Part2
区切りの都合上、短めですのでご了承下さい。
「.........!........さん!カリンさん!」
自分を呼ぶ大きな声。
そして揺さぶられる身体に気づき、顔を上げる。
「ん......ん?って!あっブラン君!?」
寝ぼけた頭が起きてきて、次第に視界のピントが合ってくる。
はっきりとしてきた視界に映ったのは常連のブラン君だった。
「ブラン君!?じゃないですよ。何で店を放ったらかしで寝てるんですか」
寝起きにぶつけられるド正論にぐうの音もでない。
「いやーちょっと寝不足で。ごめんごめん」
両手を合わせて、目の前の常連さんに謝罪する。
「で結構待った?」
「いや来たところですよ。幸い揺さぶったらすぐ起きましたし」
「起こしてくれてありがとね。お礼と言っちゃなんだけど今日はパンの代金はいいよ」
「え、それは悪いですよ!ちゃんと払いますから」
「いいっていいって。どうせロールパン1個でしょ?」
「..........まあそうですけど」
「大体、いっつも同じので飽きないよねぇ。しかもロールパンなんてあんまり人気ないのに」
自分の焼いたパンに言うのもなんだがロールパンはあまり人気がない。
でも彼は開店初日に来てから度々来て、決まってロールパンを買っていくのである。
そんな彼が気になって、いつだったか話しかけたことをきっかけに今では悪態をつきあうまでに仲良くなった。
「ロールパン、美味しいじゃないですか。僕はシンプルなのが好きなんです」
「ふーん。まあでもそんな君みたいな人が一定数いるみたいで一応焼いた分はいつも売れるんだけどね」
「へえ、凄いじゃないですか」
「焼く絶対数はどんどん減って来てるけどね」
「・・・・・」
開店当初は20個程焼いていたロールパン。
もう今では5個ぐらいしか焼いていない。
これはロールパン自体に人気がないというのもあるが、他のパンが人気でそっちにリソースを割いていることの方が大きい。
いくら小さいとはいえ、切り盛りしているのは私1人。
焼けるパンの量は限られているのでこればかりは仕方がないのである。
「でも大丈夫。ブラン君が来てくれる限りは焼き続けるつもりだよ」
「それならいいですけど.....」
と会話を挟みながら、ロールパンを紙袋に入れてブラン君に渡す。
再びブラン君はお金を渡そうとしたが、私はそれを突き返した。
「それで仕事の方はどうなの?」
無理矢理お金を突き返した手前、なんだかバツが悪いので世間話で誤魔化す。
「え?あ、仕事ですか。まあ可もなく不可もなくって感じですかね。あんまり変わらないですよ」
そう言ってブラン君は苦笑いを浮かべる。
そんな彼の仕事は冒険者である。
白を基調とした街並みで有名なこのレイアロンだが、それ以外にも特徴がある。
それは街の外れに数多く残された遺跡だ。
この世界には多くの遺跡が発見されているが、このレイアロンではそれが異常に多い。
何せ、発見された遺跡の4割がレイアロンの管理する遺跡である。
そんなわけで、レイアロンは街並みを観光しに来る観光客に加えて、遺跡探索に挑む冒険者が多く出入りする。
ちなみにPariaのお客さんの割合もそれに準じたものになっている。
このブラン君も例に漏れず、遺跡探索に挑む冒険者の1人だ。
「へえー冒険者って一攫千金って感じするけどね。そんなに景気良いって訳じゃないんだ」
「そんな人は一握りですよ。みんな遺跡のモンスターの素材とか中で取れる鉱石を売ってなんとか生計を立ててるんです」
「実際それで生活は出来てるんだろうけど、ぶっちゃけ儲かってるの?」
「じゃあ逆に聞きますけど儲かってるように見えます?」
ブラン君はこの格好を見ろと言わんばかりに手を広げる。
彼の装備を順に上から見やる。
上半身から足元に至るまで、全ての防具には傷が多く付いており、色も褪せている。
腰に刺した彼の武器であろう短剣もとてもじゃないが値の張る代物には見えない。
「ごめん。見えないわ」
「ね?ご覧の通りって感じですよ。正直1日でも欠かしたら生活だって危ないですから」
「うへぇー、大変だねえ」
多分、自分には出来ない仕事だと思う。
私だって人に負けないくらいに波乱万丈な人生を歩んできた感じはある。
だが色んな人の援助があっての賜物だ。
おそらく私1人の力ではここまで来れていないだろう。
でも彼はどうだろう。
彼の生い立ちまで詳しく聞いたわけではないが少なくとも今の彼は自分の命を危険に晒してまで自分の生活を守っているのだ。
人にはそれぞれに生活があり、そこには個々人の価値観があって、決して優劣で測るものではないと思っているけれど。
彼の生活に対する在り方は純粋に尊敬できるものだと感じている。
「でこれからまた遺跡?」
今は午後とはいえ、まだまだ日は高い。
「いや今日はもう帰るつもりです。ちょっと用事もあったので」
「あ、そうなの。まあ気をつけて帰りなよー」
私は店を出て行こうとする常連さんを見送る。
さあちょっと寝てしまったし、調理場の掃除でもするか。
そう思って席を立つと入り口でまだブラン君が立っていた。
何処かそわそわしているのは気のせいだろうか?
「どうしたの、そんなところに突っ立って」
「あっいえ、その......」
「一体なんなのさ。言いたいことがあるならはっきりいいなよ」
「その.....えっと....」
やっぱり様子が何かおかしい。
いつもならこんなことないのに。
そんな疑問が頭を飛び交っている内に。
彼は思い切ったような大きな声で私に告げるのだった。
「あの......今度のお祭り、僕と一緒に行きませんか!?」
それは紛れも無いデートのお誘いだった。




