Part6
「おいお前ら!早くその女を拐え。今回の戦利品だ」
リーダーは手早く仲間に指示を出す。
「ちょっと!離しなさいよ!やめて!」
近づいてくる盗賊に必死に抵抗するが、やはり男の腕力に勝てない。
瞬く間に呆気なく捕まってしまった。
「カリン!」
ブランは私を取り戻そうとするも私にナイフが突きつけられているため、身動きが取れない。
「へっ!動くんじゃねえぞ。ちょっとでも動いたらこの女を今すぐ傷物にしてやるからな」
何もできない無力さに俯くブラン。
きっとブランだけだったならこんな事にならなかったのに。
私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
そんな中、盗賊はとんでもない事を言い出す。
「なんだよ。呆気なくてつまんねぇじゃねえか。おいお前ら、そのナイフでこの女を剥いて差し上げろ」
「なっ......おい!やめろ!頼む....やめてくれ!」
「きゃあ!ちょ、やめて!」
ブランの制止も私の悲鳴も盗賊たちには届かず、私の服はあっという間に切り裂かれ下着が露わになってしまう。
「へへっ。いい身体してんじゃねえか。どうせお前も随分楽しんだんだろ?俺にもちょっと分けてくれや」
リーダーは拘束された私を剥くだけでは飽き足らず、尚も触れようとする。
「来ないで!ねえやめて!ブラン!助けてぇぇ!」
そう、私の悲鳴が響いた時。
「カリン!!!!」
私の名前を叫ぶ声がして。
一陣の風が吹いた。
その風が去った後。
目を開くと、目の前のリーダーの首が消えていた。
頭を失い、そのまま倒れこむ身体。
そして私を拘束している盗賊が呟く。
「一体、何が」
また風が吹き、私の後ろで何かが落ちる音がする。
それと同時に私の拘束が緩んだ。
私が首に回された腕を押しのけるとその腕が付いていた身体はそのまま、倒れ込む。
拘束が解けよろめく私は足元に何かが当たる感触に気づいた。
それを見た時、私は心臓が凍りついた。
ごろりと転がる人間の頭。
私は腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。
この場にほんの一瞬で2つの死体が出来上がった。
盗賊たちはやがてその事実を認識する。
「ば、化け物だ!!」
誰かが叫んだことを機に方々に逃げ始めた。
そしてすぐに絶望を知ることとなる。
もう既にこの一帯は見えぬ風の壁に覆われていた。
認識できるのは四方八方から聞こえる風の音のみ。
だが確実にその見えぬ壁は盗賊たちの退路を阻んでいた。
「何処へ行く?人間ども」
逃げ惑う盗賊たちに掛けられる声。
明らかに殺意が篭っていることが分かるその声の主は。
紛れもなく、ブランその人であった。
「ブラン.....」
彼からは何かオーラみたいなものが溢れ出している。
眼は妖しく光を発し、とても今まで見ていたブランと同一人物だとは思えない。
「逃しはしない。風双刃」
彼が風双刃と呼んだ2つの風の刃は次々に盗賊たちを切り裂いていく。
響く悲鳴。弾け飛ぶ血飛沫。そして増えていく死体。
この光景を形容するなら。
まさに地獄絵図という言葉が相応しいだろう。
やがて、盗賊たちはただの1人として動かなくなった。
ブランはただそこに立ち尽くしている。
既に先程の雰囲気は失われているが、彼は一体どうしてしまったのだろう。
この状況、本来なら言葉を失うほどの衝撃を受けるだろうが、私はそんなことよりもブランのことで頭がいっぱいだった。
あんなに優しかった彼が。
お店で働いていた時もお客さんに常に屈託のない笑顔で接していた彼が。
私を助けるためとはいえ、ここまで残虐なことをするなんてとても信じられなかった。
今でもさっきのブランを思い出すと怖い。
あれはブランであってブランでないような、そんな感じだった。
とその時。
立ち尽くしていたブランが崩れるように倒れた。
「ブラン!」
私はすぐさま駆けよろうとした。
あと数センチ。
そんなすんでのところで私の手は遮られる。
そこにいたのは、ブランを両脇から抱える2人の人物。
何か見えない壁のようなもので遮られ、体勢を崩し座り込んでしまう私。
フード付きの白いローブに身を包む2人はこちらを見下ろしている。
「おい、そこまでだ」
そう私に話しかけるのは長身の白ローブ。
声色からして男のようだが.....。
「ほら、シューゴ。それだけじゃダメだ。ちゃんと説明しろ」
「ちっ。俺はそんなの得意じゃねんだよ。知ってんだろうが、イーリス姐さん」
シューゴとイーリスというらしい2人が私の前で言い争いを始める。
私しか何のことやらさっぱりだが、とにかくブランが心配だ。
「あの、ブランは大丈夫なんですか?」
私は恐る恐る聞いてみる。
「ん?ブラン?ああこのバカのことか。それなら心配いらない。少し力を使い過ぎただけだからな」
「つーか、大分派手にやったよなぁ。ラウドのやつ、こんなキャラだったっけか?」
イーリスという女性の言っていることはわからないが、とりあえず心配ないと聞いて安心する。
無事なら良かった。そう心から思う。
だが今の会話。1つ聞き覚えのある単語が聞こえたのが気になった。
ラウド。それは間違いなく私の故郷の名前。
どうして今それが出てくるのか。
「ラウドって....?」
「ああ?そりゃこいつの名前だ。お前知らなかったのか?そうかそうか、てっきり俺は名乗った上で好き勝手やってんのかと思ったぜ」
ますます疑問が深まる。
ブランがラウド?
どういう事だろう。
そんなことを考えているうちにブランが目を覚ます。
「ん......うっ...」
「ブラン!」
「ようやくお目覚めか。さあ事情を聞かせてもらうぞ。ラウド、お前何でこんな事をした?」
シューゴさんがブランを問い詰める。
胸ぐらを掴み、今にも殺してしまいそうな勢いだ。
「おい、やめないか。シューゴ。とはいえ、事情は聞かせてもらうぞ、ラウド」
「.......シューゴとイーリスか。そうか僕は力を使ってしまったんだな」
「そうだ。地上から尋常じゃない量の神力が感じられた。これは間違いなく恩恵によるものではなく直接行使。前代未聞の出来事に上は大騒ぎだ」
「なるほど。それで飛んできた、と」
「おい、冷静に語ってんじゃねえぞ。てめえのせいで俺らまでとばっちりだ。わざわざ地上まで来て連れ戻してくるよう命じられたんだからな」
「だからやめろと言っている。なあラウド。何故だ?お前は今回だけじゃなく度々地上に降りていたな。禁忌を犯してまで地上にくる事に何の意味があった?」
「意味だって?」
今まで淡々と話していたブランであるが、その時だけ少し感情がこもる。
「意味とかじゃないんだ。僕はただ....カリンの側にいたかっただけなんだ」
「側にいたかっただと?それは神である我々にとって禁忌だ。一個人に干渉することは許されない」
「もちろん、分かっていたさ。でも僕は....あの時の選択をずっと引きずっていた。そして謝るべく降りた地上で彼女に恋をしたんだ」
「恋だぁ?神であるお前が人間に恋したってのか?ははは!そりゃ傑作だ!!」
「もうお前は黙ってろ、シューゴ。あの時....。もしやお前が管轄していた町の夫婦がモンスターに襲われた時のことか?」
モンスターに襲われた夫婦?
それは.....まさか....
「それって.....」
「そうだ、カリン。君の両親だ。僕は君の両親を殺した」
そういい放ったブランは私に全てを話し始めた。




