第16.5話 甘いお菓子なんて安いもんだ
お読みいただきありがとうございます。
ところで幕間の間 (まくまのま)ってめちゃくちゃ語呂良くないですか? 誤用ですけど。
「おお、もうこんな時間か。そろそろ僕も執事としての仕事に戻らせてもらうよ」
男は席から立ち上がり、そそくさと出口に向かっていった。
「カルトラ様、本日のお菓子もおいしかったですわ」
「ありがとうステラちゃん、また買ってくるよ。それじゃあね」
「ええ、期待しておりますわ」
男の名前はカルトラ。メリダ家に仕える執事であり、ノルンに武術を教える専属の教師も担っている。ただしそれは彼の一面に過ぎない。
「それでは、失礼しました。お嬢様方」
バタン、と扉を閉めて。
カルトラはふぅ、と一息ついた。彼としてはティータイムの後の方が疲れを癒せるものだ。
そうして、ラメル家の屋敷から離れるように歩き出す。今の彼は執事でもお菓子配りのおじさんでもなく。
カルトラは歩きながらしばし思考の海に溺れた。
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長い間自腹でお菓子を買ってきた甲斐があった。おかげさまでだいぶんと情報が揃ってきたよ。
初めの違和感は彼女が三歳の時。あの時彼女には魔法を使った形跡があった。それが彼女によるものなのか、それとも別要因か。もしかすると、というより、できれば俺の勘違いであって欲しかった。
だから、調査をすることにした。
初めはメリダ家からの調査を試みた。しかし、近いとはいえ少しは歩かないと届かない距離。俺の魔法が届く範囲ではない。捜査が得意な「友人」を頼るという手もあった。しかし、この案件は俺だけに留めておくのが良いと判断し、それはしないことにした。
そうなれば、直接家の中に調査に行くのが良いのだが。当然貴族のおうちにお邪魔するなんて真似は簡単にはできない。幸い、メリダ家とラメル家は非常に仲が良いため、そこまで警戒レベルは高くないのだが、それでも警戒はされるわけで。
ここで、アルカちゃんをうまく使うことにした。アルカちゃんは僕に気があるように見える。少なくとも仲良くやっていけそうだ。これを利用しない手はない。
都合のいいことに、アルカはそのほかのメイドやらとも良好な関係を築いているようだ。そこでアルカの名前で心の壁にヒビを入れ、そこに大量にお菓子を送り続ける。庭師とも仲良くなり、入り口にいるメイドらとも仲良く話を広げて。
しばらくするうちに部屋にあがることを許されるまでに至った。なんといっても自分の要領の良さに感服せざるをえない。
まあ、メイドのミラからはたまに煙たがられるけれど、あんなおばさ……失礼お嬢様は放っておこう。
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部屋の中ならば、俺の『捜索』も手が届く。
「『この部屋と俺を繋げよう。たった今、俺はここの記憶の主となってみせよう。過去の捜索』。エリアはこの部屋。モノ、魔力、それらの動きの記憶を辿れ」
心の中でそう呟く。空間に干渉する魔術で、まあここ最近はあんまり出回っていない禁術の類である。最近は皆プライベートに厳しい。
頭の中にこの部屋の記憶が流れ込む。人の流れ、空気の流れ、魔力の流れ。それらを手にとるようにつかみとる。部屋の中は外よりも色々な流れがこもりやすい。故に、記憶は外よりも鮮明に見えるのである。まあ、それでもせいぜい過去に関しては物体が動いていることが確認できる程度で、一度の魔法での特定は容易ではないのだが。
ふーん、なるほど。誰かが動いている。変な動きだ。何かを持っている。本か何かか? 魔力の動きを感じる。おそらくこの誰かに違いない。それから、風の動きがあって、あ、人が増えた。
それからそれから――
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こうして、俺は少しずつ断片的な情報を集め続けた。そして今日をもって、ある程度確証を持つ結論に至ったわけだ。
ステラは魔法を使っている。これはまず間違いない。そして、本を読んでいる。その本は、ベッドの下に隠してある子ども向けの本であったり、少年向けの本であったり。それはいいとして、問題は明らかに魔法に関する本を読んでいることだ。ただ見ているだけではない、明らかに理解しながら読んでいる。時に実践していることも魔力の動きからほとんど紛れもない事実といって差し支えない。
はっきりいってこれは異常だ。並の四歳が高等魔術を使うなんて話、フィクションであってもデタラメだと笑われる。しかし、俺がここまでの調査で間違った結論に至ることは断じてない。俺は俺を最も信じている。
だから、これは紛れもない事実なのだ。
この情報をどうするべきだろう。国の機関に売るのも悪くない、俺の地位は間違いなく上がるだろう。しかし、その場合ステラはどうなるのか、僕としての生活はどうなるのだろうか。
正直、今の生活にだいぶ満足している。ある程度の落ち着きが得られたし、命の危険だってそこまでない。本業の方をサボっていてもあまり咎められない現状は非常に気が楽だ。
それに、この情報は本当に俺しか知らない。まあ多少アルカちゃんらが疑惑をかけているが、彼女らの生きるメイド社会はある種の隔離社会、情報漏洩に関しては俺が上手くやればそこまで問題がないといえる。
そうなった場合、ここでこのカードを使うのは非常にもったいない。このカードはもっと効果的に使えるはずだ。
ステラはまだ四歳、もう少し身が乗るのを待ってもいいだろう。おそらく彼女は俺たちが簡単に制御できるはずもないし、この環境下ですくすく育っている以上、勝手に腐るタマでもない。
この情報を得るためにたくさんのお菓子代を使ったが、そんなもの、こんな破格の情報に比べたら安いものである。甘味で釣れた情報はそんな甘味なんかよりよっぽど美味しいのである。
さあて、このカードをどうするか。それは俺の裁量次第だ。
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カルトラは少し歩いてメリダ家へ。
気を引き締めて、今日も彼の仕事を勤め上げる。
お読みいただきありがとうございます。
番外編ですけれど、よく考えたら今回は幕間ではないなあ。そう思って今回は幕間の間ではないようにしました。
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