれはただの挑発。もっとも、あなたに比べて大変優しいかとは思いますがね。
「いいえ、そのような優しい制度はわたくし不遇な人たちに譲ることにしていましてよ」
ほんの少しのためらいの後、彼女らしい言葉で彼女は返答してくる。もちろん、そのためらいを逃すはずもなくすぐに言葉をのせていく。
「あら、ナナさんと賢そうなお話をされていましたので、てっきり免除生であるものと思っておりましたが、大変失礼いたしました」
もし彼女が本当にナナと同様の成績をとっているのだとしたら、対抗してそのことを言うはずだ。そして同時に、もしそのようでないのなら彼女は黙ることしかできない。
彼女のプライドが、おそらく彼女に嘘をつかせるのを許さない。
私の読み通り、彼女は言葉を失い、悔しそうな顔をする。さらに勉強の話にもう少しつけ込もうか迷ったがこれ以上は不毛だろう。
「ところで貴方、親はいらっしゃらないの?」
しばらくして、返答に困ったであろう彼女は話題を変えてくる。もちろん、そのための返答は用意している。
「そうですわね。親は来ておりませんわ」
「あら、随分と薄情な親なのね」
「ええ、そうなの。こんなお洋服も着せられますもの。あなたの制服のように着崩した格好をしてみたいものですわ」
決して自慢することではないが、私は決して性格のいい人間ではない。洋服のことで彼女はナナに嫌味を言ったのだから、当然同じ報いは受けるべきだ。
「あと私、別に一人で来たわけではありませんわ」
「お騒がせして大変申し訳ございません」
ちょうどいいタイミングで後ろからアルカの声が聞こえる。どうやらたった今教室に入ってきたようだ。
それも当然、私は教室に入る直前、タイミングよく来てもらうようにアルカに伝えておいたのだ。
これも理由は簡単、彼女に隙があると思わせて油断させた後、一つ一つその隙を潰すため。あくまで彼女に嫌な思いをさせるためだ。我ながら性格が悪いと思わなくもない。
そして、メイドのアルカによって場の空気は完全にこちらに傾く。
まず、メメをいじめる彼女の理論において、彼女はついに私をいじめることができなくなる。彼女が私に付け入る隙はなく、ゆえに彼女は私を責めることができない。
「私どもはすぐに離れますね」
そして、アルカの言葉はこの場で大きく作用する。私、ナナ、そしてメメの三人が共に行動することに彼女は口出しできない。大人であるアルカの指示を遮り、隙のない私のことは放っておいて、ナナだけをいじめるなんて、そんなみっともない真似をすることはプライドからできないはずなのだ。
こけているメメの手を取った。メメは今の状況をよく理解していないが、雰囲気だけは察していたようで、少し怯えているようだ。
「アルカのところに行ってね」
小声でメメに伝える。コクリ、と彼女はうなずいて、それからアルカの方へ向かっていった。
「ナナさん、どうされたの? 一緒にいきましょう?」
続いてナナにも声をかけて、手を引いてアルカの元に来た。
「それでは、またどこかでお会いしましょう」
私は彼女の目を見てはっきりとそう告げる。そして、教室のドアを閉めた。
――――――――
「ステラさん、アルカさん、ごめんなさい。私のいざこざに巻き込んでしまって」
教室から大きく離れて、やっと一息つく。不安そうだったナナもようやく安心した顔になり、話しかけてきてくれた。
「心配はいりませんわ。それよりあなたはいいんですの? あんなこと言われて腹が立ちますでしょうに」
ああいう貴族は少なくない。貴族の世界にも上には上があり、上に行けない貴族は下を見てバカにするのだ。
目に見えるものだけを見て人を見下すなんて愚かでしかない。それで自分が上であると考えるのは情けない。
一応お嬢様である私も常々注意していこうと心がける。
「まあ、たまにあるんですよね……でも言われていることは事実だから。お金がないし、この服だってずっと使っていて綺麗なものじゃないし」
「そんなことどうだっていいですわ。私はナナさんの素敵なところをたくさん知っていますもの。今日だって、お勉強をたくさんされていることを知ってナナさんの良いところが一つ増えましたのに」
「ありがとう、ステラちゃんは優しいね」
あんなことを言われて、それでも彼女が悪いと言わないナナの方がよほど優しいと思うのだが、それは私の心の中にだけしまっておこう。
「メメもごめんね、怖くなかった?」
「うーんとね、怖かったけど、ステラちゃんがバーンって来てくれてね、すっごく安心したよ!」
メメが深く傷ついていなくて安心する。派手に登場したのは思いの外良かったようだ。彼女にはこれからも明るくいてもらいたい。まじめな人ばっかりだと退屈だしね。
この時、私はとあることを思いついた。そのために一つ確認しておく。
「メメさん、この学校についてどう思われましたか? 行きたくなったとか思われましたか?」
「うん! わたしね、この学校行きたい! ちょっと怖い人もいるけどね、でもとっても綺麗だし、みんな楽しそうだった! だからね、お姉ちゃんみたいに賢くなれるように頑張る!」
「あら、そうなの。じゃあ私も決めましたわ」
そう、私は決めた。
ラメル家は貴族の中でもトップクラス。この学校においても私の身分はおそらく上の方になるだろう。武器として身分を使う輩は嫌いだが、身分は弱い私たちの盾になる。だから私は決めたのだ。
「私、この学校に入学しますわ。メメさんと同じ学校だと楽しそうですもの」
私は、私の力と身分を使ってこの学校の上に立ち、ナナみたいな人、そして何よりメメを守ってやろう。
お嬢様らしく、守ってやろう。
あれ、お嬢様って守られるものじゃなかった? ま、いっか。
お読みいただきありがとうございます。
小説にしておよそ (一巻の)半分のところでステラの少し大きな決意というものを書きました。
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