第9.5話 幕間の間 ありえないけどありえない
お読みいただきありがとうございます。番外編です。
カルトラは恐ろしいものを見た。
それは、おそらくあそこにいた中で彼にしかわからないことだった。
「これは、明らかにおかしい」
それは、ノルンと遊んでいたある日のことだった。ノルンが体勢を崩したのは明らかで、こけるのも目に見えていた。彼の技術を使えばそれを止めることは容易だったのかもしれない。ただ、3歳が助走なしでこけたところで、致命傷にはならず、男であるから傷の1つや2つでそこまで大きな問題にもならない。だから別にこけるのを見ているだけでいいのだが、さてどうしようかと悩んでいた時であった。
親戚の家の子供、ステラお嬢様が走ってきた。いや正確に言うと、走っていた。
いつ走り出したかは定かではない。気がつけば、尋常じゃない速度で走る女の子の姿がそこにはあった。その速さは子供のものではない。子供が出していい速度ではない。
彼女の足を見る。その一歩は大きすぎるのだ。まるで、空を飛ぶように。
気がつけばカルトラは彼女の動きに見入っていた。ノルンがこけているのを忘れるほどに。
そして、そんなことはあり得ないのだが、彼女はこける前にノルンに届いた。そこから、ノルンを支えて……支えて?
「いや、こけるんかい」
カルトラはひどく安心した。彼女はただの女の子である。そう思い込むことができたのだから。
不安から解消されたカルトラは、ひとまずしゃがんでノルンと向き合う。おお、必死に涙を堪えている。女の子がいるからかな?
そして、ステラに目を向けた。彼女の方には、彼女のメイドのアルカが近寄っていくのが見える。そして、ステラはというと、よく見ると手に怪我をしているではないか。
「これはなかなかまずいなあ」
お嬢様が傷ついたとなれば、仲が良い家となっても黙ってはいないだろう。そうなった場合カルトラにも厳重な処分が下される恐れがある。
どうしようかと考える。まあ、一執事ではどうしようもないのだが。
そんなことをいっている間にアルカはステラに話しかける。どこか怪我はしていないかと。ステラはシラを切っているが手となると時間の問題だろう。
案の定アルカはステラの手を無理やり取ろうとしている。もちろん、普通に3歳の少女が大人の力に反抗できるはずもなく。ステラの手はあっけなくアルカに見られて、そして……
少しだけ見えた彼女の手は無傷だった。
見間違いだったのだろうか。いや、そんなはずはない。さっきまで彼女の手には傷がついていたはずなのに。
カルトラの脳裏には一つの仮説が思い浮かぶ。決してありえない、されどこれしかありえない、そんな仮説。
ステラは魔法を使っているのではないか。
「これは詳しく調べてみる価値がありそうだ」
カルトラは今日も執事を執行する。
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