epilogue
本編の後日談です。
かなり短めとなっております。
ラウドの処遇が決まった後のこと。
イーリスは最高神が座す執務室を訪れていた。
「スーリア様、イーリスです」
「入るが良い」
入室の許可を得て、イーリスはドアを開けた。
スーリアは外を眺めていた顔をイーリスの方に向ける。
「先のラウドが起こした一件の詳細を纏めました。目通しをお願いします」
スーリアに詳細を纏めてある紙束を手渡した。
椅子に座り、ペラペラと捲りながら読み進めていく。
そして半分ほど読み進めた頃。
イーリスはおもむろに声を掛ける。
「あの」
「何だ」
スーリアは一瞥もせずに聞き返した。
「ラウドの処遇はあれでよろしかったのですか?」
「ほう。私の処遇に何か不満でもあったというのか?」
イーリスはその返ってきた言葉に背筋がぞくりとする。
気づけばスーリアの目はイーリスの方を向いていた。
「い、いえ!そんなつもりでは!ただあの様な重罪、本来であれば消滅が妥当であるはず。それを追放になされた御身の思惑が気になった次第でして....」
イーリスはまさに蛇に睨まれた蛙のように震え上がりながらも自らの見解を話す。
「ふむ、確かにそう思うのも道理か」
「ええ、御身は地上から天界に召されてすぐにその頭角を現し、わずかな時間でその最高神の椅子にまで登り詰めた方。その判断に間違いなどあろう筈も無いのです。であるならばそう思い立ったその根拠などを私にもご教授頂ければと思うのですが」
「いいだろう。これにも目を通し終えた。手も空いたことだし付き合ってやるとしよう」
スーリアは紙束を机に置くと再び立ち上がる。
「何故、追放にしたかと聞いたな。それはあのラウドという者が強い愛を持っていたからに他ならない。彼が最後に放った言葉はまさに強き愛の証左。無為に消してしまうには惜しい物である。神としては不要であるが人間であれば重宝しよう。故に彼を適した場所に送ったまでだ」
「愛ですか....私には分かりかねますが。スーリア様は愛という物を理解しておいでなのですね」
「どうだろうな。今の神は愛する対象がない。人間とも自分以外の神ともほとんど直接的な接点がないからだ。それは私とて例外ではない。今はこうして其方と話しているがそれも珍しいことである。そんな中で愛を理解できるとは思えぬがな」
「私はそうは思いません。やはり御身の判断は愛を理解していなければできないように思います」
「そうか。とはいえ私に分かることと言えば彼がきっと必ずあの子を幸せにしてくれるということくらいなのだが」
そう言って少し笑うスーリアの顔はイーリスにはまるで子を思う父のように見えた。
ここで一つ思い至る。
彼が愛しているといったあの少女をあの子と呼んだ。
そしてこのお方は地上からここへと召されている。
ということは。
「もしや......あなたはあの娘の.....」
「言うな。イーリス。ここにいる私は最高神スーリアである。それ以上でも以下でもない」
「失礼しました。過ぎた真似だと恥じております」
「良い。此度はご苦労だった。もう下がれ」
「はっ。失礼します」
イーリスはスーリアに一礼して部屋を後にする。
イーリスが去った後。
スーリアはイーリスが来る前にしていたように窓から外を覗く。
そこからスーリアが見るものは、地上の一つの街。
そして大きな街にあるそのささやかなベーカリーを見つめていた。
そのベーカリーにいるのは、1人の少女とかつて神であった少年。
お互いに笑い合い、幸せそうに暮らす様子を見てスーリアは零すのだった。
「幸せにな、カリン」
この言葉は決して彼女に届くことはない。
もはやその身は人間ではなく神であるからだ。
しかしかつて父であった最高神はこの遠く離れた地でかつての娘の幸せを願っていた。
これで更新は以上となります。
読んでいただきありがとうございました。




